レッド アケード

こてつ

第1話 人狼ホースの事情

 あのバカな孫は年中、森にこもって人狼との関わりを持とうとしない。


 いや、近所の人狼が声をかければそれなりにコミュニケーションをとるらしいが・・・。


 白髪の混じった豊かな髪と口周りを覆う整えられた口ひげ、年齢を重ねて顔には皺があるが、その肌色は健康的に輝き、若い頃の美しさが垣間見える。


 その人狼特有の銀色がかった黒目は疲れたように細められ頭を抱える。


「ホース。体調が悪いんですか?」


 カジノ・バァングリーのオーナー室のデスクで頭を抱えるオーナーでこのグリーディングシティーの人狼のキングであるホースに、側近のガウディが声をかける。


 ガウディは肩幅のある身体を覆うパリッとした黒いシャツに長い脚を強調する黒いスラックスを着ていて、表情の少ない整った顔はグレイかかった柔らかそうな髪に縁どられている。


「あいつの事を考えると病気になりそうだ。」


「・・・チャンスですか。ですが、ホースがグリーディングシティへ来てもカジノは手伝わなくてもいいと言うから・・・。」

 

 この側近はオーナーの機嫌を取る事をしない・・・。確かに言った。


 だが、そうでもしないと、唯一の血のつながりのある孫は人豹のテリトリーのヴィオリーナシティから出ないし、狼とのつながりも断ちそうだったのだ。


 ため息しかでない。

 チャンスの母親は人間だ。


 私の息子のディーンが昔付き合った人間の娘エレノアが子供を産んで一人で育てているのは知らなかった。


 ディーンが闘争に巻き込まれ命が奪われた時、自分の血筋はすべて断たれたと思っていた。

 

 だがその後エレノアから連絡があったのだ。

 ディーンの息子であるチャンスの事を。


 始めは何かのデマかトラップかと思ったが、ディーンの直筆での自分の子供である事の証明書と直近での病院での遺伝子鑑定も送ってきた。

 念のため書かれていた病院の信頼性とディーンの直筆も鑑定に出し本人のものだと証明された。

 

 だが、二人が住んでいたヴィオリーナに行ったときにはエレノアは病気で亡くなった後で、その息子のチャンスが冷めた目で私を向かい入れた。

 

 チャンスはヴィオリーナシティでコミニティはできているし、このままここで生きていく事を希望したが、人狼が豹の町にいるのは生きにくいだろうと、半ば強引に森で静かに暮らせる場所の提供と一切こちらの仕事を強制することはしないと約束してしまったのだ。


「これから警察署へ行ってくる。」

 孫の事を嘆いていてもなにも変わらない。ため息を押し殺し立ち上がる。


「・・・デニスですか。」

 

 ガウディも眉をよせ呟く。

 デニスはガウディと一緒でホースの最も近い側近の一人だ。人狼としての力も強く、次期にキングの後を継ぐだろうと言われているが、気性が荒い。


 人間と獣人とのバランスを取る町では人間を襲うこと、法に反する事は禁止されている。


 だがデニスは要領が悪く、間違っていると思う事には徹底して戦おうとするがあまり人とぶつかってばかりいる。

 

 ガウディに目をやる。

 この人当たりのよさはデニスとは真逆だ。

 デニスに対抗するには、ガウディに頑張ってもらわなければいけないが・・・。


 「ガウディ、私も年だ。お前は・・。」

「上に立つとか無理です。チャンスはあなたの孫です。もう一度説得しては・・・。」

 ・・・なんとも、向上意欲がない・・・。


 デニスと力の面でも弾けを取らないはずだが、兄弟の多いい末っ子だからか、私の後釜には興味を示さない。

 

 チャンスは人狼としてここに来てまだ一年位か、誰かと争う事もなく年中木を削っている。


 その腕は仕事にする位上手いらしく、ガウディが言うには、カジノの仕事をしなくても十分生きて行けるらしい。人間を相手のビジネス能力は長けているのは分かった。

 

 後人狼のキングに必要なのは力だ。


 誰の力も借りず、人狼として変化出来るということはそれなりに力のある証拠だが、それを裏付ける行動がない。


 狼に変化する事も本人いわく、気持ちのいいものではないらしい。


 それでは、他の者が彼をキングだとは認めないだろう。


 もう一度ため息をつき、デニスのしりぬぐいの為、人間の統治する警察署へと重い脚を向けた。

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