灰の魔導士
toronton
新人のすゝめ
第1話 生きるため
魔導士。それはこの世界ではごく普通の職業のひとつ。誰もが魔法を使えるが、戦闘で活かせるかどうかは適性次第。俺——リアンは、その適性が「普通」だった。
特別優秀なわけでもなく、まったく使えないわけでもない。風・闇・補助魔法を扱えるが、攻撃魔法の威力はそこまで高くないし、燃費も悪い。だから、工夫しなければ戦えない。
そうまでして俺が冒険者をやっている理由は単純だ
“金がない”
とにかく金がない、俺は次男で、家に残ることもできなかったし、まともな職業を選ぶ余裕もなかった。手っ取り早く稼げる手段として冒険者になった。だが、命を懸ける仕事の割に、報酬は決して良くない。
「レザーボアの討伐……報酬は銀貨三枚…」
冒険者組合の掲示板を見上げながら、ため息をつく。危険な仕事だが、生活のためには選んでいられない
「どんな依頼受けたの? 」
隣から気楽な声が聞こえる振り返ると小柄な女性が立っていた。
「ティナか、市場に行ったんじゃなかったのか?」
「忘れ物したから戻る途中!そしたらリアンの事が外から見えたから寄ってみたの」
「ガルフとエリスもか?」
「二人は市場にいるよ」
「そうか」
「それでなんの依頼受けるの?」
「レザーボアの討伐」
「ええー、もっと楽な依頼なかったの?」
「仕方ないだろ、こんなんでも受けないともう金が付きそうだ…」
「…でもレザーボア討伐なんて大丈夫?討伐依頼なんて受けたことないよ」
ティナが少し不安そうに呟く
「でもいずれは受けないと、いつまでも街の雑用してるわけにもいかないし」
「 わかった、じゃあガルフとエリスにも伝えとくね」
「いや、俺も一緒に行くよ」
俺たちは4人パーティーで行動している。
前衛のガルフ、ヒーラーのエリス、メインアタッカーで魔導士のティナ、そして魔導士になりきれなかった俺。
全員組合の講習を終えたばかりの駆け出しだが、駆け出し冒険者が相手にするには丁度良い相手だ、だが相手はれっきとした魔物。油断は禁物だ
翌日準備を整え、俺たちは森へと向かった。
レザーボア
イノシシより一回り大きく、皮膚は分厚い。その名の通り、まるで革の鎧をまとっているかのような防御力を持つ。突進力も凄まじく、人間の骨など簡単に砕いてしまうだろう。剣や魔法があっても、まともにやり合えば俺たちの方がやられる可能性は十分にある。
それでも俺たちはこの魔物を倒し、報酬を得るために森へと足を踏み入れた
だが――
結果は散々だった
「来るぞ!」
ガルフが前に出る。レザーボアが足を踏み鳴らし、次の瞬間には突進してきた。地面が揺れるほどの勢い。ガルフは大盾を構えて受け止めるが、衝撃に耐えきれず後方に仰け反り倒れ込む。
「ちょっと!ガルフ大丈夫!?」
エリスが駆け寄ろうとするのを、俺は慌てて制する
「ダメだ、近づくな! まだレザーボアが……っ!」
レザーボアはすぐさま体勢を立て直し、こちらに向き直る
「ティナ!」
「無理!早くて当たらないよ!」
ティナは必死に照準を合わせようとするが、レザーボアは動き回り、まるで的を絞らせてくれない。高位の魔法は一瞬で放てるものではなく、詠唱や照準の微調整が必要だ。しかし、相手が素早く動き回るせいで狙いが定まらず、ティナは焦りを募らせていた
「リアン、少しでも動きを止められない!?」
「試してみる……!」
俺はすかさず風の魔法を放つ。吹き上げる突風がレザーボアのバランスを崩す――はずだったが、少しよろめいた程度で、すぐに体勢を立て直される。
「ちっ、やっぱり軽い攻撃じゃ止まらないか……!」
レザーボアは動きを止めない。むしろ、こちらの攻撃を警戒するようになり、さらに動きが不規則になる。
「っ!? 」
突如、レザーボアが方向転換し、ティナ目掛けて突進してきた。
「ティナ、避けろ!!」
俺は咄嗟に闇の魔法を放った。影が地面を這い、レザーボアの視界を覆う。突進の軌道が少し逸れ、ギリギリのところでティナは回避に成功した。
「っ、リアン……助かったぁ……」
「礼はいい! まずは態勢を立て直すぞ!」
だが、レザーボアは依然として健在。俺たちは消耗し、敵の動きに対応できないまま――結果、撤退せざるを得なかった。
初めての戦いは、俺たちに“実力不足”という現実を突きつけた。
その夜、俺たちは焚き火を囲みながら、もう一度作戦を練り直すことにした――。
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