目的地

 ここは第九楼閣都市と呼ばれる砂漠のオアシスを守る町だ。

 大きな半月形の泉のほとりに名前の由来となった六角形の鐘楼しょうろうを有した神殿が建つ。この神殿を守るため、聖職者や騎士、傭兵たちが集まり、やがて町が形成された。

 この町の特徴は、非常に路地が多いということ。大通りから一歩踏み込めば、人が3人並んで歩けるかどうかというような細い路地。そのまた奥に路地。旅慣れた戦士でも道に迷うと言われる迷路のような町なのだ。


 ウヌ・キオラスも、さっそく道に迷ったらしい。

「あれー、おかしいなぁ。私には渡り鳥もびっくりの方向感覚があるはずなのに」

 と、首を傾げている。

「なら町の人に尋ねよう。行きたい場所はどこなんだ?」

 アルフェリムの問いに、ウヌ・キオラスは「ふふふ」と悪戯を決意した子どものような顔をして告げた。

「娼館だよ。砂漠を訪れる男たちの心のオアシスさ!」

「え?! それは……面白そうだな」

 アルフェリムは、にわかに興味をそそられた。健全な21歳男子なのだ、そこは許してほしい。

 レオニアスは特に興味がないのかそんな風を装っているのか、「じゃあちょっとその店でいてみますね」と明かりのついた居酒屋のような店に入って行った。


 外に残されたアルフェリムは、肘でトンと言い出しっぺの脇腹をつついた。

「なぁ、どうやってそんな場所があることを知ったんだ?」

 師匠に連れてきてもらった、という回答を得て、やや動揺するアルフェリム。

 ウヌ・キオラスは、光の精霊の弟子だ。そして光の精霊は、人間の世界では「聖教皇フォアスピネ」と呼ばれる最も位の高い聖職者なのだ。弟子とそんなことをしていていいのだろうか。

「キレーなお姉さんが歌を歌ったり、舞を踊ったり、一緒にご飯を食べてくれたりするんだ。すごく楽しいお店だよ」

 思い出を語るウヌ・キオラスの表情を見て、ふと疑問が浮かぶ。

「それ、いつの話だ?」

「10歳の誕生日だけど、なんで?」

「いや……」

 聖教皇フォアスピネよ、10歳児を大人のお店に連れて行くな。これではおそらく、娼館のなんたるかを理解していないと思われる。

 レオニアスが戻って来たので今の話を耳打ちすと、 彼はさもありなん、と頷いた。

「お姉さんと大人の遊びをしてるウヌ・キオラスなんて、想像できませんから。そんなことだろうと思ってましたよ」

 レオニアスが冷静だったのはこの事態を予測していたからのようだ。

 期待した自分が、少し恥ずかしくなるアルフェリムだった。

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