第5話 空を夢見て、人は愚直に邁進する

 15時23分、そろそろ5分が経つ頃だろうか。外からは警察がやってきたのだろうサイレンの音が鳴り響いている。1秒1秒がとても長く感じる。

 さすがにこれ以上滞在するのはまずいと思い回線センターにいる文野ふみのに声をかけようとしたら扉が開け放たれる音と共に文野ふみのが出てきた。

「準備完了、後は勝手に流れるから脱出しよっか。」

「脱出するって言っても下には警察がいるから出られないぞ?」

青木あおき君、古来から伝わっているいい言葉を教えよう。『押してダメなら引いてみろ。』つまり、下がダメなら上に行けばいい。時間がないからね、急ぐよ。」

 そう言うと文野ふみのは僕の服の袖の裾を引っ張り、勢いよく走り出した。


 


 しかしながら、現状打開策を持っているのも文野ふみのだけだろう。致し方ない、腹をくくるしかないだろう。どうせここでつかまっても死ぬわけじゃない。もう一度巻き戻るだけ、今回は答えを析出するための試行の一回だ。あまり気張りすぎるのも良くないのかもしれない、そう考えておこう。



 やがて僕たちはテレビ局の屋上へとやってきていた。そして、僕たちを出迎えたのは2台の大きなドローンだった。そして、文野ふみのはそれを指さして、

「これが私たちの脱出経路だよ。」と言い放った。ここまできて僕は選択を間違えたのかもしれないと思いつつも、後ろから聞こえる僕たちを追う奴らの声が迫ってきているため文野ふみのにどう脱出するのかを聞こうとすると、

「じゃあこれのこの部分を掴んでおいてね。あと、この輪っかを脇下まで通しておくと落ちにくいから。」と言って1台のドローンを押し付けてきた。

 もしやこれで空を飛べって言うのか、と言おうとしたがどうやら本当に空を飛ぶ用だ。呆れて何も言うことができずに言われるがままロープで体を固定し、ドローンの底にある取っ手のようなものを強く握る。まあ、失敗したらしたで次の時に文句を言えばいいだろう。

 そう考えていたら、文野が何かリモコンのようなもののボタンを押した。するとドローンのモーターが力強く唸り出し、ふわりと地面の感触が消え浮遊感が体を包み込んだ。

 そのまま飛び立とうとした瞬間、バンッと力強く屋上の扉が開け放たれた。そして、そこから何名も警察官たちがやって来る。だが、彼らは僕たちが空を飛んで逃亡しているのを見て豆鉄砲をくらった鳩みたいな顔をしていた。本当に滑稽だった。

「結局、空に飛び立ったのはいいんだがこれからどうするんだ?」と文野ふみのに聞いてみると、

「どうもしないよ。私たちはループに入るまで空を飛んで爆発から逃れながら町の被害を確認する。それが私たちの役割だからね。ほら、ドンドン家から人が出て行ってるよ。テレビにも存外効果があるみたいだね。」と回答を交えながら話題がずらされた。

 しかしながら、彼女の言う通り下界の家々からは一人また一人と民衆が住宅街から逃げ出している姿が見える。僕自身はそこまでテレビ見ないんだが、年末と言うのもあってか結構テレビを見ていた人達が居たみたいだ。

 苦労の甲斐かいはあったのだと思っていたが、一つ気になったので文野ふみのに聞き質してみる。

「そういえば、わざわざテレビ局に突撃しなくてもお前だったらハッキングできるんじゃないのか?」

「・・・あ、そうじゃん。」そう言った此奴も屋上に来た警官と同じように豆鉄砲を喰らった顔をしていた。鼻で笑ってやった。


 そうしていると、地表から眩い光が発される。そして、轟音と共に住宅街が薙ぎ払われる。ただし、一部を除いて。住宅街の一角だけが何かによってせき止められたように物理的破壊を免れていた。多分だが、そこに坂下さかしたたちがいるのだろう。

 しかしながら僕たちはそんなことを考えている余裕はなかった。なぜならば、轟音と共に襲い掛かってきた爆風に煽られ、空に漂っていた僕たちは水たまりに小石を投げ込まれたように空中を不規則な流れで吹き飛ばされた。視界がグルグルと周り、どちらが上でどちらが下かすらも分からない。このまま墜落してしまうのではないのかと一瞬だが命の危機を感じ、ここで脱落してしまうのではないのかと恐怖が少し混じった感情が体の中を埋め尽くそうとしていた。だが、急にモーターが強く回り出す。それにより飛行方向が固定され、やがて体勢を立て直すことができた。

 体制が安定し、心の底から安堵を感じていると、粉塵の中から文野ふみのが現れた。

「そっちも無事そうで、良かったぁ。流石に爆風には耐えきれなかったか。」と彼女も安堵の表情を表しながらも、しっかりと反省をしているところは流石開発者とはなったが、わざわざ今反省するのかという呆れがため息となって口から出てきた。

 その落ち着きも束の間、坂下さかしたたちはどうなっているのかと状況を確認しようとすると、粉塵の舞う空中を介して銃声が僕たちの耳へと届いてきた。


 その瞬間、身体の力が一気に抜ける。そしてそのまま、地面へと墜落していきながら瞼が重く落ちていく。

 この感覚は、感じたことがある。このままタイムリープに入るのだろう。ただその前に僕が考えていたことはただ一つ。『もう文野ふみのを信じ切ることはしないでおこう』だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る