「離縁しましょう」

「駄目だ。君とは離縁はしない」

「どうして？愛していないのならわたしを解放してください！」

「僕は……君を……」

　わたしは彼の最後の言葉を聞く前に……

「あっ……」

　胸に矢を射られ心臓を貫かれた。

　ーーわたし……死ぬの？

　彼が「……………！」叫んでいた。

　だんだん意識は遠のき……

　怖い夢を見たみたい。

　目覚めるといつもの部屋にいた。

　愛する夫と過ごしているこの部屋にはもう彼は来ることはない。

　夫は第二妃であるアイリーン妃のもとへ。

　重たい体をなんとか起こしてベッドの壁に体を委ね膝を抱えてボーッとしていた。

「あの空はずっと続いているのよね？マルワ国は今晴れているのかしら？あの雲はジョワンナ国へ行くのかしら？わたしをどこかへ連れて行ってはくれないかしら？」

「失礼致します」

　ーーえっ？

「………ミーナ？どうしてここに？」

「どうしてと言われましても、そろそろイリアナ様が起きられる時間だと思いまして、顔を出してみたのですが？」

　キョトンとしてわたしを見るミーナはわたしの記憶の中のまま……

「ミーナは死んだんじゃなかったの？」

「ええ？わたし？死んでないですよ？ここにいるではないですか？」

　ーーだって一年前、突然倒れて……

　わたしが嫁ぐ時に一緒に来てくれたミーナ。わたしは15歳でこの国の王太子の妻としてやってきた。

　マルワ国は小さな国。援助と引き換えにわたしはジョワンナ国に嫁いだ。

　マルワ国の王女として生まれ、わずかばかりの癒しの力をジョワンナ国が欲しがった。

　聖女と言われるほどの力はない。ほんの少し魔力がありほんの少し治癒力があるだけ。

　そんなわたしを欲した王がマルワ国に金銭援助を申し入れわたしは身売りされた。

　それでも王太子……セデンは優しかった。何も知らず怯える日々の中セデンはそばに寄り添いいろんなことを教えてくれた。

　やっと笑顔も出始め、なんとかジョワンナ国で暮らしていけるかもしれないと自信がつき始めた頃、セデンは妃としてアイリーン様を第二妃として迎えた。

　それからはわたしのことなど忘れたかのようにアイリーン妃の元に通うようになったセデン。そして……？？？

　うん？なんだか鏡に映るわたし……お肌がピチピチしてる？顔も少し幼い気がするし、それに死んだはずのミーナがなぜ生きているのかしら？

　それにわたし……矢で射抜かれた……はず？？

　おかしい、だってそうよ

　私は矢で胸を……そして死んだはずなのに？ミーナは生きてるし……

「ミーナ、わたしって……あの何歳だったかしら？」

「16歳ですよ？もうこの国に来て一年過ぎてしまいましたね？」

「そ、そうよね。わたしまだ16歳……」

　ーーえっ？じゃあ一年前に戻ってきた？え？わたし……

　まだ殺されていないの？

　だったら……セデンと離縁してさっさと……国には帰れないから……そうだ、ずっと行きたかったリンデの森へ行こう。

　どうせ国に帰ってもわたしの居場所なんてない。あの国でのわたしの扱いはまともに魔法も使えない無能な王女。

　妹のマルチナは聖女と呼ばれ、たくさんの人々のために癒しの力で病を治してあげられるのだけど、わたしはほんの少しの魔力しかない。

　そのためマルワ国で暮らしている時も居場所がなかった。この国に来て初めてセデンに優しくされ、もしかしたら幸せになれるかもしれないなんて馬鹿な夢を持ってしまった。

　結局は裏切られ殺された。

　そしてなぜか今また一年前に戻り、ここにいる……らしい。

　だったらもう今度の人生は殺されたくない！それに愛するセデンが他の女性を愛する姿なんて見たくない。

　ーーよし、リンデの森へ行こう。

　あそこには幼い頃助けてくれた魔法使いのオーグがまだ住んでいるかもしれないもの。