第3話

「すいませーん。ミステリ研究部でーす」


 カチャリと鍵が開く音がした後、中から女子生徒が出てくる。ドローン部の二年生らしい。俺達の背後にいる相馬先輩をチラリと見た後に、なにやら訝しげな目を向けてくる。


「あれ、相馬じゃん。どした?」

「よ、よう・・・・朝倉」


 女子生徒と相馬先輩の間に謎の沈黙が流れる。なぜ事件について説明しないのか相馬先輩に尋ねると、「実は女子と話すが苦手で、あまり関わりの無い奴とは上手く話せない。代わりに話してくれ」と情けない説明を受ける。


 仕方ないので俺が説明する。説明にドローン部の朝倉先輩はうんうんと頷き、たまに怪訝に眉を潜めて、最後に首を横に振った。


「その時間帯にここを通った人か・・・ごめん。分からないな」

「そうですか・・・」

「あ、でも、ちょうどそのくらいの時にドローンの試運転をしてたんだ。校庭の方に飛ばしてね。ドローンにカメラもついてるし何か映ってるかも。見る?」


 これに関して選択肢はないだろう。振り向いて皆に確認を取ると、日暮は「ラッキー」と呟く。相馬先輩は未だ目を泳がせ、何も反応を見せないが内心では喜んでいるに違いない。


 映像をパソコンで観させてもらう。


「はい。じゃあ再生します」


 映像はドローンが校庭の方向を見るところから始まる。丁寧な事に映像の右腕に時計までついている。飛行開始時刻は15:37。午後三時三十七分。


 ある程度飛んだ後、ドローンは振り向き校舎の方を見る。


「止めます」


 表示時刻は15:43。午後三時四十三分。

 相馬先輩の情報によると、相馬先輩が部室を後にしてから三分後。

 映像を止め、カメラの端に収められたミス研の部室に目をやる。


「う〜ん・・・良く見えないな。中が暗いから扉が閉まってるのは分かるけど、机の上のチョコは見えない!」


 相馬先輩が言う。男のさがか、ドローン視点の映像に興奮したのか声に抑揚がついている。確かに空中飛行の映像は見てて楽しい。


「人はいないように見えます。その情報だけでも大きい。進めましょう」


 この時点で部屋内に人はいない事を確認した。

 まだ侵入していない、もしくは見えない場所にいる。


 映像を再生する。

 ドローンは再び校庭の上を飛び回る。その間しっかりと校舎を映した映像はない。

 再び校舎の壁をなぞるようにドローンが飛行する。ラッキーな事に、ミス研の横を通った。


「止めます」


 15:48。午後三時四十八分。

 先程よりも明瞭に部屋の中が見える。犯人らしき人影は映っていない。でも少しぶれているが六つの並べられた机が見える。


「そういえば聞くのを忘れていました。チョコの特徴。何か見た目の特徴はありました?」

「ええと・・・黄色い箱。そうだ、黄色い箱に入っていた」

「黄色い箱・・・」


 蛍光色だ。


「机にそれっぽい物はありません。つまりこの映像が取られた時点でチョコは盗まれたと言う事です」

「そう・・・だな」


 最後、ドローンがドローン部の部室に帰ってくる時、ドローン部の部室の前の廊下を歩く相馬先輩達が窓越しに映る。


 表示時刻は15:55。午後三時五十五分。


「相馬先輩。確認ですが相馬先輩が大沢先輩を呼びに行ったのは三時四十分で間違いないですね?」

「ああ、それは間違いない」


 ふむ。

 ドローンの映像を元に時間関係をまとめる。


 15:37→ ドローン発進。(事件に関連性なし)

 15:40→ 相馬先輩がチョコを置いて出ていく。施錠。

 15:43→ チョコの有無は不明。扉は閉まっている。鍵の状態は不明。無人。

 15:48→ チョコ消失。扉は閉まっている。鍵の状態は不明。無人。

 15:55→  相馬先輩、大沢先輩、帰還。


 早すぎる。


 時間を見ると犯人は遅くとも八分で鍵を開けて中に入ってチョコを取ったという事に気づく。そして映像には奇跡的に姿は映っていなかったが、その間に密室トリックも作っていたのだ。突発的な犯行として実行した事柄が多い。


 いや待て。

 突発的とは限らない。

 事前に計画された犯行かもしれないじゃないか。バレタインデーは一年の決まった日に来る。もし相馬先輩が今日チョコを貰うと知っていたら、計画的な可能性がある。


 なら、もし計画的なら、事前準備があったとしたら、犯行のステップを一つ省けるんじゃないか?


 例えばそう・・・あの部屋には元から・・・。

 あの部屋には元から・・・。


 ああ、そういう事か。


「なあ日暮、この事件について何か分かる事ないか?」

「お、その顔。なにか気づいたかなー??」


 ピロピロピロ。

 相馬先輩のポケットの携帯が揺れる。


「おう、どうした大沢?」


 発信者は校庭に行った大沢先輩のようだ。

 スピーカーにした電話から、大沢先輩の推理の結果が聞こえる。


『俺の推理。窓から侵入はなさそうだ。朝比奈君のいう通り、校庭からめっちゃ見える。運動部の奴にも聞いたけど、校舎でクライミングしてる奴なんていなかったって』

「そうか。実は俺達もある映像を見てな。そこでもクライミングしてるやつはいなかった」

『そうか〜。やっぱり俺には推理向いてないわ。部室戻るわ』


 電話が切れる。


 相馬先輩は俺に向き直して、もう一度部室をじっくり確認しようと提案する。絶対に密室を作り出した証拠があるがずだ、と。

 しかし断らせてもらう。


「いえ、その必要はありません」

「え??」

「解明できました。部室に戻りましょう」

「本当か??」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る