現代の風をまとう古典の魅力

 目を覚ますと、そこは絢爛豪華な清朝の貴族社会。主人公は、儚げな美少女として知られる『紅楼夢』のヒロイン、林黛玉へと転生していました。ですが彼女は現代の知識と精神を宿した、規格外のヒロインだったのです。17歳で死ぬはずだった運命を変えるべく奔走する林黛玉の姿を描いた本作は、原作へのあふれる愛情と斬新な解釈が織りなす、魅力的な物語として展開されます。
 中国古典文学の最高傑作のひとつとして知られる原作『紅楼夢』は、貴族社会の衰退と人々の儚い運命を描いた悲劇的な物語です。本作ではそこに転生という要素を取り入れることで、原作の悲劇的な結末を覆し、新たな可能性を提示します。

 原作ではお馴染みのキャラクターたちの生き生きとした描写。賈宝玉は原作の繊細な貴公子像を保ちつつも、林黛玉の奔放な言動に翻弄される姿がコミカルで親しみやすく描かれています。王熙鳳は原作の才気煥発さに加え、ビジネスセンスを兼ね備えた頼れる姉御肌として物語を盛り上げます。

 そして何よりも注目すべきなのが、ヒロイン林黛玉。原作の繊細で儚げな彼女とは打って変わって、その行動力と発想力は常に周囲の人々を驚かせ、時に困惑させます。現代の常識は当時の非常識。「健康第一」を掲げて筋トレに励み、薬草園を作り、さらにはオリジナルブランドを立ち上げて商売を始める行動力。彼女の一挙手一投足が、現代を生きる読者に笑いと共感をもたらします。同時に周囲の人々への思いやりや、自身の運命を変えようとする強い意志が、彼女の人間味溢れる魅力を形作っています。

 林黛玉の視点を通じて語られる、現代用語やユーモラスな表現が多用された文章は非常に読みやすく、明るく軽妙な文体からは彼女の内面がより鮮明に伝わってきます。彼女の喜びや悲しみ、葛藤や決意を追体験することで、読者にも古典の世界がより身近に感じられます。

 原作の世界観を尊重しつつも、新たな解釈と現代的な要素を巧みに融合させた本作。原作の悲劇的な結末を知っている読者も、そうでない読者も、本作ならではの展開とヒロインの活躍に、きっと胸を熱くすることでしょう。お勧めの作品です。

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