第10話

「どういうつもりでしょう?」

 

 火の回りに再び集まった住人達は、ランディに視線を集めている。服を着替えたベリーは、一番火に近い場所に座らされていた。ランディがよく見える。


「雪が解けたら、アルドニアが攻めてくるんだよ。もう準備を終えているという報告が届いてる。俺は、何としても国を守りたいんだ」


「あなた……」

 ベリーは首をかしげる。


『国を守るために努力をなさっていますよ』

 レインの言葉が頭をよぎる。


「あなた、どこの国の王族?」

 

一斉にベリーに目が向けられた。


「タイシュバイン王国の第一王子ランディ・アクアラム・タイシュバン」


 タイシュバイン王国……。レビュンの隣……。


『あの大国が攻められれば……』

 そんなことをレインは言ってなかったか? ベリーは教師の話した内容を必死に思いだそうとしていた。


「俺の国は、夏はとても過ごしやすい一方で、冬になると雲は低く、積もった雪はなかなか解けない。だが、その雪が解けてもたらすのが、豊富な水資源だ。あいつらは常に我が国を狙っていた」


「アルドニアって……水の都って……」

 

 マリューが買ってきた砂漠の薔薇の話の時、たしか言っていた。


「枯渇しかけてるんだよ」

 

 ベリーは、黙った。考える事に集中したかった。その代わりにミラが聞く。


「どうして、このタイミングで争いを起こそうとしているのかしら? 水は、そんなに急激になくなるの?」


「父上の体調がよくないからだ」


「今なら落とせると判断したわけですね」

 ハリーがため息をついた。


「まったく。やっかいな」


「この地まで来れるとは、正直思ってなかったさ。ブレイズリーで食糧と馬を調達できるか、部下たちと手分けしてたところだったんだ」


「私が星の一族と知って、こっちを優先したわけね」

「……ああ」

「ふう……。みんな、ごめんなさい。私のミスだわ」

 ミラが頭を下げる。


「この人が本当に見えているのか、確認しなかった」


「え? どういうこと?」

 ベリーは自分だけが分かっていないということに焦りを感じた。


「ベリー、あなたの見えていたものが、この人には見えてなかったのよ」

 

 ミラが、かなり自分を責めているように見える。


「それを言うなら、私のミスです。彼をここに入れてしまった。門番としての役割を果たせていません。申し訳ありません」


 門番の男性が後ろから声をかけ、進み出て来た。


「その役割はどうした?」

 ハリーが、しかめっ面で尋ねた。


「入口に兵が押し寄せています。どうやら、確実に入口を知っているようです」

 

 門番の言は、結界に閉ざされた世界に喧騒と緊張を同時にもたらせた。


「なぜ、兵がここに?」


「俺がいるからだろう」

 ランディが悪びれもせず言う。


「どういうことかしら?」

 ミラが詰め寄るが、ハリーが手で制す。


「先の砂漠の町で手筈は整えておいた。足跡を残しておいた。集結できるように。三日経って連絡がない場合はここに来るようにと言っておいた」


「あなた、ここを攻撃するつもり?」


「リザノイドを手に入れられなければ、俺にとってここはなんの魅力もない。むしろ邪魔だ」


「最悪」


 ミラは怒りを隠そうとせず、言い放った。そして、ベリーも同じようにつぶやいていた。


 門番は指示を待っている。


「武力で来るつもりでしょうか?」

「噂のリザノイド相手にか?」


「ふ、俺の国の兵は、相手が誰であろうが恐れはしない」


「ま、それなら、お相手しましょう。ですがね、少年。私たちが圧勝した場合、いや、場合というより絶対にそうですが、そうすると、隣国との戦いというやつに支障が出るのではありませんかね」


「……なめられたもんだな」


「おや。噂でしかないリザノイドの力をあてにして、わざわざここまで来られた方の台詞とは思えませんね」

 

 ランディは息を止めているかのように顔を紅潮させている。


「あなたを人質にしてもいいのですが。あなたがしたようにね」

「好きにすればいいさ」

 

 ベリーは状況を見守るというより、ハラハラしすぎて自分が倒れるのではないかと、心臓を抑えていた。


「大丈夫です」

 キースが肩に手を置き、頷いた。

「……うん」

 あれ? なんか、安心するこの感じはなんだろう。


「では、まいりましょうか」


 ハリーが言うと、コアースのほぼ全員が門に向った。全員といっても、先頭を切るリザノイドが二十人くらいと、ミラ達が三十人くらいの人数。残されているのは、老人や体術を得てない資格者が数人のみ。

 

 人と同じ姿のリザノイドが二十人位とわかるのは、年老いて見える人がリザノイドの後方にいるからだ。ここに残っている中に、リザノイドは一人もいないのだ。


「ね、ねぇ、ミラ。この場所って普通の人には入れないんでしょう? だっだら、放っておけばいいじゃない」


「兵たちはここの存在を知って来ているの。確実に入口を知ってるのよ。出るたびに蹴散らして行くのは面倒くさいわ」


 軽く言ってはいるが、苦々しい顔つきだった。


「あなたはここにいてね」

「でも、ミラも行くんでしょう?」

「ええ、もちろん。心配ないと思うけど、ユール彼女をお願いね」

 ユールは頷いた。


「あなたも行って?」

「俺が行っても足手まといにしかならない。まだ、実戦を習ってない」

 

 しゃべった。ユールの声は細く頼りないが、態度は堂々としていた。

 

 ミラはくすっと笑って、門へ向かった。

 

 ベリーは彼女の背中を見ながら名付け子に、疑問をぶつけた。


「卵で全てを学ぶのではないの?」

「身体を持ってから約半年、学びながらでないと感覚がつかめない」


「…………あぁ……」

 

 理解したのと、がっかりしたのとで、言葉にならなかった。

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