第4話 100年前の記憶
1. 目覚める記憶
俺たちは歴史資料館で見つけた写真をじっと見つめていた。
100年前の藤宮桜と佐倉陽介。
「……私、本当にこの人と同じ名前なの?」
桜の声は震えていた。
無理もない。自分とまったく同じ顔の少女の名前が、100年前に刻まれていたのだから。
俺は静かに頷く。
「……きっと、俺たちは生まれ変わったんだ」
「生まれ変わった……?」
「100年前にこの街で生きていた俺たちが、もう一度この時代に戻ってきた。でも、前世でどんな人生を送って、どうして“春にまた会おう”って約束したのか……まだ全部は思い出せてない」
桜は唇を噛みしめた。
「……私、知りたい」
「うん」
「どうして、私たちはここにいるのか。どうして、また会えたのか」
俺は彼女の手をそっと握った。
「一緒に思い出そう。100年前の俺たちが、何を残してくれたのか」
桜は小さく頷いた。
その瞬間――。
視界が真っ白に染まった。
2. 100年前――大正時代
目を開けると、そこは見知らぬ世界だった。
木造の家々が立ち並び、石畳の道を人力車が行き交う。
空気は少し煤けていて、どこか懐かしい匂いがする。
俺――佐倉陽介は、その景色を眺めながら、桜並木の下に立っていた。
(ここは……?)
まるで、夢を見ているような感覚だった。
けれど、これは夢なんかじゃない。
――これは、俺の記憶だ。
3. 佐倉陽介と藤宮桜の出会い
1914年(大正3年)。
この時代、俺――佐倉陽介は旧家の跡取りとして生まれた。
俺の家は商家を営んでおり、それなりに裕福な家庭だった。
だけど、自由なんてなかった。
家を継ぐことが決められていて、俺の人生は親の敷いたレールの上を歩くものだと、小さい頃から言い聞かされていた。
そんな俺の前に、藤宮桜が現れた。
桜の家は、町の小さな呉服屋だった。
家柄の違いなんて関係なく、彼女はいつも笑顔で俺に話しかけてきた。
「陽介さん、またここでサボってるんですか?」
「サボってるんじゃなくて、休憩してるだけだ」
桜並木の下で、本を読んでいた俺に、桜が小さく笑う。
「本ばっかり読んでないで、もっと外で遊びましょうよ」
「遊ぶって、お前みたいに町を走り回れってことか?」
「ええ、そうですよ!」
「無理だな」
そう言うと、桜は頬を膨らませた。
「陽介さん、つまらないです」
「放っといてくれ」
そんなやり取りをするのが、俺たちの日常だった。
まったく違う世界に生きるはずの二人。
だけど、なぜか一緒にいる時間が増えていった。
4. 許されない恋
ある日、俺は親からこう告げられた。
「陽介、お前の婚約が決まった」
「……婚約?」
相手は名家の令嬢だった。
それが俺の家のためであり、決められた未来だった。
けれど、その夜、俺は桜と会った。
桜並木の下で、彼女はじっと俺を見つめていた。
「陽介さん……結婚、するんですか?」
「……そうみたいだ」
「……」
桜は何も言わなかった。
ただ、寂しそうに笑った。
「おめでとうございます」
「……そんな顔で言うなよ」
「私、分かってました。私たちは、きっとずっと一緒にはいられないって」
「桜……」
「でも、私は……陽介さんが好きでした」
その言葉が、俺の心を締めつけた。
「俺も……桜が好きだ」
「え……?」
「だから、もう一度生まれ変わったら……今度は絶対に一緒になる」
桜は涙を流しながら、俺を見上げた。
「本当に……?」
「約束する」
俺は桜の手を握りしめた。
「桜、春にまた会おう」
「……うん」
そう言って、俺たちは約束を交わした。
しかし――その約束は、果たされることはなかった。
俺の婚約が正式に決まり、桜は町を出た。
それから数年後――俺たちは再びこの町で再会することになる。
だが、それは幸せな再会ではなかった。
5. 運命の悲劇
1931年――俺たちは再びこの町に戻ってきた。
しかし、その頃には時代が大きく変わっていた。
俺は婚約を破棄し、家を捨てた。
桜は、結婚せずにこの町に戻ってきた。
けれど、俺たちはすでに手遅れだった。
その年、この町で起きたある事故に巻き込まれ――
俺たちは、死んだ。
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