第19話:冬の花たちへ贈る愛の詩 ~二人の心を照らす光~
十二月の朝は、静かな冷気が植物園「花風」を包み込んでいた。星の温室では、葉月が一足早く作業を始めていた。シクラメンの花が、まるで蝶の群れのように優美に舞い、その花弁の一枚一枚が朝の光を繊細に受け止めている。
「おはよう、今日もみんな綺麗ね」
葉月は一鉢一鉢に優しく語りかけながら、水やりを丁寧に行っていく。この時期、根腐れを防ぐため、水分管理には特別な注意が必要だ。
「葉月さん、今朝も美しいですね」
蓮華の声に振り返ると、そこには温かな微笑みを浮かべた恋人の姿があった。
「あら、蓮華。私のこと? それともシクラメンのこと?」
「もちろん、両方です」
蓮華は後ろから葉月を抱きしめ、その首筋に優しくキスをした。温室の中で、二人の吐息が白く混ざり合う。
「蓮華ったら、この子たちが見てるのに」
「大丈夫です。花たちも、私たちの愛を祝福してくれているはずですから」
まるでその言葉に応えるように、シクラメンの花が微かに揺れた。
*
午前中、二人はポインセチアの手入れに没頭していた。クリスマスを控え、真紅の苞葉がより一層鮮やかさを増している。
「この子の色合い、今年は特に素晴らしいわね」
葉月は葉の一枚一枚を丁寧に確認しながら、埃を払っていく。
「ええ。温度管理と日照時間の調整が、ちょうど良かったんでしょう」
蓮華は専門家らしい視点で観察を続けながら、記録を取っている。その真剣な横顔に、葉月は思わずうっとりとしてしまう。
「また見とれていますね」
「だって、蓮華の集中してる姿が素敵なんだもの」
蓮華は照れたように頬を染め、葉月の手を取った。
「葉月さんこそ、花に話しかける姿が愛らしくて……ついつい見とれてしまいます」
二人の間に流れる空気が、少しずつ温かくなっていく。
*
昼下がり、温室では冬の花々が次々と開花していた。寒牡丹の蕾が、まるで春を待ちわびるように膨らみ始めている。
「ねえ、蓮華。この子たち、もうすぐ咲きそうよ」
葉月は蕾に優しく触れながら、その生命力を感じ取っていた。
「ええ。寒さに耐えて、より美しく咲こうとしている。まるで葉月さんのようです」
「もう、また素敵なことを言って」
葉月は蓮華の胸に顔を埋めた。温室の中で、二人の愛が静かに深まっていく。
*
午後、星の温室では特別な準備が始まっていた。夜開花する植物たちのための、環境整備だ。
「月下美人の株が、随分と大きくなったわね」
葉月は茎を支柱に固定しながら言った。
「ええ。葉月さんの愛情が、しっかりと届いているんでしょう」
蓮華は後ろから葉月を抱きしめ、その耳元で囁いた。
「私にも、たくさん届いていますから」
葉月は振り返り、蓮華の瞳をまっすぐ見つめた。
「蓮華……」
二人の唇が重なる。温室の植物たちが、その愛を静かに見守っているかのようだった。
*
夕暮れ時、月見亭からは里山の冬景色が一望できた。
「もうすぐ、この景色も雪に変わるのね」
葉月は蓮華の肩に寄り添いながら、遠くを見つめた。
「ええ。でも、どんな季節でも葉月さんと見る景色は、特別な美しさを持っています」
蓮華は葉月の髪を優しく撫でながら答えた。
「蓮華との毎日が、私の宝物よ」
二人の吐息が、夕暮れの空気に溶けていく。
*
その夜、星の温室で不思議な出来事が起きた。
月の光を受けて、クリスマスカクタスが突然、花を開き始めたのだ。淡いピンクの花びらが、まるで天使の羽のように優雅に広がっていく。
「まあ、なんて美しいの……」
葉月は息を呑むように、その光景を見つめていた。
「私たちの愛を祝福してくれているんでしょうね」
蓮華は葉月を後ろから抱きしめ、その温もりを確かめるように強く抱いた。
「ねえ、蓮華」
「はい?」
「私ね、この園で過ごす毎日が、まるで夢みたい」
蓮華は葉月の頬に触れ、その目元に浮かぶ涙をそっと拭った。
「夢じゃありません。これが私たちの紡ぐ現実なんです」
月の光が、二人の愛を優しく照らしていた。
*
翌朝、葉月は蓮華の腕の中で目を覚ました。
「おはよう、葉月さん。今朝は少し暖かいですね」
「ええ。蓮華が隣にいてくれるから」
窓の外では、初冬の陽光が植物たちを優しく照らしている。シクラメンの花が、新しい一日の始まりを告げるように、可憐な姿を見せていた。
二人は寄り添いながら、朝の光に照らされる園内を見つめていた。花々との生活の中で、彼女たちの愛はより深く、より確かなものへと育っていく。それは、この植物園で永遠に紡がれる、愛の物語なのかもしれない。
十二月の光が、そんな二人の姿を優しく包み込んでいた。
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