鷹の見た目に生きるため

学生作家志望

鳶で終われず

俺が今いる都会は、見た目だけが綺麗で他はだらしないことだらけだ。


犬も歩けば棒に当たるらしいけど、ここでは犬でさえもゴミに当たることだろう。ポイ捨てされたゴミが多すぎて臭いもかなりきつい。そうだこんなことをする猿のような人間がいてしまうのが悪いんだ。都会のビル群のガラスがいくら綺麗であってもその下がゴミだらけでは印象が悪い。


「思わない?猿以下のゴミがいるって。」



「いやそりゃ確かにね、ポイ捨てをするのはよくないけど、猿以下とかそういうことではないと思うけど・・・・・・。」



「そうやって都合のよいところだけ切り取って肯定、そして反対をする。どっちかにしてくれ。」



「正人は口悪すぎるんだよね、直したほうがいいって。割とまじで。」



「夕はわかってなさすぎ。俺たちは学歴を持っていて、ちゃんとした常識も身に着けてる。なのにそれすらできてないやつらを悪く言ってなにがダメなんだよ。」



「はあ。ゴミをポイ捨てする人は良くないしその人に常識があるかはわからない。でも人のことをそういう風に猿以下って言ってしまうのは、それこそ非常識だと思うよ。」



「ゴミはどこまで行ったってゴミだ。あいつらは海に浮かぶ無数のプラスチック。俺たちとは違うんだからこれが正しい。」



「なあ、、そろそろ行かね?腹減ったよ。」



「じゃあ牛丼で。」



「うい。」


夕、こいつはいつも俺のことを否定し続けるやつ。一様幼馴染だけど、小学校ぶりの大学での再会となったためになんだかそんな感じがまったくしない。


それから俺たちはまたいつもの牛丼を食べて、それぞれの授業に向かった。


大学、学生であれば必ず聞くことになる単語だ。学生であればというか人であればか。ともかく大学とはそれほど重要な場所だ。人生の分岐点と言っても差支えはないと思う。


そうなのだ、ここは人生の分岐点。重要な場所であるに関わらず平気で授業をサボったり、授業中に他のことをしたりと、そんな無駄に時間を費やしているやつらが多すぎる。


人生とは期待の上にできていると俺は信じてきた。実際に俺の親はどちらとも大学進学を望んでいた。それは小学校の時からだった。


「正人は有名な大学に行って、有名な企業に就職するの。分かった?」



最初は意味も分からず頷く利口な子供を演じているだけで良かった。しかし小学校後半ごろから、本格的に期待が大きく膨らみ始めたのを感じ、それからはただずっと勉強をし続ける日々を送ることになる。


中学受験を受けていい中学に合格し、そこで初めて進学校を知った。なぜなのかあまりそれからの記憶はない。覚えているのはテストの点数が低く説教されたあの夜くらいだろうか。


修学旅行や他のさまざまな行事は全て両親によってキャンセルされてしまい、青春と言えるような思い出はない。


期待の上で生きてきた。この都会の中でもいい大学に入った。色んな人がいて競争は嵐のように激しかった。だがそれを努力と時間で乗り越え、ここまでやってきた。


それなのに・・・・・・・。


大学で唯一出来た友人は幼馴染の夕だけだ。小学校の時はあんなに毎日遊びまくっていたくせに、どうしてこの学校に来れたのだろう。勉強をしていた俺を何回も遊びに誘ってきたのに、どうして。どうして。



アホみたいなやつらばっかりだ。ここはやはり腐ってる。



俺は確かに世間では高学歴だ。だから街にゴミを捨てるような猿以下のやつらとはまったく違う。でも俺よりももっと上のやつらもたくさん存在している。


あれだけ努力しても努力しても、まだまだ足りないのか・・・・・・。



「正人もドッジボールしようぜ!ほら来いよ!!勉強してないでさ!」



「・・・・・・」



毎日誘ってきて、鬱陶しいと思ってた。俺はいい大学に行って有名な企業に就職するんだからドッジボールなんて子供がやることに付き合ってる暇はない。


断ってその次のまたその次の日も断った。サッカーでもバスケットボールでも断った。汗だくになって「楽しかったー-!」と言っているクラスのやつらの声もふさぎ込んだ。


鬱陶しい、鬱陶しい、そうして俺の周りに人は誰もいなくなった。いつのまにか誰もいない教室という空間に慣れてしまっていた。だから孤独に気付くことが出来ていなかった。



「おい!!!なに寝てんだよ、正人。寝てないで早くこれ30枚終わらせろ。今日中な!!」



「えっでも、上田さん。さすがに30枚は・・・・・・。もう深夜ですし、明日じゃ、、、」



「黙っとけよ。お前が仕事できないのが悪いんだろ、はあお前みたいなやつ一人でも部にいると困るんだよなー。仕事遅くてさらには寝てるやつとか誰だよ雇ったやつ」



「すいません・・・・・・。」



「高学歴だから雇われちゃったのかな?仕事できなきゃ意味ないって、猿以下だよおまえ。まあ話してるだけ無駄だから俺帰るわ。」



「・・・・・・」



なんでなんで。期待の上に生きて努力して、両親の望む結果までたどり着いたのに、そこに待ってるのは結局、形が変わっただけの期待じゃないか。


仕事ができないから、暴言を吐かれる毎日。期待に応えようとしても失敗ばかりの毎日。



「もう死にたい、、、」


誰もいないオフィスにこれほどまでに孤独感を覚えてしまうのはなぜなのか。同じ一人ぼっちでも教室とはどこかが違った。


どうしてまだ俺は期待に応えることが出来ていないんだ、パソコンに一人で向き合ってるのは結果が出てないから。俺はもう誰にも勝てなくて誰よりも遅れてる猿以下・・・・・・。



なんで、なんで、、、



ブー、ブー。デスクの上でスマホが突然動き出した。目を擦りながら薄く点滅する画面を見つめると、それが夕からの電話だと分かった。



「なんだこんな時間に・・・・・・。」



夕とは大学卒業後しばらく会っていなかった。会話をすることがもうかれこれ1年ぶりくらいだろうか。



「はいもしもし。」



「正人!よかったまだ起きてたか!」



「なんだよこんな時間に、、」



「なかなか忙しくてあんま連絡できてなくてごめんな。ちょっと話聞いてほしくて、でも他の人たちみんな寝てて。」



「なんだ、早く言ってくれ。」



「俺実は今残業中なんだ。色々やらかしてばっかりで毎日辛い。誰も共感してくれるやつがいないから、今結構追い込まれてるんだ・・・・・・。」



「え?残業!?俺も今残業中!」



「は!?まじwだから起きてたんだ!」



「おうw」



「なあ正人。電話つないでられるか?仕事終わらせようぜ。」



「ああ俺はいける!」



「よっしゃ、おわらせっぞ!!」


ワイシャツの袖ボタンを開いて腕をまくった。期待の上に生きてきた、期待に応えようとすればするほどに一人きりだった。それが本当は辛いのを隠しながら生きてきたんだ。


ドッジボールもサッカーも、バスケットボールも修学旅行だって、本当はやりたかった。みんなと同じ場所で、立ち位置で生きていたかった。


羨ましかったのになんでそれを言わなかったんだろう。やりたかったのに「やりたい!」って言えなかったのはどうしてだろう。


でも今なら言える、独りじゃない。だからやれる。



「なあ夕。」


「ん?」


「今度どっか行かない?リフレッシュしに。」


「正人からそんなん言われたの初めて、、じゃあどこ行こうか?」

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鷹の見た目に生きるため 学生作家志望 @kokoa555

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