第15話 部活動への勧誘

 春の日差しが、頭の上に降り注いできて暖かい。


 窓際の席になったのは運が良かったと思う。一方で運が悪かったとも思う。ひどい眠気が襲ってくるのだ。なんとか眠気と戦いながら授業に集中する。



 それにしても、朝の舞白の寝顔は可愛かったなー……。

 私のことを「好き」って言ってたよね。「お姉ちゃん」って呼んでくれるし……。

 あのとき、魔が差してちょっとキスしそうになっちゃったけれども。寝てるなら、キスしちゃっても良かったかな。無防備な方が悪いし。明日から隙を見せたら唇奪っちゃおうかなー?


「うふ。うふうふ」

「……千鶴」



「……そうそう。『千鶴』っていう風にも呼んでくれるし、『お姉ちゃん』っていう風にも呼んでくれるし。ふふふ」

「……ねぇ、千鶴」


「うんうん。起きてるときにも『好き』って言ってくれていいんだよ、舞白?」


 柔らかな呼び声が、いきなり怒声へと変わった。


「白川千鶴さん!! 起きてください!!」

「は、はいっ!!」


 勢いよく顔を上げると、先生が私のことを睨んでいるのが見えた。相当ご立腹なご様子で……。



「春だからって、たるんでいるんじゃないですか? 気を付けてください?」

「はい……。すいません……」


 どうやら、暖かな日差しに負けて寝てしまっていたらしい。

 ああ……、気が抜けてるな私……。


 そのまま先生からの説教タイムが続くと、怒られながら授業が終わってしまった。



「はぁ……、なんだか私。舞い上がり過ぎちゃってたかな……」


 一息つくと、隣の席の一条いちじょう彩芽あやめが私に話しかけてくる。


「千鶴ー。私、一生懸命起こしたんだけど、ずっと寝てたんだよ? 髪を切ったから、心機一転したのかなって思ったけど、大丈夫なの?……もしかして、失恋でもしちゃったの?」


「いやー、そう言うわけじゃないんだけどね。どっちかっていうと逆かもだし……」



「んー? 支離滅裂だよ? 大丈夫かい? なんか悩みがあったら言ってね?」


「うん、ありがと!」



 彩芽とは一年来の付き合いだから、私のことをよくわかってくれる。持つべきものは友達かもかな。


「それはそうと、お昼ご飯どうする?」


「あっ、そうだ。ありがたい誘いなんだけど、私はちょっと遠慮しておくね。ちょっと妹を迎えに行ってくるよ!」



「はは、もうー! 親友の誘いを断っちゃうんだー? 妹にお熱だねー!」


「えへへ。最高の妹なんだよ!」



「またね」と彩芽に別れを告げると、すぐさま舞白の教室へと向かった。


 なんだか、春に舞う桜の花びらのように、私の足取りはとても軽やかだった。

 今日は舞白と何を食べようかなー? ふふふー。



「舞白は、どこにいるのかなー?」


 一年生の教室へと顔を出してみる。

 妹を迎えに来ている二学年の生徒も、ちらほら見えたりする。そういう季節なんだよねー。


 キョロキョロと教室を見回してみると、お目当ての舞白はすぐに見つかった。

 舞白は、ぽつんと一人で自席に座っていた。


 クラスの他の子は、中等部の時からの知り合いも多いだろうし、友達同士で固まっているようだった。まぁ最初はそうなっちゃうのは仕方ないか。

 舞白の席まで行き、声をかける。


「舞白、ご飯食べに行こっ!」

「……いいよ」


 私が近づくまでは、ムスッとした顔をしていたけれども、私の声に反応してニコッと微笑んでくれるのは可愛い。

 立ち上がって舞白の手を取ってみると、優しく握り返してくれる。はぁ……、可愛い……。


 手を取り合いながら、一緒に歩いて食堂を目指す。

 うんうん、実にいい妹だ。


「そういえば舞白はさ、友達って作らないの?」

「私、友達いらないし」


 表情には出ていないけれども、少し怒った口調だ。子供っぽくて、なんか可愛い言い方だな。ちょっとからかってみようかな。



「あれれ? もしかして、出来ないの間違いじゃない? 私は外部から転入組だったから、なかなか友達できない気持ちもわかるよー?」

「べつに」


「私もそうだったんだけどさ、友達を作るにはきっかけが大事だと思うわけ」

「ふーん」



「例えばね、部活に入ってみるっていうのも良いきっかけだと思うよ? これは、お姉さんからのアドバイス!」


「いや、部活入る気なんて一切ないし。高等部から部活に入るとして、例えば文化部に入るって言っても私には得意なことは無いし。運動部なんて言ったら、そもそも部活のメンバーと体格が違うから。高等部の人と一緒にできる部活なんてないでしょ」


 舞白はふてくされたように言ってくる。やっぱり、からかいがある可愛さだ。

 しょうがないから、ネタ晴らしをしてあげよう。



「それがね、大丈夫なんだよ。初心者を歓迎してくれる暖かい部活があるのよ。一年前の私も、悩みに悩んで入った部活があるのよ、私と同じところに入ってみなよ?」


「千鶴と同じ部活? なんかそれって、ヤンキーのたまり場にでもなってる部活なんじゃない? 愛煙同好会とか……」



「んな訳ないでしょ。18歳未満ができるかそんなの。私の入ってる部活は、『手芸部』だよ! 早速、今日から体験入部してみたらいいよ。歓迎しちゃうからさっ!」


「……なにそれ。絶対、千鶴に似合ってないじゃん? 手芸? 手先不器用そうなのに?」


「はは、私を見くびってるねー? 今日で私の印象がガラッと変わるよー? ふふふ」

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