ピースライト

「はい!さーん!にー!いーち!」

「うおお!やべ!」

 大学生にもなって騒いでるやつらがいる。あれは俺の学科の友達だ。なぜかわからんが俺はあいつらと行動をともにしている。今あいつらは昔流行っていたものをやりたいとか言いだして、大学内の中庭でメントススプライトをやっている。すべてが意味わからない。

「なあ葛飾さあ」

「葛飾じゃねえよ!てかいいの?高橋、レポートは」

「やば!ちょっとクラウンチングスタートで行きたいから誰かスタートブロックやって!」

「なんで踏まれる側やんだよ!送り出す側やらせろよ!」

 高橋は冗談しか言わない。偶然となりに座ってきて俺の墨田という名字を見るは葛飾と呼ぶようになった。安直なのかなんなのか。俺はあいつのペースに乗せられ、あいつの大量のボケが織りなすテーマパークのスタッフもとい友達が増え、今もあいつと一緒にいる。正直あいつが真面目な顔をして、真面目な話をしたところを見たことがない。急に黙ったと思ったら急に歌いだすというようなただただ緩急がすごいやつだ。あいつ、レポートもどんなこと書いてんだろう。真面目な話を切り出してもいつもはぐらかされてしまう。友達として嫌いではなく、みんなむしろあいつのことは好きなのだけど、友達をやっていてもあいつのことはあまりわからない。雑談のときもあいつは等身大の話をしないというか、その話からじゃあまりどんなやつかわからない話ばかりをするからそこからもわからない。おまけにあいつのボケは様々な分野に精通してて謎に知識があるのも底知れない。まあ、別に悪い奴じゃないし優しい奴だからあまり気にならない。


 大学生になって初めての秋が来ようとしている。まだ俺たちは夏休みということもあって学科の友達と居酒屋に行った。もちろん高橋も一緒だ。

「ちょい葛飾っ」

「どした?」

 高橋が俺に小さな声で話しかけてきた。いつもよく見るにたにたした顔だ。

「あの子かわいくない?」

「どの子?」

「あのメガネの!サブカルっぽい!」

「ああ、確かに、かわいいね、あ、でも……」

 じろじろとサブカルちゃんを見ていたら彼氏であろうガタイの良い短髪の人がサブカルちゃんの前に座る。高橋の肩をたたいた。

「うわあまじかよお!」

 大げさに声を上げて机に突っ伏して高橋は言った。俺もみんなも笑いに包まれた。そこからみんなで色んな話をした。恋愛の話、単位の話、教授の話、もちろん高橋はギアを飛ばして毎度毎度俺たちに笑いを届けてくれた。笑ってのどが渇くから酒が進む。気づけばみんな酔っぱらっていた。

「高橋!トイレ行きまーす!」

 そう言って元気に飛び出していった。みんなであいつ元気だなーなんて話しながら、俺も少し酔いがきついことに気づいた。俺も立ち上がる。

「タバコいってくるわ」

 この店は全席喫煙席だが俺以外に喫煙者はいない。流石にそういうところはわきまえたいから俺はいつも外のちょうどいいところに座ってタバコを吸う。少し千鳥足になってドアを開けて、体重に身を任せて座り込んだ。少しだけ声が聞こえる。

「うん、大丈夫。男しかいないし、いつも話してるみんなとだよ」

 高橋だ。電話をしてる。顔のすぐ下には火種が赤く光っていた。電話が終わったのを見計らってすかさず高橋のところに行った。

「高橋お前タバコ吸うの?」

「やっぱ堅気じゃないのに憧れるからなあ、ちょっと今日ノリで吸っただけだよ」

 多分嘘だ。よくわからないけど、どこかいつもよりキレがない気がする。改めてちゃんと聞いてみた。

「高橋なんでタバコ吸ってるの?」

「大事な人と少しでも長くいたいからかな」

 どういうことだろう。もしかしたら聞いてはいけないことを聞いてしまったのかという焦りを必死に隠していたら、微笑みながら言った。

「いや、一緒にいるのに五分も離れるの嫌だろ!」

 大事な人と電話してるときの顔だった。

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