第30話 塔7


 バチンと音がして、熱い火花が頬に散る。頭が熱い。アオネコは、ヘッドセットを急いで自分の頭から外した。

 見ると、ヘッドセットは黒煙をあげてショートしていた。

 勢いをつけて椅子から立ち上がる。周りと見ると、コードは絶縁不良をおこし火を噴いており、モニターは割れて、機器類は漏電し、バチバチと電流を流しながら燃えている。

 研究所は、崩壊しようとしていた。


「フェアリー!フェアリー!」


 声のする方を見ると、割れた培養槽の前に、神楽耶が蹲っていた。彼女の腕の中には、フェアリーが抱きかかえられている。ぐったりとした顔には生気はなく、瞼は重く閉じていた。

 フェアリーは、死んでいた。


「私の研究が……私の"理想"が……」


 神楽耶の絶望に染まった声がする。

 アオネコはぐっと息を飲んだ。神楽耶の研究所をここまで壊したのは、アオネコとチイナの二人だ。

 二人で放ったあの光が、フェアリーとの接続に負荷を与えて、急激な電流の放出が起こったのだと予想された。

 フェアリーを殺したのは、私達だ。

 グラグラと天井がたわみ、バルブが落ちてくる。建物自体が崩れかけていた。


「神楽耶博士!逃げないと……!」


 アオネコが神楽耶に駆け寄ろうと足を踏み出した瞬間、天井が崩落し、目の前に落下する。砂埃が舞い、アオネコが手を自身の口にかざす。行く手を阻まれた。


「神楽耶博士!」


 アオネコが叫んだ。神楽耶の背が、瓦礫の向こうに見えている。


「神楽耶博士!貴女はただ、フェアリーを目覚めさせたかっただけなの!?」


 ゆっくりと神楽耶が振り向く。彼女は静かに微笑んでいた。


「私も……心から愛する存在を見つけたかったのかも知れないな……」


 次の瞬間、神楽耶とフェアリーの上に、崩落した瓦礫が落ちる。神楽耶とフェアリーは、瓦礫の中に消えて行った。

 アオネコは、踵を返して走り出した。

 建物の奥から出口に向けてひた走る。至る所で火の手が上がり、壁や天井が落ちかかって来る。

 階段を駆け下り、廊下を飛び越えて、アオネコは走る。出口が見えて、アオネコは扉を開けて、外へ走り出た。

 それと同時に、轟音を上げて研究所が崩れていく。

 遠くで消防車のサイレンの音がする。アオネコは、振り返らずに歩きながらポケットを弄ると、メルティ・イヤーを取り出した。

 手に持ったメルティ・イヤーを一瞥いちべつする。


「さよなら、メルティ・イヤー」


 そして、アオネコはそれを強く握りしめ、破壊した。

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