アフロディーテの笑み
羽弦トリス
第1話モテない男・立川
この日は、まだ、4月だと言うのに日中は暑かった。
4人の検査員は、港のヤードでオーストラリアへ輸出する中古車のチェックをする。
1台1台、エンジンナンバーと、外装、内装を細かくチェックして書類に書き込む。
そう、ここは中古車輸出会社のヤード内である。
2人一組で1人が検査して、状態を言い、1人が書類に書き込む。
書き込む文字は英語で無ければならない。
チェックは疲れる作業なので、交代で作業を進める。
社内は、サウナ状態。
4人の検査員は、汗だく。
朝の8時半から作業を始めて、10時に休憩した。
46歳独身の立川慎吾は係長なので、城山大地にお金を渡し、缶コーヒーを買ってくるように頼んだ。城山は27歳だ。中川一郎は作業着を腕まくりして、木陰に座る。30歳。
同期で同じ46歳の佐々木純也は木陰でポケットからタバコを取り出し火をつけた。佐々木は主任である。
4人とも喫煙者なので、缶コーヒーを飲みながら喫煙していた。
「ねぇ、立川ちゃん、このままだと今日は残業だね」
と、佐々木が煙を吐きながら言うと、
「そうだね。中川や城山は若いから動きが良いけど、オレらオジサンにはこの仕事キツいわ。しかも、オレは役職者だからみなし残業しか付かないから、佐々木君らは良いよぁ」
「係長、でも僕らより給料良いじゃないですか?」
と、中川が言うと、
「この会社は、係長くらいなら主任の佐々木君と余り給料は変わらないんだよ。中川」
「……そうだ、今夜、飲もうよ。暑いし。オレは安くて美味い居酒屋知ってるから」
「佐々木君、良いねぇ飲もうか?」
「先輩、オレ、金ないっす」
「心配するな中川、オレと係長が出すから」
「じゃ、甘えます」
「城山もビール飲みたいだろ?」
「はい」
「良し、18時半には帰ろう」
「そうだね、立川ちゃん」
4人は昼までに300台弱チェックして、昼めし食べると休憩もせずに午後から500台チェックした。
作業が終わったのは、18時過ぎ。
4人は替えの下着を持っているので、汗を会社のシャワー室で流し、着替えて居酒屋に向かう。
4人は、佐々木の勧めで「鶏のちから」なる居酒屋で黒ビールで乾杯した。
全員、喉を鳴らして黒ビールを飲む。
「かぁ〜、美味いね。仕事後のビールは」
と、佐々木が言うと立川も、
「そうそう、オレは酒しか愛せない」
「ねぇねぇ、オレもオジサンだけどオジサン、何で結婚しないの?」
「佐々木君は良いよね?結婚して子供もいるし」
「係長、オレも結婚してますよ」
と、中川が言うと、
「シッシッ、既婚者はオレに声を掛けるな!な、城山」
枝豆を食べていた城山は、
「僕はもう、籍入れました。来年、式を挙げようかと……」
立川は肩を落とした。
「やっぱり、オレだけ?女に縁のない人間は」
「……そのようだねぇ、立川ちゃん」
「オレも彼女欲しいよ!結婚したいよ!何故、出来ん?」
「係長は、おしぼりで顔や首すじを拭くからですよ!」
と、ボソッと中川が言った。
「後、立川ちゃんの息は臭い」
「えっ!そう?ハーッ」
「くせっ!」
「冗談キツいよ、佐々木君!」
「係長、ここまで匂います」
と、城山が言った。
「……どうしよ?どうやって結婚するのか教えてよ!中川!」
「まぁ、こればっかりは縁ですから」
「城山、何か無いか?」
「先ずは、歯磨きから」
「良し、我々が責任を持って立川係長の恋人……否、結婚相手を探してやろう」
「オー・マイ・ブラザー。愛してるぅ〜」
「だから、立川ちゃん臭いって」
この日から、モテないオジサン・立川の結婚させよう計画が動きだした。
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