第三章
第1話 夢のような日々 R15
「あっ」
保科先生の唇が私の首筋を這う。
ぞくぞくと快感が這い上がってくる。
私の胸を先生の手が弄ぶ。
「せん……せ……い……あぁ」
「佐倉……そんな声で先生なんて言うんじゃありませんよ。悪いことをしてる気分になる」
「あぁん……悪いことじゃ……ないんですか?」
「……悪いこと、ですね」
保科先生の舌が敏感なところを舐める。
「はあ……ん。せんせ……」
声が漏れた私の口を先生が塞いで、舌を割り入れた。
「んんん……」
本当に好きな人の愛撫はこんなに気持ちいいなんて。何もかも捨ててもいいと思えるぐらい幸せ。
先生が唇を離した。私はねだるように先生を見つめる。
「可愛い目ですね、佐倉。『先生』、はやめましょう。圭介と呼んでみてごらん」
私は少し戸惑う。先生を下の名前で呼ぶなんて。恐れ多いような。
「呼ばないなら、続きはなしだよ」
そう言いながらも先生は、指で私のウエストを焦らすように触る。
「せん」
「圭介、ですよ」
先生の指が止まり、私は反射的に、
「けいすけ」
と声にした。
「いい響きですね。もう一度、呼んで」
先生はそう言って私の首の付け根を甘噛みした。背筋が泡立つような気持ちよさに、
「けい……すけ……!」
と私は声を絞り出す。
「貴女の声、顔、仕草。すべてがなんて可愛いんだろう。もっと弄ってあげましょう」
「やだっ、あっ! けい……ああん!」
私は押し寄せる快感に保科先生のことしか考えられなくなる。
「圭、介……! 私も名前で呼んで欲しい……! 馨って」
ずっと夢だったのだ。先生に名前を呼ばれること。
先生は愛おしそうに私を見つめ、
「馨……」
と甘い声で私の名を呼んだ。
しびれるような快感が全身に走った。
ああ!
「もっと……!」
「馨。馨……! 貴女は可愛い……」
「あっ! けいす…け! そんなところ舐めちゃ、イヤっ!」
「貴女の蜜は甘い。もう、我慢できません」
「圭介……! ください!」
先生の体温が私の体温と溶ける。先生の重み。私は先生の背中をかき抱く。
こんなことが現実になるなんて。
先生の余裕のない顔が、愛おしい。先生と一つになることにこれ以上ない喜びを感じる。今、先生は私だけのものだ!
「いけませんね。馨が可愛くてついつい虐めてしまいたくなる」
「あん! 先生の、ばか」
「まだ先生なんて呼ぶのか、馨は?」
「圭介、で、す……! ああっ!」
保科先生と私は何度か逢瀬を重ねていた。
先生は情事の後私に優しくキスをして、そしてたばこを一本吸う。そのあともう一度ベッドに戻ってきて腕枕をしてくれる。
こんなことしてはいけないのは分かっている。きっと先生も分かってる。
でも、甘い時間は心地よいだるさで私の思考を曖昧にする。
もう少しだけ。ううん。本当は違う。ずっと先生とこうしていたい。永遠に。
「先生の腕、意外と筋肉付いていて驚きました」
先生の腕枕をしていない方の手を私は触りながら言う。
「意外、ですか? 黒板に数式をたくさん書くのはそれだけで腕も疲れるほどです」
「ふふっ、そうでした。いつも凄い勢いで書いてましたね」
生徒と先生だったのが今では遠いことのように思える。それは少し寂しくもある。もう、私と先生は、以前のように純粋な生徒と先生の関係には戻れないのだ。自分で選んだこと。
後悔はしてない。
「どうしました?」
先生が私の目を覗き込んでくる。
「いえ、幸せだな、と思っただけです。何度も夢見た先生の腕の中」
保科先生は私の唇を啄むようにキスをした。
「可愛いことを言ってくれますね」
そして今度は深いキスをする。舌が私の舌と絡み合う。
好きな人とのキスはこんなにも気持ちいいものなんだ、と私はうっとりしてしまう。
「馨、そんな顔をされては帰り辛くなりますね」
「ずっと一緒にいられたらいいのに」
言ってしまって、私は慌てて頭をふる。
「う、嘘! 今のはなしです」
「嘘ですか? それは寂しいな」
先生は魅惑的な目で笑った。
「え?」
「私も一緒にいたいですよ? 意外ですか?」
私は先生に抱きつく。
「嘘でも嬉しい!」
「本当に可愛いな、馨は。もう一度したくなる」
「あん!」
***
先生と別れる時は切なくなる。
今度がいつかわからない。もうないかもしれない。そんな不安定な関係だ。
「また会える時に連絡しますよ」
先生はそう言って私の頭を撫でた。
「待ってます」
私はそう返して、車のドアを開けた。そして振り返らずに歩く。先生は私の家からやや離れたところで私を降ろしてくれる。そして何もなかったようにすっと車を出す。
誰にも見られたらいけない関係。それは少し悲しく、そして少しスリリングだ。
「ただいま」
罪悪感から、私は母の目を見ずに、早足で歩く。
「最近遅いわね」
「うん。ゼミのレジュメを作るのが大変なんだ」
簡単に嘘がでた。
「あまり無理しないでね? ご飯は?」
「ごめん、今日は食べてきちゃった」
「そう。なるべくいらない時はメールぐらいしてね」
「うん、ごめん。次からそうする」
私は二階の自室に上がるとパタンとドアを閉めた。
「お風呂は~?」
下から母が叫んでる。
「疲れたからもう寝る~」
言い返してパジャマに着替える。ホテルでシャワーを浴びてきた。
ベッドに入って先生との時間に思いを馳せる。
先生って、エッチのときはドSだわ。でも、触れる手は優しい。とろけそうになる。セックスは好きというほどではなかったけど、先生とのは本当に気持ちがいい。先生はどう思ってるのかな? 私、先生を満足させられてるかな?
そんなことを考えながら眠りにつくと、先生とホテルにいる夢を見た。 夢の中でも私は幸せだった。
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