第16話

 治癒施設が完成したとのことで、ジュライト様と一緒に王宮を訪れた。今は応接室の中で待っている。

 用意された紅茶とお菓子がとてもおいしい。

 くつろいでいると、ベルフレッド国王陛下が一人で入ってきた。


「待たせてすまぬ。病が治ってからというもの、非常に調子が良い。改めて礼を言いたい」

「レイナさんは公爵邸で仕えているみんなに治癒魔法をかけてくださっていましてね。より明るい雰囲気になっているのですよ」

「ならば、我が王宮の人間にも治癒魔法をかけてもらいたいくらいだな」


 冗談まじりのようにベルフレッド国王陛下は笑う。

 あれから色々と試してみた結果、どんなに発動しても魔力の消耗の辛くなる感覚がわからないままだった。

 時間がある限り発動し続けていても問題がないのだと思う。

 つまり、ほぼ魔法を放ち放題。

 あの感覚がたまらなく楽しい。

 ご褒美みたいなものだし、お望みであればいくらでも治癒魔法をかけたいところ。


「さっそく本題に入りたいと思う。治癒施設の場所だが、民衆と貴族街にある検問所のすぐ近くに用意した」

「さすが伯父様。貴族も民衆も大変移動しやすく便利な場所ですね」

「そうでもしなければならない理由もある。国内には、身体の不自由な者や治らぬ病で苦しんでいる者が多いからな」


 ベルフレッド国王陛下が私に対して申し訳なさそうな表情を向けてくる。


「本当に無償で良いのか? 本来ならば、生涯働いて得られるほどの硬貨を支払うくらいのことをしているのだぞ?」

「まずはお試しですから無償でも構いませんよ。報酬が目当てでもありませんし」

「そうか……。だが、良からぬ者も現れることは避けられまい。状況によっては有償案件に変えさせてもらう」

「わかりました。でも、なるべく誰でも治癒を受けられるような金額にしていただけたら……」


 タコさんウインナーが食べられるくらいの報酬をいただければ十分だろう。


「あとはレイナ殿の正体がバレないようにせねばな。変装系の魔法を使える者が王宮内にいる。以前私がレイナ殿に助けられた時もその者の魔法で変装していたのだよ」

「なぜ変装してまで外を出歩いていたのですか?」

「気兼ねなく散歩するのが好きなのだよ。そして、民衆の調査も大事だ。国王だとバレずに民衆街へ入り、都度調査をしていた」


 ベルフレッド国王陛下もまた、ジュライト様のように物腰が低く優しく、民衆のことを大事に思っているようだ。

 最初は魔法を使える喜びばかりが先行していた。今は、ベルフレッド国王陛下やジュライト様が大事にしているこの国を、より良くできる手助けができたら良いなと思うようになってきた。


「入ってきてくれたまえ、サンアディム=グレスよ」

「え!?」


 その名前は聞いたことがある。

 サンアディム=グレス第一王子。

 現在十九歳で来年結婚するという噂もある。魔法で非凡な才能を持っているが、その力の詳細は明かされていない。


「サンアディム=グレスと申します。レイナ様のご活躍はジュライトから聞いていますよ。あなたのお力になれるのは光栄だ」

「お初にお目にかかります。レイナ=ファルアーヌと申します。どうかよろしくお願いいたします」

「サンアディム兄様の変装魔法を知っている者は王宮内でも限られています。どうか秘密にしてくださいね」

「かしこまりました。絶対に喋りません」


 ジュライト様ととても似ている。違うのは髪の色で、青がかった煌びやかな髪。群青色の瞳もジュライト様とソックリで、とても優しそうな雰囲気だ。


「私の無属性魔法は、一度かけると約半日間は発動が解けません。ただし、レイナ様の治癒魔法を使えば解けるかと。間違えて治癒しないようお気をつけて」

「気をつけます」

「さて、ではレイナ様をどのような姿にしましょうか」


 せっかくならば可愛い顔にしてほしい。

 自分で自分の顔を見つめてきゅんきゅんするのも楽しそう。


「レイナを守るためにも、男の姿でお願いします」

「ほへ?」

「ただでさえ治癒魔法と知れば、噂は広まります。今回は念のために異国からの来訪者という設定にしていますし、縁談や交際の申し込みが跡をたたないでしょう」

「私が、男性に……?」


 なんだか面白そうだし、それでも良いかもしれない。

 お胸がぺったんこになって、筋肉むきむき。そして……。


「見た目だけを変えることができる、いわば幻影魔法です。魔法効果中もトイ……花摘みなどは普段と変わらずできますし、力も変わりません」

「そう……ですか」


 筋力も男性並になって、重いものを運ぶようなことはできないようだ。


「確かに保険として見た目は男性にした方が良いかもしれませんね。それでもの時はジュライトがレイナ様を守ると言っていましたし大丈夫でしょう」

「兄様! それは言わない約束でしょう」

「ははは、こんなに大事にされているだなんてレイナ様も羨ましい。なにしろ、ジュライトの水属性と力で勝てる者などいませんから」


 ジュライト様は非の打ちどころがないほどのお方。私はどんなに頑張っても釣り合うような女にはなれないと思ってしまう。

 どうして私のことを婚約者にしようとしてくれたのか、前回聞き忘れてしまったからなぁ……。

 機会があれば今度聞いてみよう。


「ではさっそく、レイナ様とジュライトを変装させましょう。準備はよろしいですか?」


 どんな男性に変わるのかとても楽しみだ。

 はて、ジュライト様は男性? 女性?

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