お姉ちゃんたちは本当に昔からの幼馴染みで、私には詳しく分からないことも多いですが、三人が出会いは、三人が同じクラスになった、小学3年生の時だそうです。



 この頃から既に這松はいまつさんには本を読む習慣があって、図書室で借りてきた何冊もの本をいつも教室で読んでいました。前にも話した通り、這松さんは、好きなことをしている時が一番輝いていて、読書をする時も、とてもワクワクした表情をしています。



 その楽しげな雰囲気に引き寄せられて、木蔦きづたさんが這松さんに「なんていう本読んでるのー?」と話しかけたそうなんです。




「え!? えっと……ま、『魔女の宅急便』……」



「あー! あのジブリのやつ?」



「う、うん……。けど、映画とは結構ストーリー違うよ」



「え、そうなの!? どこがどこが!?」



「えっと……あ、よ、読む……?」



「読む読む!」



「……ま、待って! それ、私も読みたい!」




『魔女の宅急便』について、二人が話していた時、そんな風に話に入ってきたのが、這松さんの席の近くにいたお姉ちゃんでした。




「私、ジブリめっちゃ好きで、『魔女の宅急便』が一番好きなの!」



「……あ、えっと、けど、この本1冊しかなくて……」



「え、じゃあさ、みんなで一緒に読もうよ!」



「……え?」



「這松君がさ、まだ読んだことない私たちに、読み聞かせしてよ! そうしたら、音読してる這松君も、それを聞いてる木蔦君も私も、みんなが本を〝読んでる〟ってことになるでしょ!」



「……すご、確かに! 黒鵐くろじ、それめっちゃいいじゃん!」



「でしょでしょ! ねぇ、這松君は、どう思う?」



「え!? ……う、うん! いいと思う!」




 という感じで、三人は、その後、公園で朗読会を開いたというわけです。『魔女の宅急便』がお姉ちゃんたちを出会わせてくれた、と言っても過言ではないですね。



 それをきっかけに、お姉ちゃんたちは、学校で話すのは勿論のこと、放課後に一緒に遊んだり、休日には図書館に行ったりと、親交を深めていきました。



 また、お姉ちゃんは昔から人をもてなすのが好きだったので、二人をお家に誘うこともよくありました。なので、その頃に、二人は、お母さん・お父さんとも知り合うようになりました。まぁ、その時、私はまだ小学生にすらなっていなかったので、一応何回か会っていたらしいですが、二人のことはあまり覚えていなくて、私の中での木蔦さんや這松さんとの記憶は、私が中学生の時からになります。








 這松さんが本をよく読むってことから、お姉ちゃんたちが本に触れる機会は多かったですが、その一方で、木蔦さんがいわゆる体育系男子だったので、三人でスポーツをすることもよくあったそうです。



 うちには何故かバドミントンのラケットとシャトルがあるので、それを使って、やけに広い庭で、お姉ちゃんたちはたびたび遊んでいました。





「ねぇ、二人ともさぁ、受験ってする?」



 這松さんと木蔦さんがラリーをして、それをお姉ちゃんが縁側でお菓子を食べながら眺めていました。



「僕は……うん、受験するよ。駅の近くにある東中学」



「あー、あそこか! 這松頭いいし、行けるだろうなぁ……。更はー?」




 時というのは、私たちが知らない間に、ものすごいスピードで過ぎてしまうもので、お姉ちゃんたちは変わることなく仲良しですが、三人はもう小学6年生になろうとしていました。いつしか木蔦さんと這松さんは、お姉ちゃんのことを〝更〟と下の名前で呼ぶようになっていました。




「んー、私はどうかなぁ〜。悩みちゅー。ていうか、木蔦君こそ、受験するの?」



「いやー、実は、俺も更と同じで、悩んでる。親には、いい加減受験するかしないか決めろって言われてるんだけど、なんか、よく分からなくなった……」



 木蔦さんはラリー中にそっとラケットを降ろして、這松さんが打ったシャトルは、力なく地面に落ちてしまいました。



「受験……っていうか、中学に行けばさ、俺たち、バラバラになっちゃうんだよな……」



 いつも明るい木蔦さんが、珍しく寂しそうな顔をしたので、這松さんとお姉ちゃんは、少し驚くと同時に、離れ離れになってしまうことに唐突に孤独感を覚えて、黙り込んでしまいました。




 ですが、その沈黙を破ったのは、お姉ちゃんでした。




「……じゃあさ、みんなで同じ中学行こうよ。這松君が行く中学を、みんなで受験しようよ。私、木蔦君と這松君がいない学校生活なんて嫌だよ……」




 涙こそ出ていませんでしたが、お姉ちゃんは、泣きそうになるのを必死に抑えている様子でした。



 それがお姉ちゃんのワガママだということも、這松さんが受験しようとしている公立中学がかなり偏差値が高い学校であることも、三人ともよく分かっていました。けれど、お姉ちゃんの悲しそうな表情を見た二人は、どうしようもないほど寂しくなってしまいました。



 そして、二人は、出会った時から今日までの記憶を振り返りながら、もう分かりきっている、たった一つの結論を出しました。




「……俺も、這松の行く中学を受験する! 俺さ、小学校で一番友達だって思えるのは、這松と更の二人だけなんだ。俺も、二人がいないと、学校はつまらないし、そんな学校には行きたくない。だから、更の言う通り、みんなで同じ中学に行こう! ……なぁ、這松は、どう思う……?」



「……ぼ、僕も、さっき木蔦君に聞かれて、中学受験するって言ったけど、本当は、そう言うのが怖かったんだ……。言ったら、もう二人とは離れちゃうって思ったから……。だから、僕は、二人が同じ中学に行ってくれるなら、すごく嬉しい! うん……! 三人で一緒に受験しよう……!」



「ああ!」



「うん!」





 お姉ちゃんたちは、羨ましくなるほど、そしてどんなものにも邪魔出来ないほど、強い友情で結ばれていました。その庭での約束から、三人は勉強会を何度も何度もして、お互いに教え合って、そして、およそ1年後、東中学校に三人全員合格したんです!



 そうして、その年の4月、お姉ちゃんたちの中学校生活が始まりました。

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