第11話 悪たる所以
傾いた月が照らす砂漠を、一陣の風のように突っ切る。
『作戦ポイントにはキャリアーの存在が確認されてる。マルティを潰したら物資漁りでもしようか』
『あんな奴らの物資がちゃんとした状態だと思う? ろくなもんじゃないと思うよ』
通信で軽口を叩き合う二人、随分と気楽なものだ。
対する自分はこれから相まみえるであろうマルティの駆るイシュタムについて少し思案していた。
(スピードではククルカンが勝ってる……けどおそらく相手は相当の手練、スピード頼りで勝てる気はしない。相手を任されたとはいえ、僕はマルティに勝てるのか?)
あの後機転を利かして一撃を与える事には成功したし、同じ手でカゲトにも勝利した。
でもきっと、それだけではいつか負ける。そうなればそこで自分の命が危うい。
『おーいウィッシュ君? 黙ってばっかだと報連相が滞るから反応はしてくれると助かるんだけど』
いつの間にか呼びかけられていたらしい、気づかないのは確かにまずい。
「……あっ、すいません。ちょっと考え事を」
『緊張する気持ちは分かるよ、ただあまり思考に脳を割かないほうがいい。戦う人間は動くことを止めたら死ぬ』
『こらケンプ、脅しすぎちゃダメでしょ……ま、事実ではあるけど』
『機体をしょっちゅうボロボロにする僕らだから言えることだよ、運のいいことに死なないけどね』
もしかして整備に時間がかかっていた理由ってこの人達のせいじゃあなかろうか。
『はいはいすいませんねぇ……まぁとりあえずだ。緊張は程々にね、ほらそろそろ作戦ポイントだ』
脅しも入ってはいたが、今ので少し緊張がほぐれた。心の内で感謝しつつ、気合いを入れ直してモニターを見つめる。
上空から見えた作戦ポイントには、アークよりは一回りほど小さい、とは言ってもそれなりに大きなキャリアーがあった。そしてその周りには何機かのトシらしきモノ・アイがあちこちをギョロギョロと覗いたり、点滅したりしている。
「見えました。多分イシュタムみたいなのは……いないです」
『よし、じゃあ手頃な奴でも倒して宣戦布告だ。用意はいいね?』
「はい!」
一機のトシへと狙いを定めると、操縦桿を全力で前に入れる。
『ん? 重力波レーダーに異常反応?』
『テメェのオンボロトシなんか信用出来っかよ、どうせまた壊れたんだろ?』
『そんなわけ……ッ!? おい後ろ!』
『はぁ? さっきから何をッ!?』
トシの頭を鷲掴む。頭部装甲とモノ・アイにマニピュレーターがめり込み、軋むような音を立ててその頭部を破壊していく。
『ヒッ、ヒィッ! 助けてくれッ!』
そのまま力のままに頭部を引きちぎる。配線が千切れる音が、砂漠へと低く響き渡る。
『て、敵襲ッ! 敵襲だ! 銀色がでたぞ!』
『マルティ様を呼べ! 早くッ! オレたちじゃあ』
突然の銃撃。それによって退却しようとしたトシは足を撃ち抜かれ行動不能となる。
『はぁい残念。デザートの時間にはまだ早いよ』
『クソッ! ブルーバードのヤツらが来てる! 戦え!』
『北と南のヤツらも殺られてる! カゲトもダメだ!』
『畜生が! こいつらだけでも殺してやるぞ!』
アックスを構える機体、機銃を構える機体。数だけでいえばこちらより多く、自分一人だったら少し苦戦するかもしれない。
『ウィッシュ君、君はマルティを警戒して。こいつら程度なら僕らでやれる』
『ほぉ? 最近誰もこういう事をしてこなかったせいかねぇ、随分とうちの奴らも鈍ったらしい』
突然通信に混ざる飄々とした中年の声。周囲を見渡すと、キャリアーの上に何かが立っている。
『マルティか!』
『わざわざご紹介ドーモねケンプ君。そしてはじめましてだな銀色のパイロット。うちの腰巾着以下の糸くず共が随分とお世話になったみたいだ』
接近してくる機体、イシュタムはGA型に対抗する為に作られたHB型である為に、小型で細身かつ生物的なフォルムをもつ。
そして何より目立つ機体の目、「オービタル・リング」と呼ばれる円型の特殊なツイン・アイにより、抽象化された人間の顔のように見える点で特異だ。
「あなたが、マルティ・ネドゥミコー……!」
『やぁはじめまして。砂漠の旅団共がオレを虎視眈々と狙ってる中で、アポ無し予約無しでご指名なんて情熱的だねぇ……嫌いじゃない』
マルティのイシュタムが両腕を広げると、三又の黄色い光が指の隙間から伸びる。
イシュタムの特殊兵装レイ・クロー。レイ・サーベルを手掌部マニピュレーターから複数展開した近接兵装だ
『始めようぜ銀色、その腕がどこまで通じるか確かめてみなぁ!』
あのテスカトリポカとは行かずとも、かなりの速度でイシュタムが迫ってくる。
両方の操縦桿のトリガーを押し込み、こちらも両方のレイ・サーベルを展開する。
『オラァ!』
引っ掻くように振るわれるクローの一撃。
「ぐぅっ!」
右腕と左腕のサーベルを交差させる形で、真正面から迫るサーベルを受け止める。溶接の時の唸るような火花が散る音が鳴り響き、同時に操縦桿の連動で腕へ少しの重みがのしかかる。しかしカゲトのトシのアックスほどではない。
そのまま押し広げるように、サーベルを押し返していく。
『チィ……さすがはGA型、パワーもスピードも上とかズルいじゃねぇの』
このまま押し切ろうと操縦桿を前に入れ、推力を乗せる。
その瞬間、突然イシュタムのサーベルが解除されて己の胴体ががら空きになる。
「ッ!?」
『ふっ……だけど技術は
イシュタムの細足によるキック。それによって重い衝撃が加わる。フレームが軋む音がコックピット内に鳴り響き、後方へと弾き飛ばされる。
「くぅっ!」
どうにか操縦桿を操って体勢を立て直す。風圧によって後方の砂が散って砂煙を巻き起こす。
(今のは僕が使ってた戦い方、つまり同じ手は通じない……!)
来たる敵を迎え撃たんとばかりに再度サーベルを構える。
『おいおいどーした? まだ戦いは始まったばかりだぜ。それにだんまりなのも良くないなぁ』
「話すことなんて、ありません……!」
この人との対話は良くない、そう直感が判断する。対話する事に意味が無い。軍人とも戦士とも兵士とも違う、おそらくこれが戦争屋というものだ。
『ふぅ〜……わかってないねぇ、戦うだけなら猿でもできんだよ。対話と戦い、両方やってこその人間だろ?』
「言葉は戦う為にあるんじゃあないでしょう! 分かり合うため、戦わない為のものです! 少なくとも……あなたのとは違う!」
サーベルとクローがぶつかり合ってスパーク音を鳴らす。
マルティのイシュタムから繰り出されるクローでの回転斬り。バーニアを微調整しながら強く吹かすことによって繰り出されるその連撃はサーベルで受け切るのも難しく、だんだんとククルカンの装甲が傷ついていく。
『綺麗事だねぇ、言葉なんてものは人類共通の野蛮な武器だぜ。言葉が相互理解の為なら戦争暦なんか生まれねぇんだよ!』
「戦争暦が失敗として反省すべき歴史として残っているのは、その言葉があったからです!」
『戦争のことなんざよく知らないくせに失敗だぁ? 違うねッ! 戦争があったからこそ、今のオレの支配による自由があるんだよ。つまり成功さ!』
再度鍔迫り合い。今度はクローの隙間でこちらのサーベルを絡め取られそうになり、こちらも負けじと主導権を取ろうとする。
金属音の代わりに放電音が弾け、閃光が周りを照らすように激しく点滅する。
「貴方も、カゲトも、そんなに独善的な自由の下で死んでいく人達を踏みにじりたいのか!」
シープの人々も、この砂漠に旅団として必死に生きようとしていた人々も踏みにじって悦を得たいなんて、そんなものは善くない。そんなものを許してはいけない。
『戦争を経験すりゃあそう思うのさ! そんな些事に構ってられるかってなぁ!』
「そんなに兵隊だった事が偉いのか!」
ノアも、あのグレガリアの兵士も、おそらくテスカトリポカのパイロットも……決して戦争への参加を誇示はしなかった。
どこか苦しんでいた。逃げようとしていた。そんな戦争は決して正しいものではない。
『俺たちが誰の為に血を流してやったと思ってんだ!』
「なら、そこに気高いものがあるというのなら……教えてみせろ!」
何も知らない、そりゃそうだ。僕は生まれて物心着く前に終わった戦争のことなんて知るわけが無い。だからこそ、それを知らねばならない。
何故戦争の結果苦しむのか、何故平和が訪れないのか。僕はそれを知るべきなのだ。
『うおっ!?』
力のままに振り上げたサーベルはクローを弾き、イシュタムの右手マニピュレーターを切りつける。
受けた傷によってショートを起こしたのか、右のクローを形成していた光が霧散していく。
『いいねぇ燃えてきた……! 今、教えてやるよ
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