第7話 春にまた会おう
歴史資料館で見つけた記録を見つめながら、俺は桜と顔を見合わせた。
「陽向くん、これ……」
桜が震える指で示したのは、ある古い手記だった。
「藤宮桜の死の背景」
そこには、俺たちの過去と、隠された陰謀の一部始終が記されていた。
100年前――佐倉家の決断
「お前には、この家を継いでもらう」
父は、当時の俺――佐倉陽介に向かって、冷たく言い放った。
「私は桜と生きたいんです」
「馬鹿を言うな。あの娘と駆け落ちするなど、この家の恥だ」
「それが何だ。俺の人生だ!」
「お前の人生などない。お前は佐倉の跡取りとして、家の未来を背負うのだ」
俺は家を飛び出した。
しかし――それが、すべての悲劇の始まりだった。
佐倉家は、俺と桜が町を出ようとしていることを知ると、裏社会の手を借りた。
「二人を始末しろ」と。
そして――町を焼き払うという極端な手段を取った。
「……陽向くん、私たちは100年前、あなたの家のせいで……」
桜は震えながら呟く。
俺は歯を食いしばり、手記の最後の一文を睨みつけた。
「この運命は繰り返される――佐倉の血が続く限り」
(なら、終わらせるしかない)
俺は桜の手を強く握った。
「今度こそ、俺たちが決める。もう誰にも邪魔はさせない」
桜は涙を拭い、力強く頷いた。
俺たちは町を出る決意を固めた。
だが、奴らはまだ俺たちを狙っていた。
駅へ向かう道すがら、背後に視線を感じる。
振り向くと、黒いスーツの男たちが数人、こちらに向かって歩いてきていた。
(……やはり、まだ終わっていなかったか)
桜が小さく息を呑む。
「陽向くん、あの人たち……」
「分かってる。走るぞ!」
俺たちは手を握りしめ、全力で駆け出した。
駅へ続く大通り、人混みを縫うようにして走る。
背後からは男たちの足音が響く。
(クソ……やっぱり100年前と同じように、町を出ることを邪魔しようとしてる)
だけど、俺たちはもう運命に従うつもりはない。
俺は桜の手を強く引きながら、息を切らしつつも叫んだ。
「絶対に逃げ切るぞ!!」
駅のホームに駆け込む。
電車がちょうど到着したところだった。
「急げ!」
桜とともに飛び乗る。
電車の扉が閉まり、男たちの姿が遠ざかるのが見えた。
俺は大きく息を吐いた。
「……やった」
桜も息を整えながら、俺の腕を掴んだまま顔を上げる。
「陽向くん……私たち、今度こそ……」
「ああ。100年前とは違う」
俺たちは、100年前の俺たちができなかったことを成し遂げた。
「桜……お前が生きていてくれるだけで、それだけでいい」
「私も……陽向くんと一緒に生きていきたい」
電車の窓から、桜の花びらが舞うのが見えた。
「……春にまた会おう」
桜が小さく呟く。
俺たちは笑い合った。
100年前の運命は、ついに変わった。
エピローグ:桜の咲く町で
それから数年後。
俺たちは新しい町で暮らしていた。
春のある日、桜が俺の腕を引いた。
「陽向くん、お花見に行こう!」
「また桜か?」
「当たり前でしょ? 私、桜が大好きなんだから」
俺たちは、100年前とは違う人生を歩いている。
過去に縛られることなく、今を生きている。
「……春にまた会おう、ね」
「もちろん」
俺たちは手を繋ぎながら、満開の桜の下を歩いていった。
【完】
春にまた会おう あきせ @yuke7my
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