第25話 聖夜

その頃アキ達は、雪を見ながら雑談をしていた。


「明日は休日だね」


「どっか行く?買い物とか」


『総員!直ちに第一格納庫へ!』


「行こう!嫌な予感がする!」


格納庫へ向かうと、ホンダ艦長が青ざめた顔をしていた。


「先ほど聞いた話だが…反国連軍がメイフライ基地付近で核兵器を使用した可能性があるとの報告が入った、総司令部は24時間の緊急配備を開始した。我々、第6艦隊もベース034を出航する」


「嘘だろ…国連は報復をするのか?」


「いまはどこも混乱していて、被害報告も上がっていない状況だ、なんとも言えない、とにかく俺たちは緊急出航する」


「最悪だ…」


唖然としていると通信兵が飛び込んできた。


「総司令部より報告が来ました!今回は実験の様です!核兵器警戒レベルは2のままで固定!2日後メイフライ基地を攻撃するとの事です!」


「このタイミングで攻撃を仕掛けるのか!?」


「本部によると、「所詮は脅しだ」と発言しています…第6、第9、第8艦隊での攻撃を指示しています」


「ふざけるな!また核を撃ったらどうするんだ!核戦争になるぞ!本部に回線を繋げ!お前たちは戦闘配置のまま待機だ!」


「了解!」


ホンダ艦長は艦橋に戻った途端、マイクを握り締め、総司令部と回線を繋げた。


「どうしたホンダくん」


「どういう事ですか!?いま!攻撃すれば核戦争になりかねません!」


「丁度いい、詳細を伝える、今回使用された核兵器は一発、それだけなら良いが、今回は二発持ち込んでいると情報が入ってる、つまりもう一発まだあるんだよ、それを何処で使用するか…我々にはまだ分からない、なら!先に使えなくすればいい、それが今回の命令だ」


「しかし!」


「なにかね?」


「余りにもタイミングが早すぎます!そんな事ばかりでは平和は保てません!」


「平和か…なら、いつするのかね?次の実験まで待つのか?それが「攻撃」だったらどうする、我々の背後には、民間人がいる事を忘れないでくれないか」


「っ…!」


「何のための兵器か、このご時世、武力で平和を補ってる様なもんだ、すまないが理解してくれ」


「わかりました…」


兵器を使わずして、平和を保つのか、兵器を抑止力として平和を保つのか、ホンダ艦長は考え込んでしまった。


「ホンダ艦長、大丈夫ですか?」


「ナナセ大尉か」


「私も技術者として、悩ましいところです、ですが今は核兵器を使わせない事に、意識を向けましょう」


「そうだよな、まずは核を止めるべきだよな」


--キラーホエール艦内


「あぁ…寒」


「オルカ、メイフライ基地が核実験をしたようだ」


「らしいな、脅しのつもりか?」


「さぁな、これで相手がどう出るかだ、メイフライにある核は二発、少なくともすぐに白旗上げるような連中じゃないだろう」


「当たり前だ、奴等は間違いなく止めにくる…たが俺も核兵器はあまり好きじゃねぇ」


「お前らしくないな」


「確かに国連防衛軍には恨みはある、だが流石に核兵器は筋が通ってなさ過ぎる」


「死神にも人情があるんだな、安心したよ」


オルカは、少し恥ずかしながらも、同僚の肩をこづいた。


「うるせぇよ」


1日後 まだ外は雪が積もっていて、街もクリスマスムードだった。


「アキ、ケーキ買いに行かねぇか?」


「いま?一応第一種戦闘配置だろ」


「艦長から許可は貰った」


「ケーキ買いに行かせてくださいって言ったのか!?」


「あぁ」


「信じられない…」


「いまは核とか、そんな物忘れたいんだ、今日は12月25日だぜ、みんな許可取ってる」


「行こうよアキくん」


アキは少し戸惑いながらも重い腰をあげ、艦から降りた。

積もった雪がとても綺麗で、明日作戦が控えてるなんて忘れてしまいそうなほどだった。


(明日、何万人もの人が死ぬかも知らないんだよな)


「開戦の日みたいだな」


「確かに、モヤモヤが無くならない」


ホンダ艦長は艦橋から、下船する兵士達を眺めていた。


「よろしいのですか?スクランブルがかかれば…」


「…構わんさ、あいつらだって人さ、明日死ぬかもってのに、この空母に閉じ込める訳にはいかんだろう」


「そうですか」


「お前らもゆっくり休んでおけ、下船しても構わん、日付が変わり次第出航する」


「俺たちはヴァルキリーに残りますよ、艦長」


「そうか…頼もしいな」



「4500円になります」


「カードで」


アキ達は、店でケーキを買い、艦へ戻ろうとしていた時、ソラは少し涙ぐんでいた


「私、戻りたくない」


「どうした、具合でも悪いのか?」


「もう戦いたくない…!」


「ソラ…」


「殺すのも殺されるのも嫌!次は核兵器!?おかしいよ!こんなの!」


「オサム、先に帰っててくれないか」


「任せた」


「夜景でも観に行こうか」


アキはソラの手を持ち、アリタ市の夜景が一望出来るスポットに向かった。


「見て、夜景が綺麗に見えてる」


「…うん」


「明日、俺たちはこの景色を護るんだ、ここだけじゃない、トクマツ市も含めて、みんなを護るんだ」


「私は何もできない」


「何も出来てない事ないよ、トクマツの人から聞いたよ、子供を介抱してあげたらしいじゃん」


「子供の頃を思い出しただけ」


「ソラが見た景色を、同じ景色を見る人が少しでも減るように、俺は頑張ろうと思う、もちろんソラにもそんな景色はもう見せたくない」


「…?」


ソラがアキに顔を向けた瞬間、アキはソラを抱きしめた。


「ソラの事が好き、何がなんでも守る」


ソラも抱きしめ、泣きそうになりながら返事をした。


「ありがとう…私も好き」


空から雪が降って来て、まるでお祝いされている様な気分だった。


「オサムが待ってる、艦に戻ろうか」



「あいつら、遅い」

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