二人きりになるとデレる歳下の女子と同棲生活。

米太郎

第1話 最悪の出会い

「今日から、ができる!」


 何事も初めの印象が大切だ。

 初対面で寝ぐせなんてついてた日には『尊敬すべき姉』にはなれないですから。


 長く伸ばした髪を梳き、毛先まで真っすぐに伸ばす。

 胸元の緑色のリボンを整え、ワイシャツに皺がない事を今一度確認する。


「プリーツにくっきりと線が付いているし、大丈夫っと……」


 理想とする完璧なお姉様が鏡の前に映し出されている。お淑やかで聡明そうなお姉様。

 鏡に向かって自然な笑顔を作り、部屋を出る。


 今日は高等部の入学式だ。



 ◇



 桜が舞う中庭。

 軽やかな足取りで掲示板の前までやってくると、学園の生徒たちで賑わっていた。


 掲示板には、新入生の名前がぎっしりと張り出されている。

 それぞれの寮ごとに名簿が分かれて掲示されており、私が所属する『ホワイトリリー寮』にはどんな子が来るのかしら。


 掲示板を眺めているのは、緑色のリボンばかり。私も含めて二学年の生徒が見に来ているようで、見知った顔もちらほらいる。誰もが気にしているということだ。

 ふいに後ろから声を掛けられた。



「ごきげんよう、白川しらかわ千鶴ちづるさん。新入生を拝見しにいらっしゃったのですか?」


 声の主は、隣の寮『ブルーアイリス寮』の一条いちじょう彩芽あやめさんだ。カーテシーをしながら頭を下げる。

 ハーフアップにまとめられた綺麗な茶色い髪の毛に、他の生徒よりも煌びやかに見える髪飾り。本物のお嬢様は一味違うことを知らしめられる。やっぱり、私なんかとは比べ物にならない世界の住人だ。


 完璧な容姿を柔らかく崩しながら、私の答えを待ってくれているようだった。私は慌てて答える。


「ごきげんよう、一条彩芽さん。その通りです。新しく『妹』のになる子を確認しに来た次第ですわ」


 私も例に倣ったカーテシーをしながら挨拶をする。

 学園では基本となる挨拶。この学園に入学した生徒たちは、上品な振る舞いを身に着けるためのカリキュラムを行っている。その一貫の所作だ。


 私のような田舎出身者だったとしても、この学園に通えばお嬢様の仲間入りができる。本物のお嬢様に紛れていれば、意外と細かな所作ではバレないものだったりする。


「可愛い妹が来られるといいですね」


「そうですわね」


 お嬢様と話していると、こちらまで同じ立場になれたように感じられ、少し気持ちが良い。この学園に入学できて良かったと思う所のひとつだ。



 一条さんと話をしている間に、新入生が中庭を横切って体育館へと向かう姿が見えた。誰も彼ももがキラキラ輝いて見える。



「この子たちが寮に所属するのですね。昨年までは私たちがあちら側にいたなんて信じられないですわね」


「初々しいですよね。あの子たちの誰かと同じ寮部屋で一年間過ごすことになる。そうと思うと、なんだかドキドキしますわ」



 昨年の私は、期待と不安の中で寮部屋を訪れ、優しいお姉様が迎えてくださったのだ。今度それをやるのは、私の役割だ。


 どんな子なのかな。どんな子が来たとしても、みんな素直で従順そうな女の子ばかり。それに、十六歳のお嬢様ともなれば、かなりの教養を持っているわけだし。どんな子と一緒に過ごすことになるか楽しみで仕方ない。


 一年生が皆体育館へ行ったようだった、その姿も眺められたし、私の寮に入る生徒の名前もあらかた見れたし。寮部屋で待つことにしようかな。


 振り返ると、小学生くらいの女の子が立っていた。

 ぼさぼさの髪の毛。起きてから梳いていないのだろう、寝ぐせがひどい。眉毛もボサボサ。顔も洗っていないのか、口元には涎のあとがついているように見える。こんな幼い子が入学生の訳は無いし、入学生の妹なのかな?


「ねぇねぇ」


「はい、お嬢さん。どうなされましたか?」



「入学式ってどこでやってんの?」


 見た目だけじゃなくて、中身も子供みたい。教育が行き届いていないような下流家庭の子供なのだろう。口の聞き方にも品が無い……。



「お姉さんの入学式でも見に来たのかな?」


「はっ? ちげーし。何言ってんのお前?」



 不機嫌そうに首を傾け、腕を組み貧乏ゆすりをする。小さな身体全体でイラつきを表しているようだった。なんで私が怒られているんだろう……?

 そもそも、身内の入学式でも無ければこの学園になんて入れないはずなのに。


「お嬢ちゃん? どこから入ったかわからないけど、部外者は出ていこうね。あんたみたいな子が気軽に入って良い場所じゃないの。身分をわきまえようね?」


 後半少し言い方がきつかったかもしれないけれども、こういう子にははっきり言わなきゃ通じないからね。

 女の子はイラつきが限界に達したらしく、私の制服の胸元を掴んで今にも殴り掛かってきそうであった。



「どいつもこいつも、人を子ども扱いしやがってっ!!」


「ちょっとやめて下さいませんか。ウザ絡みしてこないでください。部外者の分際でっ!」



 少女は一呼吸着くと、大声で言ってきた。


「私は、ここの入学生だよっ!! 雪野ゆきの舞白ましろ、この学園初の飛び級してきた入学生だよっ!!」

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