第21言舌

 キュロンという通知音が鳴る。



『今日、仕事を辞めた。これ以上耐えられない。もう限界』


 >初めてコメントします

 >いつも読んでいます

 >イジメですか?辛いですね。ご自愛ください





『いつもの場所で気分を落ち着ける。お気に入りの席でコーヒー飲んだ。私、ここからの眺めが好き』


 >気分転換は素敵なアイデアですね。

 >お気に入りの場所は大事にしたいです。





『しばらくは好きなことをする。希望を持ちたい』


 >希望を持つことは大切です

 >私の希望はお腹の子です

 >もうじき臨月に入ります




『外の世界は怖い。でも踏み出さなきゃいけない。勇気を出して』


 >新しい環境でうまくいけるように願っています

 >自信を持ってください

 >私も予定日が近くて怖いです




『信じたい。でもやっぱ無理。だって分かるもの。先が見える』


 >何度もひどい目に遭っていると

 >そういう気分にもなります

 >でも動かなきゃ変わらないよ?





『何度願っても同じことの繰り返しだよ。人は変わらない』


 >そんなことない

 >人は変われるよ

 >勇気出して






 ――キュロンという通知音に、聡美はスマホを見た。



『親になるってどんな気分?』




「……」

 初めて、メッセージだと感じた。

 コメントを残しても、それに対しての返事は一切なかったので、果たして目を通しているのかどうか疑問だったが……


 本文の方に書かれた言葉に、聡美は「これって私に対して聞いてるんだよね?」と呟いた。

 相変わらず画像にはボカシが入っているが、遠くにビルが見える、どこかの商業施設の屋上のような場所に見えた。


 聡美は少し躊躇った後、コメント欄にメッセージを書き込んだ。


 >少し怖いです。

 >でも今は楽しみでもあります。

 >性別を知ったので。





『彼女を大切にしてください』





 その言葉を最後に、1woIhのブログは更新されなくなった。


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