第22話 魂に植えられて、脳裏に刻む

 食事を終え、りくさんを除いた4人がテーブル席に残された。そしてその静寂を切り裂いたのはおおとりさんだった。

「よし、腹ごしらえも済んだし、今後の指針を決めよう。」

「指針を決めるって、結局あの子を探すので会ってるのですか?」

「そりゃ、奢ってもらった分は働かないとね。流石の俺でもGive & Takeギヴ アンド テイクの精神はあるよ。」

 そのように飄々とした会話を彼らはしていたが、俺自身はあまりその会話を集中して聞くことはできなかった。何故かと聞かれなくても分かるだろう、あのひかりについてだ。俺の記憶に齟齬そごがなければその子と聖夜前災せいやぜんさいの化け物は同一個体おんなじだろう。やはり鈴埜宮すずのみやは財閥ぐるみであれについて何かをしていたのか?

 そう逡巡しゅんじゅんを巡らしていると、俺の様子に気付いてしまったのか燈樫ひがしさんが反応する。

「えーっと、大丈夫ですかね。何か考えらしているみたいですけど。」

「・・・いえ、そんなことありませんよ?」と、急に聞かれたため歯切れの悪い返答をした。すると燈樫ひがしさんは、

が聞こえました。あなたは何か今回の件で知っていること、もしくは気がかりのことがあるんじゃないんですか?」と目を細めて言い出す。


「――はい、あの子について心当たりがあります。」と、急にその言葉が聞こえた。

 誰がそんなことを言い出したのかと思い、周囲を見回して確認しようとした途端に俺は答えに至った。


 その言葉を口にしたのはだった。


 体が動かない。いや、動いてはいる。正しく言うならば、身体の主導権がない。つらつらと俺の身体は過去に経験した聖夜前災せいやぜんさいの内容を話し始める。

 内容を聞いていた他の3人はどこか思うことがあるのだろうか、それぞれ思案に耽りながらも俺の抜け殻が喋り続ける言葉に耳を傾けている。どこか、気持ちの悪い感覚がするが、それもこの異常性の所為だろうか。


 あれから、数十分が経過しやがて俺の身体は言葉を垂れ流すのを終えたようだ。そして、すぐさま燈樫ひがしさんの方へ鋭い眼光を放ちながら睨みつける。すると、少し困った顔をして燈樫ひがしさんは、

「急に探るようなことをして申し訳ない。にしても、君がこがらし君か。」と納得交じりの言い訳をし始める。

「アレはいったいどうやって...って、燈樫ひがしさんに名前教えましたっけ、俺。」

 ふとした疑問をぶつけると、一方的に情報の搾取をしたからなのか、それともただ単に根がいいのかは分からないが理由を話し始めた。

「いや、君からは教えてもらっていないよ。でもね、聖夜前災せいやぜんさいには聞き覚えがあるとも。なんせ、今回俺をここに連れて来た原因は文野徠ふみのきただからな。」

 またなんとも久しぶりな奴だ。立て続けに過去の事件聖夜前災に関係するものが現れてくる。もしかしてだが、何か仕組まれているという可能性も考えた方がいいのだろうか。

 そう考えているとおおとりさんたちも首を挟み込む。

「そうなると、そのひかりちゃんってのが人間ではない可能性があるってことだよな。それに、そのひかりちゃんって確か...」

「7年前に事故で亡くなってしまっているのです。でもそうすると、6年前に彼女の姿をした化け物がいることにはある程度説明がつくはずなのです。」

「そうだな。ってなると、燈樫ひがし君たちと出会ったDEMともある程度関連性が導き出せるね。」

 いやいやいや、待て待て待て。この一瞬で情報が錯綜さくそうしすぎだ。いったんここは、脳内で整理をして...、

 と、一旦冷静になろうとした瞬間に燈樫ひがしさんとおおとりさんが同時に口を開いて言葉を放つ。

「「人造人間ホムンクルス技術。」」

「やっぱり、それしかないな。しかしながら、わざわざ過去に聖夜前災大事件を起こしているのに開発を続けるというリスクを背負い続けるとは思えないがな。」

「というか、まずりくさんが社長になったのはつい数か月前のはずなのです。であれば、りくさんだけ知らないという可能性はないのですか?」

「あり得なくはないが、こがらし君には本当のことしか言えないようにしたからその内容が嘘で無ければ実の父親が逮捕されている。そのことで何かしらに気付いていないとおかしいだろう。」


人造人間ホムンクルス』という単語を皮切りにディベートが加速する。あまりにも会話の次元が一、二段階上だ。どうやってもこの間に挟まれる気がしない。


 そして、ディベートが始まってから数分が経過した。俺の脳内には一部の単語だけが残りそれ以外は記憶の彼方へと吹き飛んでしまった。そして、一旦ディベートのの熱が収まりおおとりさんが口を開く。

「となると、結局だが自分たちの足で確認するしかないんじゃないかな。」

「まあ、そうだよな。」と、燈樫ひがしさんも同調し、彩花あやかさんに至っては再びカプチーノを注文し、今やカプチーノタワーが樹立されていた。

「そうなると、結論的にはどうしましょうか。」と、質問を投げ込むと、

「まずは、どんな状況にその子がいたのかを確認する必要があるのです。」とカプチーノを啜りながら彩花あやかさんが答える。

「うっし。じゃあ、まずは情報収集だな。となると、行くとしたらりくの家だな。」そう言って、おおとりさんが席を立つと燈樫ひがしさんに彩花あやかさんと続いて席を立つので俺も席を立ち、|鴻さんの後をついていく。


 そして、そのまま店を出ようとすると店員さんに呼び止められる。そして、

「カプチーノの追加のご注文が12杯ですので合計で4924円になります。」と支払いを要求される。

 彩花あやかさんの方を見ると、笑顔でサムズアップをしてすぐさま外へと駆け出して行った。

 それを見ていた燈樫ひがしさんは呆れた顔で代わりに立て替えていた。その背中はちょっと立派な姿に見えた気がした。


 比較的まともの大人ってこういう感じなのか。としみじみと感じていた。

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