15. おっぱいビーチクイーン・アホ変

 ビーチバレー会場——という名の砂浜。

 男子チームも組み分けが完了したが、参加している男子の人数は奇数だった。

 つまり、俺だけぼっちで余った。


「せ、先生どうしよう……」

「あ〜、じゃあきみは不参加でいい?

 賞品がある以上、先生たちが助っ人に入るわけに行かないし……」


 ハスリア先生を困らせてしまった。

 そこへ——


「ふはははは! 我に任せよ!」


 ヤギのヘルメットを被った不審人物が現れる。


「ちょ、アホ! 出てくんな!」

「あら? その子は?」

「あ、えーと、地元の子です。

 ……クラーケン退治中に知り合った、みたいな?」


 思わずごまかす。『この子は悪魔です』とは言い難い。

 言ったらどうなるんだ?


「我もスイカ食べたい!

 スイカを掛けて勝負したいのだ!」

「うーん、じゃあ、まあいいか!

 オパールくんとのチームを許可します」


 まじで?


「ただ、この被り物は危ないから取ってね」

「おやすいごよう!」


 アホメットは、助っ人『アホちゃん』としてエントリーされた。


「いいか、アホメット! 試合中は宙に浮くなよ!

 ルール違反で負けになる。ジャンプはOK」

「おやすいごよう!」

「それから、おまえの姿について訊かれたら、コスプレということ!

 そのツノとか翼とか、下半身とか」

「おやすいごよう。スイカのためなら!」



 ◆ ◆ ◆



 俺たちの一回戦が始まる。


「アホメット、くれぐれも目立たない程度に頼むぞ?」

「ぐわははは! 我にまかせい! 優勝だ!」


 アホメットの登場に、男子たちが沸き立つ。


「だれだあの褐色美少女は!」

「コスプレかな? かわいい!」

「男子で余り者が出たじゃん、その助っ人らしいぜ!」

「俺も端数になればよかった!」

「男子トーナメントに女子の助っ人ってアリかよ!?」

「あのワカメみたいな水着、ちょっと良くね?」


 しまった!

 ヤギ仮面していなくても、アホメットは目立つ存在だったか!

 何か目立たなくする方法——いや、他にもっと目立つ存在が現れれば!


「アナウン子! ここら一帯に試合の実況をすることは可能か?」

《ぴー! この砂浜一帯ですね、可能です。

 音量ボリューム、レベルアップします!》


《さあ! 砂浜のみなさまお待ちかね!

 ビーチバレー大会、ここに開幕!

 実況、解説はわたくし、アナウン子がお送りしますっ!》


 砂浜中にアナウン子の声が響く。

 ノリノリすぎるだろ!


「な、なんだ!?」

「実況とか聞いていないんだけど!」

「この声、だれだ!?」

「というかどこから声が!?」


 みんなが驚き、どよめく。

 そりゃそうだ……。

 でもまあ、いい具合にアホメットのことを誤魔化せるかも?



 ◆ ◆ ◆



 などということはなく、決勝戦まで来てしまった。


「ぐわははは!

 あと一戦! スイカは貰ったも同然だな!」


 というのも、あまりにもアホメットがおっぱいをぶりんぶりん揺らしながら動き回るせいで、相手コートの男子は集中力散漫。

 さらに、常に前屈みのへっぴり腰で試合をする羽目になっていた。

 そりゃ、実はノーブラでおっぱいにワカメを貼り付けただけだからな。


 もちろんそんな状態でまともな試合になるはずもなく、俺たちの連勝。

 勝利と言っても、俺は全然活躍していない。

 ほとんどアホメットが点を取ったんだけど。


《いよいよ男子の決勝戦! まずは『砂浜の貴公子』ハナマール選手!》


「きゃー! ハナマール様ー!」

「すてきー!」


《——と『筋肉の剛腕』ノーキン選手のチーム!》


「ノーキンの兄貴、痺れるでやんす!」

「優勝してくだせえー!」


 名前を呼ばれた二人が拳を振り上げながら、ビーチバレーコートに入場する。

 てかなんだよ、アナウン子! その二つ名みたいなものは?


《対するは——突如として現れた、謎の美少女!

 彼女は浜辺のマーメイド?

 ビーチクイーン、アホちゃん選手!》


 おいアナウン子! そんなに盛ったら目立つだろうが!

 アホメットも両手を振って観客にアピールすんな!


「うおー! アホちゃん! かわいい!」

「アホちゃぁぁぁぁん! 好きだー!」

「いよっ! アホちゃん! 浜辺のマーメイド!」


 なんかファンが出来上がっているし。


《——と、『おっぱい星人』オパール選手のチーム!》


「ブーブー!」

「ひっこめー!」

「なんでおまえが、この子とチームなんだよ」

「俺と変われー!」

「嫌ーっ、変態! ハナマール様、負けないで!」

「なんで貴様、その子の隣で平然と立っていられるんだよ」

「この不能野郎ーっ!」


 ブーイングの嵐。

 アナウン子も、俺の紹介『おっぱい星人』ってなんだよ!

 不能扱いまでされているし。変態で不能っていいところなさすぎだろ!

 泣けてきやがる……。


「フフフ……ボクたちが勝ったら、そこのきみ!

 アホちゃんだったかな?

 夜の浜辺をボクとデートしてもらうのだよ!」


 あっ!? ハナマールのやつ、勝手なことを!


「ぐへへ、俺様は?」

「ノーキンくんは、オパールくんと夜のデートでもするといいのだよ!」


 あいつ、また勝手なことを!!

 悪魔とはいえ、アホメットは女の子だ。

 彼女をハナマールの毒牙にかけさせるわけにはいかない!

 あと、俺をノーキンの毒牙にかけるわけにもな!


「アホメット! この勝負、負けられねえぞ!」

「もとより、我は負けるつもりはない」


《それでは! 最終戦、開始ッ!!》


 勝った。

 え? 優勝? 俺は何もしていないけど。

 普通に、アホメットが超絶身体能力を発揮して、真っ当に勝利した。


「ぐわははは! これでスイカは我が物となるのだ!」

「一人で食べる気じゃないだろうな?」

「我は魔王!

 我の仲間ならば、スイカの半分をおまえにくれてやろう!」

「ああ、仲良く半分こしような?」

「では、スイカの半分……スイカの皮の部分を与えよう!」

「ふざけんな!」


 アホな会話をしている、そのときだった。


 俺は見た。

 昨日貼り付けたワカメは、すでに乾ききっていたのだ。

 試合で激しく動き、徐々にワカメが剥がれてきていたのか?

 限界を迎えたワカメは、肌を離れて砂浜に落ちようとしている。


「そ、それはダメだ!」


 とっさに飛びつき、アホメットのおっぱいを手で隠す。

 本人に羞恥心がなくとも、女の子のおっぱいを晒して辱めるわけにはいかない。


「お主、なにをするのだ!?」


《おーっと! これは大ハプニングです!》


 おい、アナウン子、やめろ!


《なんと水着だと思われていたものは、ワカメを貼り付けていたようです!》


 実況するな!


《ワカメが剥がれ落ち、丸見え! これは恥ずかしい!》


「丸見えだ!」

「きゃー!」

「恥ずかしいやつ!」

「やだー」


 お、終わった……。


「おまえら、俺様を見るんじゃねえ!」


 俺様を? ノーキン?

 ノーキンは見るなといいつつ、股間を隠そうともしていなかった。

 彼の足元には剥がれ落ちたワカメ?


 そういえばあいつ、昨日クラーケンと戦っている時に水着が弾け飛んでいたな。

 あいつもワカメを貼り付けたのか?

 水着代わりに、股間に。


「アホメット、今のうちだ! 来い!」

「なにがだ?」


 理解していないアホメットを、俺は手で胸を隠しながらコートの外に押し出す。


「影よ、この者らの存在を隠蔽せよ! ハイドンシーク!」


 この声は——


「ルーコ!?」


 すぐそばにルーコが立っていた。

 気がつかなかったぞ!?


「今、オパールとアホちゃんの気配を消したわ」


 気配を消した!?

 ルーコのスキルはそんなこともできるのか!


「これで、周囲のみんなには気付かれないわ。

 ここはわたしに任せて、逃げて!」



 ◆ ◆ ◆



 ルーコのおかげで、なんとか会場を脱出することができた。


《とんだハプニングがありましたが、これでビーチバレー大会は終了です!

 最後に、優勝者は表彰台に……》


 遠くからアナウン子の声が聞こえる。


「我のスイカは?」

「諦めろ」


「アナウン子、会場の方はいい感じにごまかしといてくれ」


《なにぃ、優勝者さんが居ない!? どこに行ったのでしょうか!

 まさか、さらなる強者を求めて次の戦いへ……?》


 どういうごまかしだ!


「我の、スイカ……」


 こっちはこっちで泣きそうになっているし。

 魔王の威厳はどうした?


「スイカの代わりに何か買ってやるから!」

「じゃあ……」

「ん?」

「おっぱい……」


 え?


「わ、我の、おっぱいを揉むのだ」


 え? なんで?


「さっきおっぱいを触られたときに思い出したのだ。

 お主のモミモミは、スイカに匹敵する価値がある」

「どういうことだ?」

「揉まれた部分だけ、ひと揉みで何十年分も若返るような感覚……!

 とても気持ちが良かった」


 以前、ハスリア先生が揉まれた側にも癒し効果がある——おっぱいが若返る、ようなこと言っていたな。


「お主におっぱいを揉まれたら、何百年も感じたことのない癒しがあった。

 これは、スイカなんぞよりはるかに価値がある」


 なるほど、何十年とか、数百年分のおっぱい治療。


「わ、わかった」


 あたりに人はいない。

 ここでなら、揉んでいても誰かに目撃されるようなことはないだろう。


 おっぱいに両手を伸ばす。

 すると、アホメットはそのままパタリと仰向けに寝転がった。

 俺に身を任せるように目を閉じて黙っている。


 な、なんかやりにくいな。


——もにゅもにゅもにゅ


 覆いかぶさるような体勢になり、なるべくやさしく、揉みしだいていく。

 スイカの代わりのご褒美だからな。

 昨日はクラーケンを倒してもらったし。


——もにゅもにゅもにゅ


 相変わらず、この子のおっぱいは非常に柔らかい。

 服の布地の感触が一切ないから、余計に柔らかく感じるのだろうか。


——もにゅもにゅもにゅもにゅ


「ふっう、はぁ、はぁ……」


 アホメットの小さな口から吐息が漏れる。

 おい魔王! 上気すんな!


「こ、こんなものでいいか?」


《ぴ、ぴー! 20回なまなまモミモミを確認しました。

 マスターったらアナウンス使いが荒いですね!

 あっちでアナウンスしている最中だっていうのに、こっちでモミモミ》


「アナウンスがおまえの仕事だろ!」


《本職はスキルに対するアナウンスですよぉ!

 ビーチバレー実況は、マスターがやれって言うから》


「その割にはノリノリだったな」


《ああっ!? 会話のボリューム、変え忘れていました!

 この会話、ビーチバレー会場に全部聞こえてますよ!》


「な、なにい!?」


《嘘でーす!

 マスターが意地悪を言うので仕返しでーす!》


 なんなんだアナウン子のやつ。

 それはそうと。


「おい、アホメット! こんなもんでいいか?」

「すぅ、すぅ……」

「寝てんな!」


——ぺしぺし


 アホメットの頬を軽く叩く。


「アホメット! 起きろ〜」

「むにゃ?」

「満足したか?」

「ふぁ〜、我は満足したぞ……おっぱいが100年分は若返った気がする。

 よいしょと」


 起き上がっておっぱいを見せつけるな!

 今までは10代の女子にしかスキルを使用していなかったから、おっぱいの若返り効果が実感できなかったのかもしれないな。

 アホメットが何百歳か知らないけど。

 まあ、そのアホメットも10代、下手をすると10代前半くらいに見えかねない外見だけどな……。



「あ、こんなところにいたのね」

「ルーコ! こっちに来たのか」

「会場の方、アホちゃんはおうちに帰ったということにしたわ。

 あなたはその見送りで一緒にいなくなったことにした」

「た、助かる。

 んで、こいつなんだが、召喚を取り消して戻せないか」

「それは無理……海で召喚したように見せかけただけで、本当は気配を消して最初から近くにいただけだから」

「え?」

「わたしのスキル、対象の気配を消したり、気配を探したりするだけだわ。

 消していた気配をキャンセルしたら、気配に気づき急に現れたようにみえる。

 だから、召喚されたように見えただけ」

「そ、そうだったのか。でもハッタリとしては十分だったな。

 本当にあの場で悪魔召喚したのかと思った」

「ふふ……今もあなたたち、わたしも含めて気配を消している状態だわ」

「ああ、じゃあアホメット以外はキャンセルしてくれ」

「影よ、存在の隠蔽を明かせ! ハイドンシーク!」

「これで俺とルーコの気配は周囲にもわかるようになったんだな」

「さあ、帰るわよアホちゃん」

「むにゃ、ふぁ〜い……」


 ルーコがアホメットの手を引いてみんなの元に向かって歩き始める。

 なんか幼い妹の手を引く姉妹みたいで微笑ましいな。

 アホメットというより、アホの子だし。


《マスターは、あんな子のおっぱいを先ほどまで揉みしだいていたんですよね》


「そ、それは言ってくれるなよ……」


————

次回、このおっぱいスキルの謎に迫れ!

お楽しもみに!

————

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