チョコ瓦割り大祭

ナカナカカナ

チョコ瓦割り大祭

「わっしょい! わっしょい! チョコクレわっしょい!」

 

 モテない男達はチョコレートで作られた神輿を持って練り歩き、ある場所へと向かっている。

 大きな玉ねぎが屋根に乗っている……そう。日本武道館である。


 武道館には続々とモテない男達が瓦型のチョコレート『チョコ瓦』を持って集まっている。

 目的は、男達の男達による男達の為の行事……

 『チョコ瓦割り大祭』である。

 毎年2月15日。前日のバレンタインデーにチョコを貰えなかった男達がチョコ瓦を購入し武道館に集まるのである。

 ある人物にチョコを割って貰う為に。


 最大収容人数14501人の日本武道館。15年続く、この『チョコ瓦割り大祭』も今年でついに満員御礼となった。

 主催者のナカナカ氏は語る。



「始めた時はね……一人でやってたんですよ。チョコ瓦割り(笑)武道館借りてね。500万くらいかかるから本当にキツくて……でもね。やっと今年は満員御礼で……本当、ありがたいですね」



 ―― なんの為にチョコ瓦割りを? ――



「ん? んー……なんなんですかね(笑)まあ、チョコ欲しかったんですよ。オレはね、ここにいるぞ! ってね。チョコ貰いたいぞ! っていうね、アピールですよね」 

 


 ―― ご結婚されてますよね? 何故まだ続けてらっしゃるんですか? ――



「あー……。そうですね。結婚したんですけどね。チョコ貰ってるんですけどね(笑)うん……あのー……4年目にね、初めて人が来てくれて。5人だったんですけど(笑)その人達がね、いまだに来るんですよ。うん……毎年「もう来るなよー」って言ってんですけどね……来ちゃうんですよね(笑)……その内、こんな大きなイベントになっちゃって。やめらんないですよね、皆の為に」



 ―― モテない皆さんの為に頑張ってらっしゃるというわけですね。今年は満員御礼ですね。14501枚の瓦チョコを割ることになると思いますが、意気込みの程を ――



「去年……えーっと……何枚だっけ? ああ……うん……8056枚。プラス6000枚ですからね。去年は右手の骨折れましたから(笑)鍛えてきてます。全部割ってみせますよ! 絶対!」

 


 インタビューを終え、壇上に上がるナカナカ氏。

 大歓声に包まれ、ナカナカ氏は観客席を埋め尽くす男達を見渡す。


「お前ら! また今年もチョコ貰えなかったのかー!」


「「おおおおおおおおお!!」」


「もう来んな! って言ったろ! 今年もダメだったのか!」


「「おおおおおおおおお!!」」


「今年はなー! 過去最高の14501枚のチョコ瓦が集まった! バレンタインデーにチョコを貰えなかった惨めな男が14501人ってわけだ! みっともねえよなー!」


「「おおおおおおおおお!!」」


「今からなー! チョコ割るぞ! オレがなー! お前らの為にチョコ割るぞ! 愛だぞ! オレの愛がチョコ割って……そのチョコ持って帰ってなー……食え! 食って! 食って! 来年頑張れ!」


 会場からは大きな笑いと、共感の叫びが上がる。


 場内アナウンスが流れる。


『それでは、チョコ瓦割り大祭実行委員長のナカナカ氏自らが、皆様の熱意に応え、全てのチョコ瓦を割らせていただきます』


 ナカナカ氏は右の拳を高々と振り上げた。


『それでは……チョコ瓦割り、スタートです!』


 場内アナウンスの開始の合図と共にナカナカ氏がチョコ瓦に拳を振り下ろす。


 バキャッ!


 10段ずつに積まれたチョコ瓦が次々にナカナカ氏の手に寄って割られていく。


 バキャッ!


 バキャッ!


 ナカナカ氏の拳が炸裂するたびに、会場からは歓声と悲鳴が入り混じった。


「うおおおお! ナカナカさん! オレの……オレのチョコ瓦を割ってください!」


「ナカナカさん! 今年もよろしくお願いします!」


 しかし、開始から数時間後……ナカナカ氏に異変が起こる……


 数にして13000枚の瓦チョコを割った時だった。左手を押さえて、うずくまってしまったのだ。

 ナカナカ氏はスタッフに付き添われバックヤードに消えていった。「右手が痛い……」とスタッフに訴え、チョコ瓦割りを左手に切り替えていただけに続行が危ぶまれる。

 

 数分後……会場がざわつく中、場内アナウンスが流れた。

 

『検査の結果……ナカナカ氏は両の手を骨折しており……チョコ瓦割り大祭実行委員会は、これ以上の続行は不可能だと判断いたしました。誠に申し訳ありません。チョコの再配布を西口玄関前で行いますので……』

 

 場内アナウンスを聞き、泣き崩れる者がいた。それでもナカナカ氏を責める者は会場内に一人としていなかった。

 

「両の手が折れるまで頑張ってくれて、ありがとー!」


「また来年来るぞー!」


「よくやった! 感動をありがとー!!」


 会場からはナカナカ氏を労う感謝の言葉、そして拍手が巻き起こる。

 その時である。壇上にナカナカ氏が姿を現した。両の手に包帯を巻き、スタッフの制止を振り切りながらナカナカ氏はマイクスタンドの前に立つ。

 誰もがナカナカ氏が謝罪の言葉を発するのだと思った。

 ナカナカ氏は息を肺にいっぱいになるまで吸い込み、そして叫んだ。


「このクソバカヤロー共がぁ!!」


 思わぬ一言に会場が静まり返る。


「そんなんだから毎年ダメなんだよ! そんなんだから毎年ここに来ちまうんだよ! そんなんだからチョコ貰えないんだよお前ら! ふざけんじゃねー! 相手のことを思いやるのは良いことだよ! ああそうさ! 良い事だ! けどなぁ……相手の事情なんて考えてらんなくなる……それでも突き動かされる衝動ってのが愛なんだよ!」


 そう言うと、ナカナカ氏は積まれていたチョコ瓦に近付き


「オラァ!」バキャッ!


 額でチョコ瓦を割った。


「オレァまだやれるぞ! おい! お前ら! 言えー! 叫べー! ナカナカー! チョコ割れ! って言えー!」

 

「ナカナカー! チョコ割れー!」


 会場の誰かが叫び、続いて割れんばかりの歓声が武道館を揺らす。

 ナカナカ氏は額に血を滲ませながら、チョコ瓦を次々と破壊していく。


 バキャッ! 


 バキャッ!


 その凄まじい光景に、観客たちは興奮を抑えきれない。


「ナカナカ! アンタ凄えヤツだよ!」


「いけー! ナカナカ! 割れー! 割ってくれー!」


 観客たちの声援が、ナカナカ氏の背中を押す。


 バキャッ!


 そしてついに、最後のチョコ瓦が割られると、武道館は再び大歓声に包まれた。

 ナカナカ氏はそのまま倒れ込むと担架で運ばれる。

 それを皆は歓声と拍手で見送った。しかし、最後に会場のスピーカーから弱々しいナカナカ氏の声が聞こえた。


「お前ら……来年はもう来るなよ……」


「「わあああああああああああ!!」」


 こうして、第15回チョコ瓦割りは盛大に幕を閉じたのである。



 チョコ瓦割り大祭後。ナカナカ氏は語る。



「いやー……折れちゃいましたね(笑)でも……やりきりました。」



 ―― 来年のチョコ瓦割り大祭の為にもう会場を抑えてある、とお聞きしましたが――



「うん。そうですね。来年は東京ドームです。55000枚にチャレンジします。殺す気ですよ。ウチのスタッフは(笑)」



 来年もチョコ瓦割り大祭は開催されるだろう。ナカナカ氏はモテない男がいる限りチョコを割り続ける気だ。



 ー 完 ー

 

 

 

 

 

 

 っていうね。イベントやりたいんですよ。

 各社お菓子メーカーの皆様、新しい客層獲得の為に私の案に乗っかりませんか?いい儲け話だと思います。ご一報お待ちしております。

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