第60話 アイホートの雛の追放 - その10

2017年07月21日(金)1時09分 =萌葱町もえぎちょう警察署正面玄関=


 文野ふみの奈穂なほさんの戦いは激化していく。

 奈穂なほさんは、一台、また一台と文野ふみののドローンを落とす。それに対して文野ふみの奈穂なほさんの服の裾や髪先をプロペラで切り裂いたり巻き込もうとしている。

 そう言えば、髪は女の命と聞いたことがある...。やっぱり女の戦いって怖ぁ...。

 しみじみとそう感じていると、一気に奈穂なほさんが飛び上がり距離をとる。

「ふぅ...。もう面倒だから、道を開けてもらうわよ。」


霞城流かじょうりゅう 奥義おうぎ  玉石雷迎ぎょくせきらいごう

神樂破城かぐらはじょう】∽【雲流氷晶うんりゅうひょうしょう】∽【二律灰煩にりつはいはん


 奈穂なほさんが技を放った瞬間を、俺は見えなかった。光のような速度で次々とドローンが落とされる。だが、肌身で感じる。この技は奥義だ。それも、の奥義だ。

 瞬く間にドローンを壊滅させた奈穂なほさんはそのまま文野ふみのを蹴り飛ばそうと左足で回し蹴りを放とうとしたその瞬間、黒い何かが間に割って入る。

「グレイ...?命令はどうしたの!」

「応答 達成済ミ 現在ノ命令ハ 個体名『文野ふみの きた』ノ護衛デス」

 なんなんだ、あの機械は...。でも、文野ふみのの護衛ということは...味方なのか?

 そして、その機械の後を追うように香苗かなえさんと伸二しんじさんが警察署の中から飛び出てくる。

奈穂さほさん!津雲つくもが持ってかれました!」と大声で伸二しんじさんが奈穂なほさんに伝える。

 どうやら燈樫ひがしさんは目的を達成したみたいだ。であれば、俺たちがするべきなのは退。だが、この猛獣たち公安職員の包囲網から逃げ出せればの話だが...。

 だが、一触即発のこの状況を打開する方法なんて...。




 神話生物などと言った神話的事象を相手取るうえで、重要なことは何か。

 即刻撃退するための火力の高い武器?確かにそうだ、圧倒的な力は時に緻密な策略すらも薙ぎ払うことがある。

 どんな状況でも対応できるようにする戦術?確かにそうだ、どれだけ強かろうと術中にかかってしまえば無力化することだってできる。

 一発逆転を目論むための魔術?確かにそうだ、どれだけ武力的な力を持っていても概念に干渉されてしまえば手も足も出すことができない。

 確かにすべてが勝利への可能性であり、正解ともいえる選択肢である。

 しかし、公安対神性特務課にとって一番重要なのはただ一つ。

 坂下さかしたまもる壱級職員以外のに巻き込まれないこと。

 その理由を、今、彼らは知ることとなる。


 瓦礫の中の一角。その鋭角に悪意の紛れた瘴気が集う。

 それに気づいたある者は刀を振るわんとし、またある者は周囲の者を守ろうと空気をする。

 しかし、そんな小手先のものでは止まらない。

 瘴気は集い、纏まり、形を成す。死臭や腐臭を漂わせた異質な空気とぼたぼたと滴らせる青い粘液に纏われたその生物とも形容しがたいそれはまるで犬のようだ。太く曲がりくねって鋭く伸びた注射器のような舌をまるで品定めするかのようにこちらを一人一人選別しながらも、奈穂なほさんの刃を軽々と避け、果てには反撃までしようとする。そして、憎たらしそうに奈穂なほさんはその怪物の名前を口にする。

「ティンダロスの、猟犬...!」

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