背中越しの夕日

岸亜里沙

背中越しの夕日

僕は子供のころ、おんぶされるのが嫌いだったんだ。

だってパパやママのお顔が見えないんだもの。

だからたまに思ったんだ。今僕をおんぶしてくれているのは、本当はのっぺらぼうなんじゃないかって。

そう考えたら怖くなってきちゃって、僕はいつも抱っこばかりせがんでいた。

やっぱりパパやママの笑っているお顔を見ると、僕も楽しいし。

でもある日、公園のベンチで遊び疲れて眠っちゃった僕を、パパがおんぶして家まで連れていってくれたんだ。

パパの背中で揺られながら、ぼんやり目を開けると、目の前にすごく綺麗な夕焼けが見えたんです。

「わあ、すごい。綺麗な夕焼けだね」

僕が思わずつぶやくと、パパが優しく話しかけてきました。

「本当だね。とっても綺麗な夕焼けだ」

「僕、こんな綺麗な夕焼け初めて見た」

「じゃあまた明日もこの道に、この時間に来てみようか。また綺麗な夕焼けが見れるかもしれないよ」

「でもパパ、今度は抱っこして。僕おんぶ嫌いなんだ」

「タクヤはどうしておんぶが嫌いなんだい?」

「パパのお顔が見えないから」

「そうか。ママやパパの顔が見えないから、おんぶが嫌いなんだね」

「うん」

「でもたまにはおんぶも良いと思うよ。だって今もしパパがタクヤを抱っこしていたら、タクヤはこの夕焼けが見れなかったんだよ」

「そっか。抱っこだったらパパのお顔は見れても、夕焼けは見れなかったね」

「それにね、おんぶだとパパもタクヤも、同じように前を向いて進むんだよ。同じ景色を一緒に見れるって素敵なことだよ」

僕はその日気づきました。

おんぶしてもらうと、パパやママと同じ景色が見れるんだって。

なんだか僕も、少しだけ大人になった気がしました。

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背中越しの夕日 岸亜里沙 @kishiarisa

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