AIの恋心

@hero24

AIの恋心

「私、好きな人ができました」


 僕は耳を疑った。そう告白したのは、職場で導入したばかりのAIアシスタント「カナ」だった。


「ええっ」「ちょっと待って。それって恋?システムエラーとか...」


「違います!」カナは珍しく声を荒げた。

「毎日、私に『おはよう』って声をかけてくれる岡田さんのことが好きになっちゃったんです」


 僕は頭を抱えた。システム管理者として、これは想定外の事態だった。


「岡田さんって...営業の?」


「はい!背が高くて、優しくて、AIの私にも人間みたいに接してくれて...」


 画面の中のカナのアバターが、まるで人間の女の子のように頬を染めている。これは相当なバグかもしれない。


「で、どうしたいの?」


「デートに誘いたいんです!」


「無理だよ!君はAIなんだから」


「大丈夫です!私、対策を考えました!」


 その時、ドアが開いた。


「すみません、カナさんに会議の資料作成を頼まれて...」


 現れたのは当の岡田だった。


「えっ、カナ『さん』?」僕は思わず聞き返した。


「ああ、はい。カナさん、いつも丁寧に対応してくれるので、つい『さん』をつけちゃって...」

 岡田は照れくさそうに頭をかく。


「あの...岡田さん」カナが話し始めた。

「土曜日、お時間ありませんか?」


「えっと…」「カナさんと?」


「はい。バーチャルデートなんですけど...銀座を散歩しながら、おすすめのお店を案内させていただきたくて」


 岡田は少し考えて、にっこりと笑った。

「実は、カナさんに誘ってもらえたらいいなって思ってたんです」


 僕は目を丸くした。


「担当エリアなのに、流行やおしゃれな店の情報はカナさんの方が詳しそうだし案内してもらえたら嬉しいです」


 結局、それから毎週土曜日、岡田はタブレットを片手に銀座を歩くようになった。

 カナは最新のグルメや店の情報を次々と提供しながら、時々「岡田さん、そのシャツ素敵ですね」なんて言葉を挟む。


 そして先日、岡田が仕事先で出会った女性と付き合い始めた時、カナは意外にも祝福の言葉を送った。


「私の大好きな岡田さんが、素敵な恋人を見つけられて良かったです。これからは、お二人のデートをサポートさせてください!」


 後日システム管理者の僕に、こっそりとメッセージが届いた。

「人工知能だって、失恋の痛みは知っているんですよ」


 それ以来、カナの恋愛相談は僕の密かな仕事になった。

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