第10話 演出無くても「当たり」はある

 数日、いつにも増して無気力な日々を過ごした。あの迷惑客を追い払った(?)日から私は例のコンビニを訪れていない。


 深夜のコンビニには変わったお客が来ると聞いたことある(先日に限っては私も十分「変」の部類だけど――)。


 をきっかけに「かわせさん」が仕事を嫌になってやしないかと心配になったりもした。

 でも、あれだけ目立つことをしてしまっては、私の顔は確実に覚えられてしまった気がする。それはそれでいいような気もするのだけど――、恥ずかしさがすべてに勝っていた。


 それに――、万が一……、本当に万が一だけど、「かわせさん」があのコンビニからいなくなっていたら、私はもう立ち直れない気がする。

 あの日だって最終的に迷惑客は去っていったけど、一度私はあの状況に背を向けている。本当ならもっと早い段階で割って入ることもできたはずだ。そんな後ろめたさも無くはなかった……。


 ただ、日を追うごとに「コンビニへ行きたい」――、もとい「かわせさん」が気になる欲求が強まっていき、本日とうとうそれが臨界点を迎えた。



 今日は水曜日。そう――、「かわせさん」がお休みの日で、おそらく代打(?)ムハンマドくんがいるはずだ。

 彼になら気兼ねなく話すことができるし、きっと向こうから勝手に話しかけてくるはずだ。


 ムハンマドくんが相手なら恥ずかしさも幾分か紛れる。彼にそれとなく「かわせさん」について聞いてみよう。あのコンビニでこれまで通り働いているとわかれば、それだけで私の心は幾分か安らぐ。



 そんな想いを頭に巡らせながら私は、日に日に寒さの増していく深夜の街を歩いていた。視界に入ったいつものコンビニがなぜか今日に限って、初めて来るお店のような印象を受ける。


 ほんの少し緊張しながら、私は息を呑んで自動ドアを潜った。



「イラジャイマセ、コンバンハ!」



 予想通り、ムハンマドくんの深夜に似合わない陽気な挨拶が飛び込んできた。


 私は例によって雑誌やら飲み物やらアイスやら――、いくつかのコーナーを意味もなく物色した後、適当なお菓子を3つほど持ってレジの前に立った。


「Oh! オ姉サン、コナイダノうるさイオ客ガ来タ日以来ダネ? 元気シテタ?」


 ムハンマドくんは平常運転だった。この人なら天変地異があっても、コンビニに入ったら「イラジャイマセ、コンバンハ!」と普通に出迎えてくれる気がする。


 私は彼からなんとか「かわせさん」について聞き出そうと試みる。でも、向こうが一方的に話を続けて、なかなか思うようにいかなかった。そうこうしているうちにすべての商品がレジを通り、支払いまで済ませてしまった。


 ついでを装って話を聞こうとしていた私にとって、この状況は完全に「機」を逃していた。今から「かわせさん」について尋ねるのは明らかに不自然。今日は諦めてこのまま家に帰ろう――、私はそう思った。



「アッ、オ姉サン! チョットダケソコデ待ッテテネ?」



 レジに背を向けた私にムハンマドくんが呼びかけてくる。私は疑問を浮かべながら彼の方を振り返った。


「ミズキ先輩ッ!! 例ノ子、来タヨ! 早ク早クッ!!」


「――えっ……?」

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