第9話 リコリス寮への謝罪
「なんか勝手にやってるけどさ。お前がやっても意味無いから」
冷淡に言い放つ鳳凰。
首を傾げながら、舞白のことを感情の無い瞳で眺めている。
女子が髪を切るなんて、相当な決意がいる。
きっと舞白なりに、けじめをつけるつもりでやっていたのだろうけれども。それが意味のないことだなんて言われてしまっているのだ。
私が土下座をして、舞白は髪を切って。こんなにしてまでも許さないって……。
「どういうことなんですかっ!! きっちり謝ってるでしょ!!」
さすがの私も少し頭に来たので、ついつい大声でつっかかってしまった。
鳳凰は少し微笑み、余裕そうな表情で私を見下してくる。
「さっき、自分で言ってただろ? こういうことは、上が謝らないと意味が無いんだって」
鳳凰はあくまで寮同士の争いをしたいのかもしれない。
私たちなんて、はなから眼中になんて無いのかもしれない。ここで頭を地面に頭を付けたところで……。
「早く、あなたのお姉様に相談してくれませんか?」
「……お姉様は関係ないですよね?」
「いえ、これは寮の問題と言っていいのではないですか?」
ここで言いなりになっちゃいけない。私は鳳凰を睨みつけて言い返す。
「先ほどと言っていることが違いましてよ。私の教育がなっていないから、ということでしょう?」
私は立ち上がると、舞白が持っていたナイフを強引に奪い取る。そして、それを自分の髪へと押し当てる。
「舞白がやってもダメっていうことでしただけれども、私がやれば良いという話と認識しましたわ」
有無を言わさず、自分の髪の毛を手に取ると、すぐさま切り落とす。
ちょうど舞白と同じような長さの髪の毛が手の中に握られた形になる。切れた髪の毛を握って鳳凰の顔の前に突きつける。
そして髪を床に置き、その場にひざまずくと土下座をした。
「申し訳ございませんでした!!」
先ほど指摘されたことを守って、おでこを床へと擦りつける。これでもかと力を入れて、地面を押すようにおでこを擦りつける。
「全て私の責任です。こちらで、手を打ってくれないでしょうか」
精一杯の声を張る。
ざわめき立っていた食堂内の声は、一瞬にして消えて静かになった。
この場にいる人たちを味方に付けることが出来れば、私の有利に働くはず。これ以上無い策だと思う。これでだめだったら、打つ手はない……。
「……」
リコリス寮の連中は声を失ってしまったらしい。なにも言わずに私のことを見つめているようだった。
「……はぁ。冷めたわ。いいよ、お前ら行くぞ」
「えっ、飛鳥お姉様? こんなので許していいんですか?!」
殴られたと訴えた張本人の姫宮が、鳳凰に意見をした。鳳凰はそれを一蹴した。
「上がけじめ付けたんだから、これで終わりだよ!! みっともねぇから、それ以上言うな。冷めたわ。次のカモ探すぞ……」
「……はい」
姫宮は納得いっていないようだったが、リコリス寮の連中はこの場を引いてくれたようだった。鳳凰を先頭にして、この場を去っていった。
大声を出す人たちがいなくなったことで、元の食堂通りの騒がしさに戻った。
「おいおいっ! なんで千鶴が髪の毛切ってるんだよ! 馬鹿じゃないの! 私が責任取るって言ったじゃん!」
「はぁ……。だからね、舞白だけじゃダメなの」
舞白の顔を見ると、今にも泣きそうになっていた。潤んだ瞳で私に言う。
「どうしてだよっ! 私は別にいいけど、千鶴は髪の毛大事にしてたんじゃないのかよっ! あんなに伸ばしていたのにっ!!」
「いいよいいよ。別に、どっかで切るタイミングを探ってたくらいだよ。はは」
私がリコリス寮のことを教えていなかったのが悪い。私のせいであることの方が原因としては大きいと思う。責任は私にあるのだ。
寮同士の争いは絶対に避けなきゃいけないし。
「馬鹿だよ、千鶴……。なんで、私なんかのために……」
舞白は、感極まってしまったようだ。嗚咽交じりに泣きじゃくりはじめた。純粋な子供用に泣いている姿が、なんだか可愛く思えた。
私は舞白のことを優しく抱きしめる。
「せっかくできた妹だからさ。そんな妹の前でくらい、カッコつけたいっていうのあるじゃん? 妹は妹らしく、お姉さんに甘えなさい?」
「うぅ、うぅっ、うわーーーん!!」
泣き声が食堂に響く。
なんだかんだ言って、まだ小学生くらいの子供なのだ。高等部二年生にあれだけすごまれてしまえば、怖いのも当たり前だろう。
同じ学年だとしても五、六歳歳は年上の姫宮だって、すごく怖かっただろう。どうしようもなくなって髪なんか切ったりして。他の人に迷惑かけないようにしようと、最大限の謝罪だったのだろう。
それに、舞白の方こそ髪の毛を大事にしていたのだと思う。一番大切にしていたからこそ、謝罪したのだろう。
「大丈夫だからね。私も舞白と同じショートになったからさ。姉妹でお揃いなんて、すっごい可愛いくない?」
「うわあぁぁーーーーん!!」
舞白は、しばらくの間泣き止むことはなかった。
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