第7話 食堂にて事件!

「おいっ! 白川千鶴いるかー?」


 お昼休みになったと思ったら、教室の前の扉を蹴り開けて入ってくる女子がいた。

 舞白だ。


 また問題でも起こしに来たのだろうか……。


「ちょっと作戦会議しよっ!」


「はあ……?」


 呼ばれてしまっては行くしかないのだけれども、こんな幼い子に呼び出される高校二年生って恥ずかしい気がするんだよね。

 重い腰を上げて舞白のところへ向かおうとすると、私の席の周りにいた女子がザワザワとしだした。


「可愛いですね。妹ですか?」

「あっ、入学式の時に見た子じゃない?」

「小さくて可愛いー!」

「名前なんていうんですかー?」


 意外と良い反応をもらっているようだ。

 私が出向こうと思っていたところ、舞白がこちらに来てくれるようだった。ざわめき立つ女子たち一人一人を睨んでいく。


「なんかうるさい人たちがいるけどまあいいか。とりあえず、ご飯食べながら話そう!」


「舞白ってば、どんな気の変わりようなの? 私と一緒にご飯を食べようなんて?」



「いいから早くーっ! 話したいことあるけど、お腹空いたのっ!」


「えぇー、すっごい可愛いですね! 小さい子がこういうこと言うのも可愛い」


「羨ましいですわーっ!」



 二学年女子たちには、舞白の挙動一つ一つが可愛く思ってるようだった。

 確かに、客観的に見れば可愛いのかもしれない。自分に対して生意気じゃないふうに見れば、確かに、良いかも?


 舞白は女子に囲まれて撫でられまくっている。それを嫌がるように振り払おうとしている。

 少しムカついたりしたけれども、少し距離を置いたら可愛いのかもしれない。

 まだ子供だし、少しだけ言うこと聞いといてあげるのもいいかな。



「はいはい。わかったよ舞白。それでは、皆様また午後に会いましょう、ごきげんよう!」


「可愛かったですわ!」

「また来てくださいね!」

「ごきげんよう!」


 色めき立つ周りの女子たちに挨拶をして、教室の外へと出る。



「舞白はさ、『外では仲良くする』ってことを守ってくれているのかな? 反抗期じゃなくて良かったわ。ふふ」


「うっせーな! 行くぞ!」


「なにを食べに行きたいかわからないですけれども、私が食堂を案内してあげましょうか?」

「それ、どこ!」


 反抗期はまだ直り切っていないようだけれども、徐々におさまってくるよね。

 手を繋いで、舞白を食堂へと案内してあげよう。



 ◇



 舞白を連れて、食堂へとやってきた。

 この学園の食堂は何個かある。高級なフレンチや、大衆向けの中華や和食などもある。どこがいいかなと考えたけれども、最初だから少し奮発して良い所につ入れていってあげようかと、高級なお店にやってきた。


「なんでも好きなもの食べていいよ」


 私は少し上機嫌になっていた。

 生意気なだけの妹かと思っていたけれども、周りの評価が良いとなると、なんだか鼻が高い気分だった。


「舞白って、意外と可愛い顔しているよね」


「うっせーなー! それなんだよ。なんで、お前に上から目線で言われなきゃならないんだよ!」


 こういう、ちよっと生意気なのも可愛いんだろうな。

 もしかすると、いい妹ができたのかもな。


「それよりさ、なんか寮ごとにルールってあるの? さっきからそれが聞きたかったんだけどさ」


「なんのことかしら? そりゃあ、寮ごとにルールはあるし、他の寮に口出しなんてしたら落とし前でもつけなきゃいけなくなっちゃったりするよ? 気を付けなよ?」



「……そうなんだ。……なんでそれ早く言ってくれてないんだよ」


「えっ?! まさか、なにかあったの?」



 舞白が柄にもなく真剣な顔をしている。少し塞ぎこんでいるようで、何かやってしまったのは明らかだった。


「実はさ……」


 舞白が口を開いたところで、私たちのテーブルに三人の生徒がやってきた。


「おおー、ここにいたのか」



 最初に声を出したのは、赤い髪をした二年生と思われる女子。眉を細く剃っており、目付きがとても悪い。

 制服に赤い紋章を付けた連中。この紋章は、リコリス寮の生徒だ。一番、厄介な連中だ……。

 ここは、穏便に済ませないと……。



「あの、どうかなさいましたか?」



 ――ドチャン!


 机の上に足を乗っける。机の上の食器がガシャン跳ねた。

 この百合園学園はお嬢様が集まる学園なのだが、そうでない生徒も一部いる。頭は良いのだが態度が悪い生徒のたまり場。それがリコリス寮だ。


「なんだか、ヤンチャな新入生がいるらしくてさー? その新入生が、私たちの寮に対して喧嘩を売ったらしいんだよね? 私たちの寮の生徒に対して、暴力を振るったとか?」



 舞白がそんなことをしたのだろうか。舞白の顔を見てみると、少し怖がっているように見えた。


「私、そんなことしてないんだけど。言いがかりがひどくないですか」



「いや、うちの寮の一年がやられたって言ってんだよ。姫宮ひめみや咲子さきこ、出ておいで」


 二年生の後ろに隠れていた眼帯をした生徒が、ひょこっと横へ出てきた。


「私は、そいつにやられた」


 姫宮と呼ばれた子は、舞白のことを睨んでいる。確かに、殴られたような跡がある気がするが……。



「そっちが先にやってきたんだろうが。だから喧嘩しただけだろ」


 舞白が言い返すと、仕切りをしていた赤髪の二年生がゆっくりと首を捻る。後ろを振り返るようにして、姫宮に話しかける。



「そうなのか? 姫宮?」


「いや、あいつが先にやってきた。私の足を踏んできた。その後で、言いがかりをつけながら私に殴りかかってきたんです。鳳凰ほうおう飛鳥あすかお姉様」


 鳳凰と呼ばれた二年生は、こちらへゆっくりこちらへ振り向いてくる。


「……だそうだよ?」


「そいつが、私の通り道に足を出してきて、私を転ばそうとしてきたんだ。周りの奴らも見ていた」



「誰だよ、それ? どこにいるんだよ、そんな奴? こっちが嘘ついているって言うのか?! あぁん?!」


 まさに一触即発の事態になってしまったようだ。

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