第1話・異世界転移

1-1・前日~オンラインゲーム

 高校2年生の3月。

 目の上のタンコブだった3年生は殆ど登校しないので、何となく気楽な時期。

 大学入試か専門学校か就職、どれを選んでも、もう1年を切り、漠然とした不安があって何となく焦るんだけど、まだ先のようにも感じる時期。

 あと1ヶ月で最高学年となり、漠然と将来に向けて歩み出す・・・そんな時期。


 僕等が通う千幸せんこう高校の生徒は、ほとんどの人が4年制大学か短期大学に進学をする。

 僕は、まだ具体的に未来像を決めていない。起業するとか、配信で稼ぐとか、そんな度胸は無く、どの学部を目指しているってのは無いけど4年制大学には進学したいと思ってる。だからって、あてもなく進学して、4年間遊びたいわけじゃなくて、行くからにはちゃんと学びたい。「そろそろちゃんとしなきゃ」と思いつつも、何をどうしたいのかは後回しにしちゃっている。


智人トモは、なんか決めてるの?」

「俺は関東圏の大学に行きたい。尊人ミコは?」

「まだ決めてない。県外に行きたい・・・くらいは考えてるけど」

「一緒に関東圏に行って遊ぼうよ」


 友達の徳川智人とくがわともひとの家で一緒に宿題を終わらせて、今はゲームをしている。

 智人トモがハマっているオンラインのアクションゲーム。町にある冒険者ギルドってところで、いくつもある依頼の中から自分達のレベルに合ったものを選んで依頼を受け、クリアを目指す。寄せられる依頼は、偉い人の警護や、凄く強いモンスターの討伐から、町の外に出て薬草を集めてくる等々、ピンキリに有って達成報酬は難易度に応じてさまざま。「1人ではクリアが難しいんじゃね?」ってレベルの、高難易度の依頼を受ける場合は、他の冒険者(見知らぬ人)とパーティーを組んで協力プレイをすることもある。


 ・・・と、まぁ、今の説明はやりこんでる智人トモの受け売り。智人トモの操作するキャラはレベル80くらいで、先日は見知らぬ人と組んでドラゴンを討伐してきたらしい。

 僕の操作するキャラはレベル7。町の周辺に出現する人間サイズのモンスターくらいは倒せるようになったけど、洞窟や山まで遠征して大きいモンスターと戦えるようなレベルではない。ボスモンスターと戦う以前に、目的地に辿り着く前に死んじゃうだろう。

 今は、智人トモのキャラが、見事な二刀流裁きで、モンスター=キメラをフルボッコにしている。


「俺がだいぶ弱らせてやったよ。尊人ミコがフィニッシャーをしろよ」


 このゲームでは、トドメを刺した人がモンスターの持っていたアイテムを優先的に貰えるルールになっている。智人トモは僕にアイテムを譲ってくれるつもりなのだ。


「ああ・・・うん、ありがと」


 僕はキャラを操作して、キメラに向かって剣を振るった。


「うわっ!マジか!?そこで空振りする!?

 ちゃんと間合いを詰めなきゃ!アレスの剣が泣くぞ!」


 僕のキャラは、智人トモが以前使っていたアレスの剣っていうのを借りている。僕の持ってた武器じゃ「話にならない」らしい。「武器ってより美術品じゃね?」「作った人、スゲー手間をかけたな」って感じの剣なんだけど、装備してステータスを確認したら、攻撃力がメッチャ上がっていた。


「ああ・・・ゴメン」


 もう一回空振りしたあと、どうにかキメラにトドメを刺した。


 僕は“擬人化した動物と共同生活をする”的なスローライフのゲームが好き。ぶっちゃけ、アクションゲームが苦手だ。接近戦では頻繁に空振りしたり、ボタンを連打しまって無駄な乱打戦になってダメージを喰らいまくる。遠距離で弓矢や魔法を使うとまるっきり明後日の方向に攻撃をしてしまう。智人トモのキャラに攻撃を当てちゃったこともある。まあ、智人トモのキャラは強いから、僕の攻撃を喰らったくらいじゃ死なないけどさ。


 そもそも論として、なんでモンスターと戦っているのか解らない。モンスターが町に攻めてきたなら戦わなきゃ成らないけど、草原に立ってる脳筋みたいな巨人に襲いかかったり、大きなライオンみたいなヤツの後ろに回って奇襲したり、洞窟に押し入ってモンスターが集めた財宝を強奪したり、山で眠っているドラゴンを袋叩きにしたり・・・やってることは犯罪じゃん。そりゃ、モンスターだってムキになって反撃してくるよ。

 まぁ、弱っちい僕が言っても、ただの言い訳になっちゃうけどさ。


「もう一歩踏み込まなきゃな。

 被ダメが怖いならプロテクターも貸すよ」


 智人トモが以前使っていた鎧を借りて装備してみる。それまでは雑兵みたいだった見た目がメッチャ格好良くなった。ステータスを確認したら、防御力が凄まじく上がっている。「担いでいる袋に中に、何でこんな大きな鎧が入ってるの?」という疑問は持っちゃダメ。袋には、どんな物でも、何個でも入るルールになっている。


「あれれ?なんか、足がスゲー遅くなっちゃった」

「ありゃ?阿修羅の鎧を装備するには筋力が足りないかな?

 もしかして、さっきの空振りは、剣が重すぎて踏み込みが遅くなった所為か?」

「どうなんだろ?よく解んない」

「もう少しランクの低い装備をやるよ」

「うん、ありがとう。

 剣とか鎧とか、凄いのいっぱい持ってるんだね。高かったの?」

「ゲーム内通貨で買えるのは、中級レベルの冒険者向けくらいまでだ。

 俺が装備してるのは課金ガチャのアイテムだよ」

「へぇ・・・課金してるんだ?沢山してるの?」

「いや、気が向いた時にチョットだけ・・・」

「へぇ・・・チョット課金すれば、こんなスゲー武器がもらえるんだ?」

「・・・・・・・・・・・・・」


 凄いとは思う・・・が、僕は課金するつもりは無い。


「あっ!レベル8になった!」


 パーティーを組む場合、モンスターを倒して得られる経験値を「等分する」と「活躍度に応じて按分する」のどちらかに設定する。今のモンスター討伐では、トドメの一撃以外のダメージは智人トモが与えた。「按分」だったら、僕がもらえる経験値は1/10以下だろう。だけど、智人トモが「等分」にしてくれたので、今のレベルには充分すぎるほどの経験値を得られたのだ。


「よし!次、叩きに行くぞ!」

「うんっ!」


 智人トモにちょうど良い狩り場では、僕のキャラが即死をしてしまう。だから、智人トモは、こんな狩り場で戦う必要なんて無いのに、僕を楽しませる為に僕のキャラレベルに合わせてくれているのだ。


「世間は春休みなのに、俺達は登校かぁ・・・。めんどくさ」

「仕方ないよ。2年生のカリキュラムが終わらないまま放置じゃマズいからね」

「おっ!オーガ発見!後ろに回り込んで一発入れてみろよ。

 上手くヒットすれば、1/3くらいはHP削れるぞ」


 僕達は、脳筋みたいな巨人を見付けて襲いかかる。


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