第3話 人間イブの事情
今日は散々な一日だった。
気難しい父である社長が一日ホテルに居座って居た為ホテルのスタッフもピリピリして何時もはしないミスを連発。
そのフォローに駆けずり回り最後には社長から私の指導不足だと長々と説教を喰らうことに・・・こういう時は昼休憩も取る余裕がない。
と言っても、まだ一日は終わらない。
支配人室のデスクの上で契約書を目の前にため息をつく。
時間は19時、家に帰ってルームメイトのリディとその相棒の黒猫ミヤと食事をとってゆっくりしたい。
だが・・・カジノ・ヴァングリーの契約をしにカジノへ足を運ばなければならない。
駆けずり回っている頃ホースからの電話を思い出す。
「イブ、申し訳ない今日約束をしていた契約の件だが、行けそうもない。」
「ホース?何かあったんですか?」
いつもの余裕のあるホースの声が沈んでいる。
ここも、トラブルだらけで余裕がない中、ホースの声に我に返る。
「・・・仲間の不祥事で今警察だ。すぐ終わると思ったが思ったより手こずっている。」
ホースはカジノ・ヴァングリーのオーナーで人狼のキングでもある。
責任のある立場上、約束のアポも変更になる事は多い。私もホース程ではないにしろ、同じ事情で会う約束がのびのびになってしまい、契約が切れる最後の日の約束となってしまったのだ。
「・・・時間は遅くなってもかまいません。私がカジノへ出向きます。」
「・・・私でなくてもかまわないかな?」
「?それはどういうことです?」
「・・・契約が去年と変わらないのなら、ガウデイに印鑑を押してもらうことができる。」
ガウディはホースの側近で信頼できる事は知っている。
だができれば責任の終えるものの印が欲しい。それと契約とは別に話があったのだが・・・。
私の無言が、否定だと思ったのかホースは小さくため息をつき
「私の血縁の印鑑なら大丈夫だろうか?」
「血縁?」
ホースに血縁がいるとは初耳だ。
息子が一人いたのは知っているが確か二年前くらいに縄ばり争いの闘争で亡くなったと聞いていた。
「実は孫がいる。・・・カジノの仕事には付いていないが、契約書をよんで印を押すことは出来る。」
「お孫さんがいらっしゃるんですか?・・・それなら、その方が。」
カジノの仕事が分からないのが気になるが、ガウディに責任を押し付けるよりはいいだろう。
「悪いな。イブ、君に会うのは楽しみにしていたのだが・・・。又無理をしていないだろうね?」
ホースの声に優しさがにじむ。
ホースは何時も私が食事もせずに仕事をしているのを心配してくれる。
ホース自信、仲間の為身を粉にしているというのに。
その日初めてホッと息が出来た気がして、自然に笑みがこぼれる。
「ホース。私の事よりご自分の心配を・・・。早くそこから脱出してください。」
「・・ハハ。そうだな。今日は孫に譲るとして、次はゆっくり食事でもしよう。」
「ええ。楽しみにしています。」
時計を見る19時7分。
今からカジノへ向かえば20時前までにはつくだろう。
とにかく、ホースの孫から契約書の印をもらい仕事を終わらせよう。
重い体を起こし、ホテル・グレイスのエントランスからタクシーを捕まえカジノへと向かった。
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