第35話 八咫烏は見ている - その4
「烏はうちの象徴でね、家紋にも描かれているんだ。そして、中でもこの
そう言いながら、
白色を基調とした洋装の中、墨で中心に八咫烏の文様が描かれている。そして、
「これが見たかったのだろう?どうした、入らないのかい?」
部屋に立ち入ろうとしていた足にその意思を再起させるにはあまりにも気圧される威圧感がその部屋から放たれていた。まるで、一歩進めば焼き殺されてしまうような、そんな感覚。自他よりもさらに高次の次元から覗かれているような気色悪さ。その部屋にまるで何かが
一刻でも早くこの場から離れるべきであると脳は語りかけているのに、この身体は言うことが効かない。
これは、この感覚は…、そうだ。この感覚は『畏怖』だ。
あの時、
そうやって、僕の意識は勝手に部屋へと向かおうとする。しかし、それでも足は進まない。なぜだ、両方の眼球を後ろに向ける。見えない。首を捻って更に後方を確認する。
やっと見えた。
そうだ、
一度、深呼吸をする。落ち着きを取り戻す。そして、ちゃんと
しっかりと、
そして、意を決して振り向き、一歩、また一歩と烏の間へと踏み入る。
鈍重な空気感に気圧されそうになる。だが、それでも立ち止まることはない。傍から
そのまま進み、そして紫色の巾着をまじまじと見る。
「これはいったい何が入っているんですか?」
「…それは、お守りです。ただ、もう少し細かく言うのであればお守りよりもご神体のようなものですが。」
「ご神体...?それは何とも信心深いもので。ちなみに、この袋。中を見てもいいですか?」
「…まあ、気になるのでしたらどうぞ。止めはしませんとも。」
その返答に驚いた。本来
「おや、驚きになっているみたいで。あなたが思っているよりも、そこまでこれ自体は重要ではないのです。結局のところ、大切なのは偶像ではなく信仰心ですから。」
ふむ、確かに言われた通りではあるか。キリスト教の宗派も偶像崇拝の有無によって別たれているものもある。実際そこはナーバスな話題だが、どのみち信仰心が重要であるのには変わりない。しかしながら、このような場で祀られているのであろう物を不用意に触るのは信仰上良くはないだろう。
「そうなんですか。まあ、罰が当たったら嫌なんで触りはしませんけれど…。」
薄ら笑みを浮かべて彼の方へと振り向きながらそう言葉を返す。すると、
「あれ、
「ああ、
「そうなんですか。それで、
「いや、大丈夫だ。それに、
「そうですか...でしたらお見送りの方させていただきます。」
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