33. すごろくでおっぱい

「あたしさ、オカルト部に入ることにしたよ」


 新年を迎えて初の登校日。

 昼食後にまどろんでいる俺の元へ、エレインが突然の申し込みをしてきた。


「なんだエレイン、前に入っていた部活はいいのか?」

「ん〜なんかね。あまり活動的なところじゃなかったし」


 しかし、オカルト部ねえ。

 オカルト部と言っても、それっぽいことをしているのはルーコだけ。

 スミレは悪魔関連の書物を読んでいるだけだし、アホメットとオセに関してはおやつを貪っているだけだ。

 というか、あの悪魔たち、そもそもここの生徒ですらなかったわ。


「オカルト部で何かしたいことがあるのか?」

「えっと、その、悪魔とかに、興味が?」

「本当は?」

「みんなと一緒の部活がいいなって」

「そういう動機もありかもな。

 でも俺じゃなくて部長のルーコに話してみたらどうだ?」

「聞いていたわ。大歓迎……」


 うわ! いつの間にかルーコも俺の席の後ろにいた。

 近い近い!


「待って待って!

 それだとパーティメンバーで、あーしだけ仲間はずれになるじゃん!」


 やっぱりレモンも聞いていたか。


「あーしの場合は元々帰宅部だったから、何も問題ないっしょ!」


 つまり、部活に入れてくれという意味だな。


「これで正式な部活にできるわ」

「正式な?」

「これまで、オカルト部はわたしが勝手に活動していただけ。

 部活として承認を得るには、5人の部員が必要だったわ」

「でも部室とかあったよな?」

「部員がいなくて廃部になった、『オカルト研究部』の部室を

 勝手に借りていただけ」

「こういう部員集めの勧誘って入学直後にやるもんじゃないのか?」

「別に、わたし一人が活動したかっただけだから、

 部員はいてもいなくてもよかったわ」


 マイペースだな。


「ん?

 ということは、学園祭に部として存在しない『オカルト部』で

 バンドしていたってことか?」

「あーしらの前の演目でも『ハナマールと可憐なハニーたち』みたいな名前で

 出場していたチームもあるから問題ないっしょ」

「そういえばそうか」

「じゃ、先生に部活動として申請してくる……これで生徒会から予算が降りるわ」

「ほほう、正式になると予算が降りるんだ。予算、何に使うんだ?」

「アホちゃんたちのおやつ代」


 うーん、いいのか?



 ◆ ◆ ◆



 放課後。

 正式な部となったので、一応オカルト部に顔を出してみる。

 俺、半分幽霊部員みたいな感じだったからな。


「じゃ、次は我の番だな! コロコロ……やった6が出た!」

「はあっはっはっは! ばっちゃん、そのマスは一回休みだ!」


 アホメットとオセが餅を食べながらすごろくで遊んでいる……。


 そしてその様子を神妙な顔つきで眺めているスミレ。

 逆にルーコはにこにこと微笑ましく眺めている。


「どうしたスミレ?」

「オパールくん……わたしの所属する協会から、連絡が届いた」

「忘れていたぜ。そこから派遣されて転校してきたんだったよな」

「この学園で、前回同様の高位の魔王が召喚された波動が検知されたって。

 調査して報告せよ、との命令がきたけど」

「オセのことか?」


 ちらりと見る。


「ぬわー! こんどは我輩が一回休みだと!」

「ぐわははは! おっちゃん、おろかなり! って、おもち熱っ!」


 スミレはアホメットを見ながら口を開く。


「もしかする?」

「もしかしないと思うか?」

「もしかするのか……」


 信じられないのもわかる。

 だが、アホメットとオセがその高位の魔王だろうな。

 自己申告でそう言っていたし。


「なんて報告しよう……ただでさえ、成果がないって叱られているのに」


 スミレはスミレで悩みを抱えているな。



 ◆ ◆ ◆



「あたし、オカルト部でやりたいことを思いついた!」

「なんだエレイン、悪魔召喚なら間に合っているぞ」

「ちがうよ、新年会だよ!

 せっかくだから、オカルト部で新年を迎えられたことを祝おうよ」

「オカルト関係ないな」

「でも、いい考えだわ」

「ぐわははは! いいな、新年会! で、新年会って何をするんだ?」

「お餅を食べたり」

「餅ならもう食べた」

「すごろくをしたり」

「すごろくももうやった」

「羽根突きをしたり」

「羽なら元から付いておる」


 アホメットが背中の羽をパタパタする。

 はねつきの意味が違うぞ。


「わたしの大陸の新年会とは異なるな」

「それなら、オカルト部ではスミレの故郷の新年風で祝うってのはどうだ?」

「へえ、おもしろそうじゃん!」


 レモンたちも、みんな乗り気だ。


「で、どんな感じなんだ?」

「お正月は竹と松で作った『門松』という名のお面を被り、

 『ハッピー締め込み』を着て包丁を振り回して、

 『ひょこひょこ踊り』をしながら『悪い子はビネガー』と言いながら

 他人の家に不法侵入するという、ならわしがある。

 それで獅子に頭をかじられながら、最後には鏡で餅を割って食べる」

「わけわからんが渋滞しているな」

「まず、門松というのは魔除けの意味があって——」


 スミレが絵を描いて説明する。

 なるほど、斜めに切った竹を3本と、その周辺に松か。


「我輩、これ被りたい!」

「我も! 我も!」


 おまえら悪魔だろ! これ、魔除けらしいぞ。


「次に、ハッピー締め込みというのはこういう服で——」


 なるほど、へそだし前垂れTバックか。


「わあ、セクシー!」

「あーし、少し恥ずかしいかも」


 おまえら、海でもっとエグいマイクロビキニ着ていただろ!


「で、ひょこひょこ踊りというのは——」


 スミレがダンスを実践してみせる。

 やばい、滑稽がすぎるぞ、この踊りは!

 へっぴり腰で両腕を上げ、両手をパタパタさせるスミレ。

 おもしろポーズなのに、真顔のクールビューティーなのがさらにおかしい。


「ぐわははは! こうか?」

「はあっはっはっは! こうであろう?」


 さっそく悪魔二人がスミレの真似をしながら後ろを付いて歩く。

 部屋の中を謎の踊りで徘徊する3人。

 外から見られたら怪しい儀式をしていると思われるだろ!

 いや、オカルト部だからいいのか?


「ここで! さんはい」

「「「悪い子はビネガー!」」」


 まったく意味がわからん。

 だが、みんな笑っているし楽しそうだからいいか。


「よし、門松の被り物は、俺が作ってみるよ」


 学園の北の方にある竹林から竹は調達できそうだしな。


「わたしはアイスちゃんに衣装の相談をしてみるわ」


 なんでアイス? もしかして裁縫とか得意なのか?


「じゃ、今できることは『ひょこひょこ踊り』の練習だな。

 一度みんなでやってみよう」

「おー!」


 全員でスミレの動きの真似をして動いてみる。

 意外と全身の筋肉を使うんだな。


「ここで! せーのっ!」

「「「「「「悪い子はビネガー!」」」」」」


 おお、気持ちいいくらいに全員の声が揃った!

 みんな思い思いの決めポーズを取っている。


——ガラッ


「…………」


 突然部室のドアを開けたハスリア先生に見られた。


「……おまえら、なにしてんだ……?」


「せ、せんせい、どうしてここに?」


 ポーズをどうしていいかわからず、決めのおもしろ決めポーズのまま質問してしまった。


「正式な学校の部活に昇格したからな。わたしが顧問を引き受けることにした」


 なるほど。


「先生ありがとうございます。

 その方が色々都合がいいから、引き受けていただけたんですね」


 スミレがおもしろ決めポーズのまま、丁寧にお礼を言う。

 先生が顧問ならば、資料室にこもらずとも、この部室でも色々相談できるな。

 ハズレスキルの件や、スミレの魔王を調査している件も……って、スミレの方はある意味では完結しているが。



 ◆ ◆ ◆



「それじゃオパっち、お先に〜」

「戸締まりも、お願いするわ」

「また明日〜」

「お疲れ様」


 女子達が部室から去っていく。

 部内『人生すごろく』大会で負けた俺は、年末にやり損ねた部室の大掃除を一人でやることになった。


「ぐわははは! 小僧、すごろく弱すぎるな」

「ぐぬぬ……」

「ほら、ここにも食べかすが落ちているぞ。さっさと掃除せぬか」

「基本的にここを汚しているのはおまえら悪魔だろ!」

「そうかもしれんが、我輩たちはすごろくで勝ったし。

 そういう勝負だったから文句を言われるのは筋違いだにゃ〜」


 部室には、俺と、ここに住み着いている悪魔二人だけが残っていた。


「おまえら、ルーコに言っておやつ禁止にするからな!

 おまえらがおやつを食い散らかさなければ、

 部室はここまで汚れなかったはずだし」

「ちょっと待て小僧! お主にそんなこと言う権利はないだろう!」

「そうだそうだ!」

「権利はともかく、ルーコに『おやつを減らせば部室が汚れにくい』と

 進言することはできるぞ? 早速明日にでも——」

「そ、そこまで言うのなら……我々とお主で再びすごろく勝負としようぞ!」

「なに?」

「お主が勝ったら、ルーコに好きに進言するがよい。

 だが、我々が勝ったら、進言を取りやめてもらう」

「まってばっちゃん!

 それだとデメリットを消すだけで、我々にメリットがないにゃ」

「ならば、我々が勝ったら、おっぱいを揉んでもらおう!」

「いいだろう、受けて立つ!」


 やっぱりそう来たか。だが、問題ない。

 負けなければいいだけさ!




「負けた……」


 こいつら悪魔のくせに堅実に就職して結婚して資産を増やしてゴールしやがって!

 少しは俺を見習って波乱万丈しろ!


「じゃあ早速揉んでもらおう」

「どっちを揉めばいいんだ? オセとアホメット」

「小僧、ぶっちぎりの単独ビリだったのを忘れたのか? どっちもだ!」

「くっそ! じゃあまとめて揉んでやるから横に並べ!」

「こうか?」

「って、なんで二人ともブラ外しているんだよ!」

「なまのほうが気持ちいいからな」


 そういえばこいつら、ルーコに命令されてマイクロビキニを着けていただけで、丸出しが基本だったか。


「もういい、やるぞ!」


 ふたりの4つ並んだおっぱいのうち、外側の2つのおっぱいを両手でつかむ。


——もにゅ、ぷにゃ


 そして、中央のおっぱいの間に顔を埋める。


——もにゅ、ぷにゃ


 一瞬、二人の体が痙攣し、緊張が走る。

 左手にアホメットのおっぱいの感触、左頬にもアホメットのおっぱいの感触。

 右頬にオセのおっぱいの感触、右手にオセのおっぱいの感触。

 準備よし、いくぞ!


——もにゅぷにゃもにゅぷにゃもにゅぷにゃ


 俺は指に力を込め、だが優しくおっぱいを揉む。

 揉むたびに、内側に寄せられたおっぱいが俺の頬にその柔らかさを伝える。


——もにゅぷにゃもにゅぷにゃもにゅぷにゃ


「ばっちゃん……きもちいいにゃ……」

「おっちゃん……我もだ……」


 見つめ合う悪魔。

 こいつら、俺を道具にして二人で盛り上がっているな?


——もにゅぷにゃもにゅぷにゃもにゅぷにゃ


「あっ、あっ、なんで……触られているだけなのに」

「こやつのモミモミには癒しの効果があるらしいからな。おっぱい限定の」


 オセの腰がガクガクと震え出す。

 こいつ、気持ちがいいと腰に力が入らなくなるタイプか。

 ならば——これでとどめだ!


——もにゅっぷにゃっ!


「にゃあああーっ!」

「くふぅ」


 崩れ落ちそうになったオセを、俺とアホメットで支える。


「こ、こんなもんでいいだろ」


《ぴー! 合計22回、なまなまモミモミを確認しました。

 合体なまなまモードで浄化力を11、それとさらに浄化力を追加で11、

 合計22レベルアップします》


 む、悪魔は二人とも浄化力アップだったのか。


「浄化力レベルアップか。小僧、これから大掃除をするのにうってつけだな!」


 俺の体が光り、ビキニアーマーが出現する。

 ツノの付いたサークレット、羽の付いた腰当て、そして豹柄の手甲と具足が装備された。

 これは……アホメットっぽい鎧のデザインと、オセっぽい豹のデザインが融合している!


「二人同時に、なまおっぱいを揉むと合成した鎧になるのか」

「なんだそれ!? かっこいい!」

「これで俺はおまえたち二人のスキルを使用できる!」

「スキル? 我らは悪魔の能力は使用しているが、スキルは授与されておらんよ」


 な、なんだって!?

 って、ここの学生じゃないから当たり前か!

 そんなことに気が付かなかったなんて。


「うう、このビキニアーマーが消えたら俺ももう帰るよ……」



 ◆ ◆ ◆



 翌日の部室。


「ええ!? 掃除できていないじゃん!」

「オパール……サボったんだわ」

「あの後、小僧は我々とすごろくしておったのだ」


 俺はさらにみんなから責められることになった。

 悪魔たちのせいで掃除を忘れていたよ!

 踏んだり蹴ったりだよ、とほほ!


————

次回、おしり!

お楽しもみに!

————

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