第25話 やるっきゃない!

 舞白のお父さんがいなくなった部屋。

 緊張の糸が切れた私と舞白は、椅子に座り込むとうなだれた。


「はは……、舞白のお父さんに啖呵切ってみたよ……」

「千鶴って本当にバカだよ……」


 情けなく笑ったあと、二人でため息をつく。


 少し落ち着いてきたけど、やっぱり考えは変わらない。

 あの場では、『学年一位を取る』くらい宣言しないと、絶対に部活動の許可はもらえなかったわけだし、私にはそれを言うしかなかった。


 なんで出来もしないことを、あんなに強気で言っちゃったんだろう……。



「まぁさ……。数カ月間だけ……、テストが始まって終わるまでの期間は、一緒に楽しめるっしょ」

「はぁ……、無計画の千鶴。私のお父さんに対して、あんなに強く言っちゃってさ。できなかったときのこと、考えてないの? できなかったら、なにをされるか……」


「えっ、なにされるっていうの?!」

「多分ね、『自分の言ったこともできないようなやつには、娘と一緒にいる資格はない』って言われるよ」


 舞白はふざけないで言っている。さっきお父さんと対峙したときと同じように緊張した顔になっている。私へのからかいとかではなくて、過去にもあったようなことなのだろう。


「私はさぁ、舞白と一緒にいたかっただけなのになぁ……。学年一位なんて絶対取れないよ……」

「ダメだよ。言ったからには、絶対に実現してよ、千鶴!」


 舞白が真剣な目で私のことを見つめてくる。

 お父さんとの交渉は、最悪の状態だけは免れたと思うけども。可能性がゼロだったものが、ーパーセントに満たないくらいの数字になったぐらいだ。結局はダメだろうと思う。


「一生懸命頑張るしても、無理にも程があるかな……」

「千鶴、成績上げてよ」


「それができればさ、苦労はないんだよ」

「言ったことはちゃんと実現させてよ。私のお姉ちゃんでしょ! 苦労してでも、成績上げて!」



 舞白は私の手を強く握ってくる。


「千鶴は、お父さんから私の人生を買ったんだよ! 私に対して、あんな投資し続けてた人が諦めたんだよ。私の将来を、千鶴に賭けたんだよ。その分しっかりして、私を満足させてよ!」


「んー。なんだか、お父さんみたいな言い方になってるよ? 投資とか、そういうのわからないよ」



「条件は、千鶴と私が学年トップを取ること。それができれば、私と千鶴は誰にも邪魔されずに学園生活を楽しめるんだよっ!」


「なんか、熱くなり過ぎてない、舞白? 気持ちだけで、どうにかなるものでもないしさ。時間ができたわけだから、もう少し冷静にお父さんへの交渉を考……」



 舞白が私の言葉を遮って、腕をグイッと引っ張ってくる。舞白の顔がすぐ近くに迫る。



「前払いだからね! 千鶴が頑張るための!」



 ――――ちゅっ。



 舞白の柔らかい唇が、私の唇に合わさった。

 お互いに緊張していたからカサカサしてる唇。私はファーストキスだっていうのに。こんなカサカサなんて……。


 そう思ったときには、舞白は唇を私に着けたまま開いていた。私の下唇を一生懸命にハムハムと自身の唇で挟んでくる。キスの仕方なんて知らないけど、私も本能のまま舞白の上唇を吸い込んだ。

 舞白の唇はとろけるほどに柔らかった。


 ふいに、舞白が唇を離す。



「……体勢が悪い。千鶴立って」


 舞白は恥ずかしがって目を伏せているけれども、精一杯私に抱きついて私を立ち上がらせてくる。そのまま抱きついたまま、再度唇を寄せてくる。


 今度は両唇で私を包み込むようにしてくるキス。どこで覚えたのか、優しく吸って唇を自分に吸い付けると、口の中に唇を侵入させてくる。そして、口を開いて吐息を掛けてくる。


 ……どうしたらいいの。舞白慣れルのこういうのに。


 ……こういう時って、舌を絡ませればいいのかな?

 おそるおそる舞白の口の中へ舌を入れて、舞白の舌のある位置へと近付けると柔らかな感触がした。


 その瞬間、舞白は抱き着いてた手をほどいて、私のことを押して距離を取った。



 目の焦点が合っていない。キョロキョロと動き回っているし、息だって荒げている。身体もガクガクと震えている。



「わ、わ、わたしの初めてを、も、もらっておい。これも、逃げるなんて言ったら、っころすよ!!」


「は、はい」


 恥ずかしさのあまり、舌が回っていない様子の舞白。

 舞白なりの応援だったのだろう。


 …………可愛すぎるな。


 こ、こういうときは、姉である私が取り乱すわけにはいかないな。いつも通り、強気で行かなきゃ。



「も、もっとさー? わ、私もファーストキッスだったから、ロマンチックなのが、よか……、良かったんだけどなぁー……?」

「う、うっさいな! そんなのできたらやってるよ!! もっとロマンチックなキス……したいもん……」


 相変わらず、私の方が覚悟が足りないんだな。


 ヨシッ!



「じゃあ、学年トップになったら、今度は私からしてあげるからね! お姉さんらしいキス!」

「……うん」


 二人ともに、お互いを見れずにうつむきながら、頑張る宣言をする。

 握った拳を突き出すと、舞白もそれに合わせてくれた。



 これで、舞白の気持ちを、しかと受け取ったわけだけだ。


 こりゃあ、死んでもやるっきゃなくなったね!!

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