第21話 服の買物
百合園学園から外出するときには、寮の許可を取る必要がある。私が代表して申請書を書いて、それを持って寮長の部屋へと持ってい<。
本当は代表者だけが行けば良いのだけれども、初めての申請だから舞白と早乙女も一緒に連れてきて教えてやる。
「外出届の申請に参りました」
「ごきげんよう、白川さん。申請するときまで三人一緒に来るなんて、とても仲が良いのだね」
「はい。ありがとうございます」
寮長の北大路お姉様がチェックをする決まりになっている。特に厳しいチェックは無いのだけれども、行く場所次第では許可が下りないこともある。
「三人で『買い物』に行くと申請だけど、どこへ行くんだ?」
「はい。服を買いに行くのです」
「はは、白川さんにしては珍しい。初めてじゃないのか? オシャレに目覚めたのか?」
「そ、そんなことないですわ? それじゃあ、私がまるで服に無頓着みたいじゃないですか……?」
私の後ろにいる妹二人が笑っている。
あとで、弁明しておかないと。お姉様としての威厳が無くなってしまいますわ。
「うんうん、妹たちとも仲良さそうだし。良いお姉様になったじゃない? 妹たちと楽しんできてください。許可します」
「はい、ありがとうございます!」
北大路お姉様には認めてもらったけれども、私がオシャレじゃないことがバレてしまった気がするな……。
舞白も早乙女もニヤニヤしてるし。
「千鶴。私が服選んでやるから、安心しな!」
「白川お姉様。私も一生懸命選びます! 自分以外の人の目って大事ですよ!」
「……おぉ、……さんきゅー」
申請時点では、二人を連れてこなければ良かったな。後悔先に立たずだよ、まったく。
ダサいお姉様なんて、絶対嫌なんだけどな。挽回のチャンスを狙うしかないな。
「そもそも、千鶴にスカートって似合ってないと思うしね!」
ニヤニヤした千鶴が、とどめを刺すように言ってくる。「あっはっは」って言いながら私を叩いてくるし。
……生意気な千鶴には、痛い目を見せるしかないようね。
◇
「……えっと。千鶴? 買い物するとは言っていたけれども、なんで私から?」
「舞白のブラジャーは、すぐにでも欲しいじゃない? 私のフォーマルな服なんて、まだまだ猶予はあるわけだし?」
とある下着屋の試着室。
舞白にブラジャーの試着をさせようとしている。
恥ずかしがりながら服を脱ごうとする舞白のことを、私と早乙女はニヤニヤしながら眺めている。
「やっぱり、お姉様のアドバイスはもらうべきだって思う訳だよ、舞白ちゃん」
「初めて付けるブラっていうのは大事なんですよ、舞白さん!」
「だからって、二人とも試着室に入らなくたっていいじゃん?!」
モジモジとして中々服を脱げないでいる舞白は、私たちに文句を言ってくる。
「んなこと言っても、ブラジャー姿でカーテン開けて、『これどう?』なんて見せるやついないだろ?」
「それはそうだけど……」
「ほらほら、早く早くー!」
「……ううぅぅーー!」
舞白は覚悟を決めたのか、こちらを睨んでくる。
しばらく睨みながら固まったかと思ったら、手に持っていたブラジャーをこちらに差し出してきた。
「お姉ちゃん。先にやってみて!」
「はぁ……?」
「妹が恥ずかしがってるんだよ? 先にお手本を見せてくれるのが、お姉ちゃんでしょ!」
飛んでも理論をぶつけてくる舞白。苦し紛れの一手だな。そんなので私が動くわけな……。
「たしかに!」
「はぁぁーー?」
協力者かと思った早乙女が、くるりと手のひらを返した。
「今のままじゃ、埒が明かないです! 私はどちらの裸も見た……、いえ。二人の尊い姿を拝みたいです! ちょうど、サイズも一緒っぽいですし!」
早乙女はどうなってるんだ。
人懐っこいと思っていたら、そういうことに興味があるのか……?
というか、サラッとひどいこと言ってないか? サイズも一緒……?
「早くしないと、他のお客さんに迷惑ですし! ほらほら!」
形勢逆転なのか。舞白も強気で「早く」と急かしてくる。舞白に痛い目を見せてやるはずだったのだけれども……。今度から早乙女は連れてこないようにしようかな……。
「しょうがないな。それじゃあ、私がお手本見せてやるから、舞白も早く脱ぎな!」
こういうことは、恥ずかしがった方が負けだ。服を脱いでも平常心を保っておけばいいのだ。別に私は、恥ずかしくもないし……。
一気に服を脱ぎ捨て、堂々と舞白の前に仁王立ちする。
「……おぅーふ」
早乙女がなんか言ってるけど、こいつは無視しよう。
「ほら、舞白も脱ぎな!」
「……ん、わかったよ!」
舞白もおそるおそる服を脱ぎ、その場において姿勢を正して私と対峙する。とっても服を脱がせたかったのだけれども、かといってじろじろ胸を見つめると、私の顔がにやけちゃいそうだな。
そう思ったので、採点時にチェックマークを付ける先生のような速さで、チラリと胸元を見てすぐに目線を前に戻す。
……うん。控えめに言って最高。
「ひゃーぁ……。どっちも素晴らしいー……」
私と舞白の間に挟まる早乙女。右へ左へ首を動かして、私たちを見比べる。そして、カメラマンが連射をするような速さで瞬きを繰り返している。
やっぱりこいつは、無視、無視……。
「舞白、ほらブラ付けな?」
「けど、付け方わからないから付けて」
「はぁ。そうだったね」
ブラジャーを付けてやろうと思い、舞白の後ろに回ろうとすると、なぜだか制止させられた。
「後ろから何する気だよ。正々堂々、前からやれし!」
相変わらず、舞白の理屈が分からないんだが……。
だからと言って、妹に負けるわけにはいかない。全ての要求を聞いたうえで、私が優位に立つ!
「じゃあ、前から付けるからねー!」
ブラジャーに肩を通させてから、舞白に抱き着くように背中に手を回す。
「な、なになに、お姉ちゃんっ!?」
「背中のホックを止めなきゃでしょ? なに? 恥ずかしいの?」
よし、恥ずかしがらせたわ。お姉ちゃんの底力を見たか。ふふふ。
「……ううん。大丈夫だよ。お姉ちゃんが相手なら大丈夫!」
そう言って、逆に私に抱き着いてくる舞白。
「……ひゃ、ひゃぁーー。裸で抱き合っちゃってる! カメラカメラ!!」
「「撮るな、バカーーー!!」」
早乙女が叫ぶから、外にいた店員さんが反応したようだった。
「お客様ー? どうなさいましたかー? 盗撮かなにかですかー?」
私たちは大声を出してしまったことを詫びて、そそくさと試着を終えた。
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