第3話 もう一度会いたい

 あの日、零士さんに助けてもらってから数日が経った。あんな偶然の出会いがあったせいか、なんとなく無駄に気を使ってしまう。体調が悪くなりそうなとき、いつもあの時のことを思い出してしまうからだ。


「また倒れたらどうしよう……」


 そう考えると、少しだけ自分にプレッシャーをかけてしまっていた。家に帰って、妹たちの顔を見ると、そんな不安はすぐに消えていくのに。


 それでも、零士さんのことは気になっていた。あの日以来、再び会うことはなかったけれど、何となくもう一度会ってみたいと思っていた。


 そして、偶然の再会が、あっけなく訪れた。


 ある日、街を歩いているとき、ふと見上げた先にーー


「おい、またお前か」


 驚いて振り向くと、そこには零士さんが立っていた。少し遠くからでも目立つ、背の高い彼は、人ごみの中でもすぐに目を引いた。


「え、零士さん?」と、俺が驚いて声を上げると、零士さんはクスリと笑った。


「今度は元気そうだな」と、零士さんは軽く手を挙げて、俺の方に歩み寄る。


「まさかこんなところで会うなんて思わなかったです……」俺が驚いて言うと、零士さんは少しだけ首をかしげて、また笑う。


「俺だって思わなかったけどな。まあ、運命ってやつだな」と、零士さんが冗談ぽく言った。

「どこか行って話さないか?」


 零士さんがそう言って、俺を誘うように歩き出す。何も考えず、俺はその後に続く。


 零士さんとの距離が少しずつ縮まっていくのがわかる。最初に会ったときは、ただの優しさを感じただけだったけれど、今はどこか特別な感情が芽生えてきた気がしてならない。


「陽介、仕事はどうしてるんだ?」と、零士さんがふと問いかけてきた。


「まあ、なんとかやってる」と、俺は答えた。正直なところ、仕事がつらいことが多いけれど、それを口に出して言うのは少し恥ずかしかった。


「無理してるんじゃないのか?」と、零士さんの視線が真剣に俺を見つめてきた。その目に少し驚きながらも、俺は少しだけ言葉を選んだ。


「まぁ、でも家族がいるから、どうしても……」


 俺の言葉に零士さんは静かに頷いた。


「家族か。俺も、そんな感じだな」と、零士さんはぼんやりと空を見上げる。


「零士さん、いろいろ大変なんですか?」と、俺は思わず聞いてしまった。その瞬間、零士さんの表情が少しだけ暗くなった。


「それは、俺にとっても過去のことだから、今はあまり考えたくないな」と、零士さんは軽く肩をすくめたが、その目にはどこか寂しさが宿っていた。


「わかりました」


 俺はそれ以上、無理に聞こうとは思わなかった。誰だって過去に辛いことはある。零士さんも、何かを背負っているのだろう。


 その後、俺たちは近くのカフェで軽く飲み物を注文して、少しだけ話をした。会話は自然と流れ、気づけばもうかなりの時間が経っていた。


「そろそろ帰るか?」と、零士さんがそう言ったとき、俺は少しだけ名残惜しさを感じた。こんなに話したのは久しぶりだったからだ。


「はい、ありがとうございました。今日は会えてよかったです」と、俺は素直にそう言った。


「別に、気にすることない。俺はお前みたいな奴が困っているのを見ると、放っておけないだけだ」と、零士さんはちょっと照れたように言いながらも、優しげな笑顔を見せた。


「でも、次会う時にまた倒れてるかもしれないだろ?」と、零士さんは真剣な目で僕を見つめた。

「無理して、また倒れる前に必ず連絡しろよ」と、零士さんは言いながら、ポケットからスマートフォンを取り出し、俺の方に差し出した。


「番号、交換しよう。お前が無理して倒れたら困るから」


 その言葉に俺は少し驚きながらも、すぐに自分のスマートフォンを手に取った。


 俺がスマホを渡すと、零士さんは手際よく僕の連絡先を登録してくれた。


「これで、何かあったらすぐに言ってくれ。俺にできることがあれば、必ず助けるから」と、零士さんは言いながら、俺の肩を軽く叩いた。


「ありがとう……」と、俺は少し照れくさそうに言うと、零士さんはフッと微笑んだ。


「何かあったら、いつでも言えよ」と、零士さんは俺の頭を軽く叩くと、「じゃあ、またな」と言って、その場を去っていった。


 俺はその背中を見送りながら、思わずつぶやいた。


「また会いたいな」


 その後、零士さんからの連絡はなかったけれど、少しだけ安心した気持ちが残った。もし何かあった時、彼に頼ってもいいのだという安心感が心の中に広がっていた。

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