第11話 揺れる評判
ベルモント派との取引によって、一時的に妨害を封じ込めたパルメリア。相手が内心で怒りや屈辱を募らせていることは承知の上だった。それでも、行商ルートの封鎖は解除され、不当な税の徴収も次第に減りつつある。農業改革や識字教育の取り組みが重なり、コレット公爵領にはわずかに希望の光が差し込んできていた。
(少しずつだけれど、理想の形に近づいている。それでも、まだ安心はできないわ)
領地の生活は確実に改善の兆しを見せ始めていたが、その一方で、貴族たちの間ではパルメリアの評判が新たな波紋を呼んでいた。
「聞いたか? コレット家の令嬢がベルモント派を手玉に取ったらしい」
「毒を持つ
「下手に近づけば、こちらが餌食になるだけかもしれん……」
宮廷の廊下や華やかなサロンでは、そんな噂が途切れることなくささやかれている。保守派の貴族たちを巧みに出し抜いたというパルメリアの話題は驚きをもって広まり、社交界をざわつかせていた。
一方、領民たちの間では全く異なる評判が広がりつつあった。
農民たちはこぞって「私たちのために本心から行動してくれているのではないか」と口にし、改革の恩恵を実感し始めていた。
「お嬢様は冷徹な雰囲気だけど、それは大貴族に舐められないためなんじゃないか?」
「事実、荒れ果てていた領地を立て直してくれているし、悪い噂なんて信じられないよ」
こうして、貴族社会では「抜け目のない危険な令嬢」、領地の民からは「志高く優しい主人」という、正反対の評判が渦巻くことになった。表向き、パルメリアは周囲の反応を気にも留めない様子を見せているが、内心では自分の立場がいかに危ういかをはっきりと自覚していた。
(改革を進めれば進めるほど、反発は強くなるはず。いずれ命を狙われる日が来てもおかしくない……それでも私は進むしかないわ)
身の危険すら日常になるかもしれないという覚悟を、改めて心に刻む。改革という大きな波を起こした以上、止まるわけにはいかない――彼女自身がそれをよくわかっていた。
そんなパルメリアの覚悟に呼応するかのように、彼女に協力したいと名乗り出る者たちが、少しずつ姿を見せ始めるのだった。彼らの眼差しには、未来への希望とともに、パルメリアが掲げる理想への共感が宿っている。
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