春風に揺れる図書室で君を想う

ソコニ

第1話「春風の予感」

プロローグ「春風の予感」


図書室の窓から、新学期の風が吹き込んでくる。

高校二年生になった私は、図書委員長としての初仕事、蔵書点検に向かっていた。


誰もいない図書室には、昨年までの記憶が静かに眠っている。

本棚に並ぶ背表紙は、それぞれの物語を秘めたまま、私を待っていた。


「こんな日は、誰かが物語の中から抜け出してきそう」


そんなことを呟いた時、図書室のドアが開いた。

春の陽射しに縁取られるように、一人の生徒が立っていた。


「すみません、図書委員会の配属はここで合っていますか?」


桜色のカーディガンを羽織った生徒。

私と同じ二年生だという。

その瞳には、どこか物語のような輝きが宿っていた。


「はい、ここで間違いありません。私、図書委員長の朝倉葵です」


「あ、朝倉さん。副委員長に選ばれた桜木優里です。よろしくお願いします」


優里さんは、柔らかな笑顔で一礼した。

その仕草には、不思議と人を惹きつける何かがあった。


春風に乗って、かすかに桜の香りがした。

それは、これから始まる物語の予感のよう。


図書カードを整理しながら、私たちは話をした。

本のこと、物語のこと、そして図書室での思い出のこと。


「ここに残された日付や名前って、みんなの青春の足跡みたいですね」


優里さんのその言葉に、私は思わず目を見開いた。

いつも一人で黙々と行っていた作業が、急に違う色を帯びて見える。


窓から差し込む光が、本棚の影を床に落としていく。

まるで、新しいページがめくられるように。


この出会いが、私の物語の始まりだということを、その時はまだ知らなかった。


でも、きっと本は知っていたのだ。

図書室という小さな世界で、これから紡がれていく言葉たちのことを。


春風が、また窓から吹き込んできた。

新しい季節の光の中で、私たちの物語は、静かに幕を開けようとしていた。




第1話「新しい扉」


春風が図書室のカーテンをなびかせる音で、私は読書の世界から現実へと引き戻された。


机の上には整理の終わった図書カードの束。図書委員長として初めての仕事は、年度始めの蔵書点検だった。誰もいない図書室で、私は静かに溜息をつく。耳元を掠める風の音が、まるで誰かが本のページをめくっているようで。


「こんな日は、誰かが物語の中から抜け出してきそう」


そうつぶやいた瞬間、図書室のドアが開いた。


「すみません、図書委員会の配属はここで合っていますか?」


声の主は、春の陽射しに縁取られるように立っていた。桜色のカーディガンを羽織った生徒。私と同じ二年生だと思われるその子は、私の返事を待つように首を傾げている。


「はい、ここで間違いありません。私、図書委員長の朝倉葵です」


「あ、朝倉さん。副委員長に選ばれた桜木優里です。よろしくお願いします」


優里さんは柔らかな笑顔で一礼した。その仕草には不思議と人を惹きつける何かがあった。


「整理を手伝わせてください」


そう言って優里さんは私の隣に座る。春風に乗って、かすかに桜の香りがした。


「これ、去年の図書カードですね」


優里さんが手に取ったのは、私が先ほどまで整理していたカードの束。そこには一年間分の物語との出会いが記されている。


「ここに残された日付や名前って、みんなの青春の足跡みたいですね」


優里さんの言葉に、私は思わず目を見開いた。いつも一人で黙々と行っていた作業が、急に違う色を帯びて見える。


「そうですね。一冊の本が、何人もの心に触れていくんです」


私の言葉に、優里さんは嬉しそうに頷いた。


「朝倉さんって、本が好きなんですね」


「え?」


「だって、今の言葉。まるで本の中の一節みたいに素敵でした」


思わず頬が熱くなる。読書は得意だけど、人と話すのは苦手な私。でも、優里さんと話していると、不思議と言葉が自然に出てくる。


「あ、この本」


優里さんが手に取ったのは、古びた詩集だった。ページを開くと、そこには誰かの残した栞が挟まれている。


「これは...」


その瞬間、再び春風が吹き込み、栞が舞い上がった。私と優里さんは思わず立ち上がり、舞い落ちる栞に手を伸ばす。


そして、二人の指先が重なった。


「取れました」


優里さんの手の中の栞。それは淡い青色をした、手作りのもののようだった。


「これ、きっと誰かの大切な想い出なんですね」


優里さんの瞳が、夕暮れの図書室で輝いていた。その日、私は知った。図書委員長としての新しい一年は、今までとは違うものになるということを。


人数分の目次カードに、新しい一行が書き加えられる。それは、私と優里さんの物語の始まりを予感させるような、そんな春の一頁だった。






第2話「名もない栞」


翌日の放課後、私は古びた詩集を眺めていた。


「昨日見つけた栞、不思議ですよね」

優里さんが差し入れてくれた紅茶を手に、私は言った。手作りらしき青い栞には、何も書かれていない。ただ、角が少し折れていて、長い時を経たことが分かる。


「きっと、誰かの大切な想いが込められているんだと思います」

本を大切に扱う優里さんの指先が、栞の縁を優しくなぞる。


「でも、この詩集自体が謎なんです」

私は図書原簿を開いて説明した。

「貸出カードも図書カードもないんです。まるで、ここにあること自体が記録されていないみたい」


「まさに、図書室の迷い子ですね」

優里さんが微笑む。私は思わずその表現に見とれてしまう。


「あ、これを見てください」

詩集の背表紙に手をやる優里さん。よく見ると、薄れかけた手書きのメモのような文字が。


「『春を待つ君へ』...これって」

「日付もサインもないけど、誰かがつけたタイトルかもしれません」


その時、図書室のドアが開いた。

「失礼します。図書委員会に入りたいんですが」

一年生らしい女の子が、おずおずと入ってくる。


「どうぞ」

私が声をかけると、優里さんも立ち上がって笑顔で迎えた。


新入生係は私の担当なのに、優里さんの自然な受け答えに、緊張していた一年生の表情が徐々に和らいでいく。本が好きな理由を聞かれ、一年生は目を輝かせながら答えた。


「物語の中に入り込めるのが好きなんです。現実を忘れられる...あ、変ですよね」

「ううん、分かります」

優里さんが応える。

「物語は、時々現実より本当のことを教えてくれますから」


私は思わず、その言葉に息を呑んだ。


一年生が帰った後、優里さんは窓際で詩集を開いていた。

「朝倉さんは、どうして図書委員長になろうと思ったんですか?」


夕暮れの光が、優里さんの横顔を柔らかく照らしている。

「本の世界が、私の居場所だったから...かな」

答えながら、自分でも驚くほど素直な言葉が出てきた。


「素敵な理由ですね」

優里さんは嬉しそうに頷く。

「私も、そんな風に思っています」


春風が再び図書室に舞い込んで、詩集のページをめくった。名もない栞が挟まれていたそのページには、かすれた文字で詩が書かれている。


「『君と出会った日は、きっと物語の始まりだった―』」

優里さんが詩の一節を読み上げる声が、不思議と胸に響いた。


その瞬間、私たちは同時に顔を上げ、目が合う。二人とも、何かに気づいたように。

まるで、この詩が私たちに向けて書かれていたかのように。


「朝倉さん、この詩集...一緒に謎を解いていきませんか?」


そう言う優里さんの瞳に、夕陽が優しく映り込んでいた。





第3話「手紙のような詩」


図書委員会の活動が本格的に始まって一週間。私と優里さんは放課後、新入生たちに図書カードの記入方法を教えていた。


「こうやって、本のタイトルと著者名を記入して...」

私の説明に、優里さんが実演しながら補足していく。息が合うような自然なやりとりに、新入生たちも笑顔で頷いている。


「朝倉先輩と桜木先輩、仲良いんですね」

帰り際、一年生の誰かがそうつぶやいた。


「え?」

私の動きが一瞬止まる。確かに、優里さんとはすぐに打ち解けていた。でも、それは図書委員としての...。


「あ、これ」

考え込む私の視界に、一冊の本が差し出される。優里さんが持っていた謎の詩集だった。


「朝倉さん、新しい発見があったんです」

優里さんの目が輝いている。詩集の奥のページをめくると、青い栞が挟まれていた場所から少し後ろに、鉛筆で書かれた文字が見える。


「『あなたの言葉は、いつも私の心を整えてくれる。だから、この詩を―』」

私が読み上げると、そこで文章は途切れていた。


「まるで、誰かに宛てた手紙みたいですね」

優里さんが言う。確かに、この詩集全体が誰かへの長い手紙のようだった。


「でも、不思議です」

私は気づいたことを口にする。

「この文字、栞が挟まれていたページより後ろにあるのに、どうして先にあのページを開いたんでしょう」


「そうなんです。それで...」

優里さんが何かを言いかけた時、突然の雨音が図書室に響いた。

春の夕立。窓の外は瞬く間に雨に霞んでいく。


「大変、窓が開いてる!」

二人で窓際に駆け寄る。本棚に雨が掛からないよう、急いでカーテンを引く。その時、優里さんの腕が私の手に触れた。


「ごめんなさい」

慌てて距離を取ろうとする私に、優里さんが静かに言う。

「朝倉さんって、優しいんですね」


「え?」

「だって、真っ先に本のことを心配したから」


その言葉に、私は思わず顔を赤らめた。雨音の中、二人きりの図書室。なぜか心臓の鼓動が早くなる。


「あ、見てください」

優里さんが窓の外を指さす。雨上がりの空に、小さな虹がかかっていた。


「きれい...」

「このことも、きっと誰かに伝えたくなりますね」


優里さんの言葉に、私は詩集のことを思い出す。誰かに伝えたい気持ち。それは、この詩を書いた人も同じだったのかもしれない。


「優里さん、明日も一緒に調べてみませんか?」

私の問いかけに、優里さんが嬉しそうに頷く。


「もちろんです。この詩の続きを、一緒に見つけましょう」


夕暮れの図書室に、新しい約束が生まれた瞬間だった。





第4話「こぼれた言葉」


朝の図書室は、いつもより早く賑やかだった。読書感想文コンクールの案内を掲示するため、委員が集まっている。


「では、各クラスへの告知もお願いします」

私が説明を終えると、優里さんが補足する。

「今年は『私の心に残る一冊』がテーマです。皆さんも参加してくださいね」


新入生たちが元気よく返事をする中、私は優里さんの手元に目が留まった。分厚いノートの端が、カバンからわずかに覗いている。


「それにしても、桜木さんの説明、上手でしたね」

他の委員が帰った後、私がそう話しかけると、優里さんは少し困ったように笑った。


「実は、去年の入賞作を読ませてもらって。その感想を伝えただけです」

「入賞作...あ」


私は急いで書庫へ向かった。昨年度の受賞作品集が確かここに。

「これです」


作品集を開くと、まるで待っていたかのように一枚のプリントが滑り落ちる。


「あ、これは」

優里さんが驚いた声を上げる。それは、去年の応募用紙のコピー。作者名の欄には「桜木優里」とある。


「優里さんが...」

「ちょっと、待ってください!」


慌てた様子で紙を手に取る優里さん。その仕草に、思わず笑みがこぼれる。


「読ませてもらっても、いいですか?」

「え、でも...こんな」

「きっと、素敵な感想文なんですよね」


少し考えて、優里さんが小さく頷く。

「でも、その前に見せたいものがあります」


優里さんはカバンから先ほどのノートを取り出した。

「実は、これも書いているんです」


開かれたページには、繊細な文字で物語が綴られていた。


「まだ途中の創作なんです。図書室が好きな女の子のお話」

「創作...」


その時、ノートから一枚の紙が滑り落ちる。手書きの詩。


「あ」

二人で同時に声を上げた。先日見つけた詩集の中の文字と、どこか似ている。


「この詩は?」

「友人に頼まれて書いたものです。でも、この字は...」


春風が窓から差し込み、ノートのページをそっとめくる。

そこには、優里さんの想いが一行一行、大切に記されていた。


「この物語、読ませてもらえませんか?」

私の問いかけに、優里さんは照れたように俯く。


「いいけど...主人公が、朝倉さんに少し似ているかもしれません」

「え?」

「図書室で一人、本を大切にする女の子で...」


その言葉に、私の心が小さく揺れる。


「あ、でも違うところもたくさんあって!」

慌てて言い訳をする優里さんの横顔が、夕陽に染まっていく。


謎の詩集のことは、少しだけ置いておこう。今は、目の前のストーリーを読んでみたい。

優里さんの言葉が紡ぐ物語を。


「楽しみです」

そう答える私の声に、心臓の高鳴りを感じていた。







第5話「物語の続き」


放課後の図書室。私は優里さんの創作ノートを読ませてもらっていた。


「図書室の天使」というタイトルの物語。本が好きな女の子が、不思議な詩集を見つけるところから始まる。


「この子、本当に私に似てるんですね」

読み進めながら呟くと、優里さんが慌てたように手を振る。


「あ、でも違うところもたくさんあって...例えば、この子はもっと素直に気持ちを伝えられて...」

言葉を濁す優里さんの頬が、薄く染まっている。


「続きが気になります」

私がページをめくると、そこで文章は途切れていた。


「ごめんなさい。ここから先はまだ...」

「素敵なお話です。特に、主人公が本を通して誰かと心を通わせていくところが」


優里さんの目が少し輝く。

「それ、大切にしたかったんです。本って、誰かの心に触れる窓のような...」


その時、廊下から話し声が聞こえてきた。


「図書室ってこの先?」

「うん、確か...」


見知らぬ声に、私たちは顔を見合わせる。来客の気配。


「あ、入部希望者かも」

優里さんが立ち上がろうとした時、私の目に見覚えのある本が映った。


「優里さん、これ」

書架の隙間に、例の詩集が紛れ込んでいる。普段置いてある場所と違うのに気づいて手に取ると、中から一枚の紙が滑り落ちた。


「これは...手紙?」

優里さんが拾い上げる。古びた便箋に、か細い文字が書かれている。


「『あなたの物語を、いつも楽しみに―』」

そこで文面は途切れていた。日付も署名もない。


「この字、詩集の中の文字に似てません?」

私の言葉に、優里さんが頷く。


「でも、不思議です」

「何がですか?」

「この手紙の『物語』って...まるで、誰かの創作のことを指しているみたい」


その時、ノックの音が響く。

入部希望者だろう、二人の生徒が入ってきた。


「失礼します。図書委員会に...」

「あ、どうぞ」


慌てて手紙を詩集に挟み、優里さんと対応に追われる。

けれど、私の頭には先ほどの手紙の文面が残っていた。


誰かの創作。誰かの物語。

そして、優里さんの書きかけの小説。


全てが何かで繋がっているような、そんな予感がした。


新入生の対応を終えて戻ると、優里さんがノートに何かを書き留めていた。


「続き、書けそうです」

「え?」

「不思議なんです。あの手紙を見て、次の展開が浮かんできて」


夕暮れの光の中、優里さんの瞳が優しく輝いていた。

まるで、物語が彼女の中で生まれ育っていくように。


「楽しみです」

そう答える私の声に、小さな期待が混ざっていた。

この不思議な春の物語の、次のページが待ち遠しくて。




第6話「重なる物語」


「あの、朝倉さん」


昼休み、クラスで本を読んでいた私に優里さんが声をかけてきた。

珍しく、少し落ち着かない様子。


「これ、昨日の続き、書けました」

そっと差し出されたノートには、新しいページが書き加えられている。


「今から読んでも?」

「はい、お願いします」


物語は、主人公が不思議な手紙を見つけるところから再開していた。

手紙の差出人を探す中で、彼女は図書室でもう一人の「本の住人」に出会う―。


「この展開...」

私の言葉に、優里さんが小さく頷く。


「実は、朝倉さんと出会ってから、物語が自然と進むようになって」

「私と出会って?」

「はい。それまでは、主人公の気持ちがよく分からなくて」


その時、チャイムが鳴る。

優里さんは慌てて立ち上がりかけたが、何か思い出したように足を止めた。


「放課後、例の詩集のことでお話ししたいことがあって」

「分かりました」


午後の授業中、私は何度も創作ノートが気になった。

カバンの中の本の重みが、普段より強く感じられる。


放課後、図書室に向かうと、優里さんが既に待っていた。

手には例の詩集。


「これを見てください」

開かれたページには、鉛筆書きの文字。

『物語は、時として現実より真実を映す。だから私は―』


「この文章の後に...」

優里さんがページをめくる。

そこには、私たちが見つけた手紙が挟まれていた。


「手紙の文面と、この詩集の言葉。まるで...」

「会話しているみたいですね」

私が言葉を継ぐと、優里さんが嬉しそうに目を輝かせた。


「私も同じことを考えていました。それで...」

優里さんは自分の創作ノートを開く。

「この物語の主人公も、きっと誰かと心を通わせたいと思っていたんです」


夕暮れの図書室で、二つの物語が重なり合う。

詩集の中の誰かと、優里さんの創作の中の少女。

そして、私たち。


「あの、朝倉さん」

「はい?」

「この物語、朝倉さんに読んでもらえて良かった」


優里さんの言葉に、私の心が揺れる。

まるで、春風にページをめくられるように。


「私こそ、読ませてもらえて...」

言葉の続きを探していると、図書室の窓から夕陽が差し込んできた。


それは、まるで私たちの物語の新しいページを照らすかのようで。

二人の影が、静かに重なっていく。





第7話「新しい一ページ」


五月の風が図書室のカーテンを揺らす午後。

私と優里さんは、新入生たちに図書室の使い方を説明し終えたところだった。


「朝倉先輩と桜木先輩って、本当に息が合ってますね」

帰り際、一年生がそう言って笑う。

私は少し照れながら、優里さんの方を見た。


「そうですね」

意外にも、優里さんがはっきりと答えた。

「朝倉さんと一緒だと、自然と言葉が見つかるんです」


その言葉に、私の心が跳ねる。


新入生たちが去った後、優里さんは例の詩集を開いていた。

「この一月で、少し分かってきたことがあります」


「どんなことですか?」

私が隣に座ると、優里さんは静かにページをめくった。


「この詩集に書き込まれた言葉、一つ一つが誰かへの手紙のようです。でも...」

「でも?」

「それは完成した手紙じゃなくて、書きかけの言葉たち」


確かに、私たちが見つけた文章は、どれも途中で途切れていた。

まるで、誰かの想いが、言葉を探しているように。


「それと、私の書いている物語のこと」

優里さんが創作ノートを取り出す。

「朝倉さんに読んでもらってから、不思思議なことに気づいたんです」


ノートには新しい章が書き加えられていた。

主人公が詩集の謎に近づくにつれ、彼女自身も変化していく。

本の向こうの誰かと、心が通じ合っていくような物語。


「この物語、私たちに似てませんか?」

優里さんの問いかけに、私は小さく息を呑む。


その時、春風が強く吹き込んできた。

詩集のページが一気にめくられ、見たことのないページが現れる。


そこには、はっきりとした文字で一行。

『物語は、今を生きる誰かの想いを映す鏡』


「これって...」

二人で顔を見合わせる。

この言葉は、まるで私たちに向けられているような。


「朝倉さん」

優里さんが、決意を込めたような表情を見せる。

「この詩集の謎と、私の物語。きっと、どこかで繋がっているんです」


夕暮れの光が、二人の間に差し込んでくる。

それは、まるで新しい章の始まりを予感させるよう。


「一緒に、この先を見つけていきませんか?」

優里さんの問いかけに、私は迷わず頷いていた。


春の終わりが近づく図書室で、私たちの物語は確かに、新しいページをめくり始めていた。

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