10年後の私からの手紙

まさか からだ

第1話 届いた未来からの手紙

 「美咲、またランチ誘おうと思ってたんだけど、今日は無理?」


 同期の彩花がにこやかに声をかけてくる。オフィスの窓際に座る美咲は、一瞬ためらいながらも、小さく微笑んで頷いた。


 「うん、大丈夫。」


 「よかった!じゃあ、今日は新しくできたカフェに行こ!」


 彩花はいつも明るく、誰とでもすぐに打ち解けるタイプだ。美咲とは正反対で、自然と周囲の人々を惹きつける。美咲はそんな彼女を尊敬しつつ、少しだけ羨ましく思うこともあった。


 同じチームの同期たちと談笑しながら、ふと目の前のデスクに視線を向ける。そこにいるのは、密かに想いを寄せる人——蓮だった。


 蓮はクールな雰囲気を纏いながらも、仕事に対しては誠実で、どんな時も冷静に判断を下す。美咲とは会話を交わす機会がほとんどなかったが、彼の一挙手一投足に心が揺さぶられる自分がいた。


 (私ももっと、積極的になれたら——。)


 でも、何をどう変えればいいのか分からない。そんな漠然とした思いを抱えながら、美咲は今日もただ、遠くから蓮を見つめるだけだった。




 ランチの時間になり、彩花と共に新しいカフェへ向かった。店内は落ち着いた雰囲気で、木の温もりを感じるインテリアが心地よい。メニューを眺めていると、彩花がニヤリと笑いながら話しかけてきた。


 「ねえ美咲、最近気になる人とかいないの?」


 美咲は一瞬ドキリとしたものの、慌てて視線をそらす。


 「べ、別に……。」


 「えー、絶対いるでしょ?だって、時々すごく分かりやすいんだもん。」


 「そんなことないよ……。」


 苦笑しながらも、心の中では蓮のことを思い浮かべてしまう。どれだけ彼を意識しても、話しかける勇気は出ない。


 (もし、私がもっと自信を持っていたら、何か変わっていたのかな……。)


 そんな考えが頭をよぎったが、美咲はそっとその思いを胸にしまい込んだ。




 その日の夜。


 家に帰り、鍵を開けてドアをくぐると、ポストに一通の手紙が入っているのが目に留まった。


 (珍しいな……。)


 封筒は上質な紙でできており、どこかクラシックな雰囲気が漂う。差出人の名前は書かれておらず、ただシンプルにこう記されていた。


 「10年後の私より」


 「……え?」


 思わず、心臓が高鳴る。冗談のような文言に戸惑いながらも、美咲はリビングに腰を下ろし、慎重に封を切った。


 中には、一枚の便箋が入っていた。


 「美咲へ」


 「あなたは今、自分の魅力を十分に発揮できていないわ。でも、安心して。あなたには、もっと輝ける未来が待っているのだから。」


 手が小さく震える。まるで、自分の心を見透かされているようだった。


 「あなたが変われば、運命も変わるの。」


 「もっと自分を大切にして。美しくなって、積極的に自己表現をして。」


 美咲は、まるで魔法にかかったかのように、その言葉をじっと見つめた。


 「そして、恋も——。」


 そこまで読んだ瞬間、胸が大きく高鳴った。


 (これは……どういうこと?)


 「10年後の私」からの手紙。そこに書かれていたのは、未来の自分が今の美咲へと贈る、変身のヒントだった。


 この手紙の通りにすれば、本当に私の未来は変わるの?蓮との関係も、変わる?


 美咲はそっと手紙を胸に抱え、窓の外を見上げた。


 (もし……もし、未来が本当に変わるなら——。)


 その夜、美咲の心には、小さな決意の灯がともったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る