第6話

ベラズレル国で双子として生まれた私達は、運命に翻弄されることとなった。

私と兄、ルカは双子だったが、その存在は忌み嫌われていた。双子というだけで、古くからの信仰において不吉な兆しとされ、王族にとっては大きな汚点となるはずだった。私たちは、他の子供とはまったく違う――特別な存在とされていた。


両親は、私たちが生まれてすぐに、王国の民の目を避けるため、私を信頼できるメイドに預けることに決めた。


家族が迎えに来るまで、静かな日々が続くはずだったけれど、父と母は突然、叔母に命を奪われた。叔母は、母と父を裏切り、権力を手に入れようとしたのだ。


いや、今現在、権力を手に入れ、ルカを邪魔者扱いし、自分の息子を王位につけようとしてる。


ルカもまた、王宮で育つことが許されなかった。


遊び人だと噂ばかり流されて、現在貴族の間でもルカの立場は弱くなる一方だった。


だけど、彼は、私と同じ波長の魔力を感じ取っていた。


そして、兄はずっと私を探し続けた。彼は自分の魔力の力を駆使して、私の存在を探り当てたのだ。


「君は、僕の双子の妹だよ」


ルカの言葉を、私はその時、気づく。

彼は、いつも私のことを気にかけていたのだろう。

王宮を出て、ひっそりととある公爵家に身を寄せながら、私を探してくれていた。


ずっと…1人で…私を。


「僕たちは、双子だ。どんなに離れても、どんなに遠くても、心は繋がっている。夢の中でいつも君に会えてたからわかるからね」


「……っ」


ルカの言葉に、私は涙がこぼれた。


長い間、孤独の中で過ごしてきたが、今、彼が私の前に現れた。私たちは、ようやく再会できた。


「因み、ルナと僕には同じ星のアザがあるんだ。これはアザではなくて、指輪と呼ばれているんだよ」


「指輪?どうして?」


「この国の王位に就くには、指輪の証と聖杯が必要なんだ。聖杯は、亡くなった父が叔母にとられまいと、何処かに隠したみたいなんだ。僕は聖杯をずっと探してるんだけど、見当たらないんだよねえ」


「そう、なんだ‥‥。お父さん、お母さん…どんな人だったの?」


「うん、ゆっくり話すよ。沢山聞いて欲しいからね」


私が微笑むと、ルカはソルの目を覆う。


「因みに!その可愛らしい笑顔は、男に向けてはダメだよ!?可愛いんだから!」


そう話すルカに、呆れた様子のソルを見て私は笑った。


「とはいえ、今城は信用できないし、敵だらけ。まだ君の存在を公にできないけど、信用できる公爵には事情を説明しようと思う。あまり、馬車も使えないから歩くことになるけど…大丈夫かな、疲れたなら僕に言ってね」


「…う、うん」


「さて、このボロ小屋には長居できない!でようか!」


そう私達三人は身バレしないように、フードを被り歩いていく。私は晴れた空を見上げる。


シオン君…私に家族がいたんだよ。いつか、貴方に会えるかな‥‥会えたら、きっと‥‥。










シチリア家の家紋が見える豪華な馬車が、火事の跡地に静かに停まった。灰色の煙が立ち上る焼け跡に、馬車の車輪が軋む音だけが響く。


馬車から降りたのは、1人の男性と少年だった。

男性は年配で、品のある姿勢を保ちながらも、目の前に広がる焼け跡をじっと見つめていた。シチリア公爵は、息子に質問をする。


「シオン?本当にここなのか?行きたい場所って……」


「はい、そうです」


シオンはきっぱりと答えた。


「お前が珍しく外に出たいと慌てて、行きたい場所があるというもんだから…これは酷いな。この前もオリバー王子達も視察へ行ったみたいだが――シオン?聞いてるか?」


シオンは焼け跡に視線を向けながら、父の言葉には反応せず、ただただ静かにその周囲を見渡していた。目を細めると、微かな魔力を感じ取った。


「…‥魔力を感じる…炎…」


「炎の魔力を感じるのか?……シオン、お前はやはり天才だな」


父親はその言葉に感心した様子で言った。

シオン・シチリアは魔力の感知能力が高く、さらに頭脳も明晰だった。それゆえに、他の者が気づかない微細な力も感じ取ることができる。


「しかし、炎か――炎となるとルカ王子しか使えないはずだよ、勘違いだろう。さあ、もう帰ろう。遠くまで来たが、何もない」


シオンはその言葉に一度止まる。


「……ルカ王子……?会ったことはないけれど…」



シオンは呟いた。


焼け跡の中に視線を落とした。ふと、足元で何かが光った。それは、焼け焦げた鏡の一片だった。シオンはその光る物を見逃さず、素早くそれを拾い上げた。鏡は壊れており、焼けた跡もあったが、わずかに反射する光が何とも言えず異様な魅力を放ってい今はそれよりも、手のひらに収まる鏡の破片に目を奪われていた。


ルナとの思い出を思い出すシオン。


シオンはその鏡をギュッと握りしめ、心の中で誓った。


「……この悪ふざけはルカ王子がしたことなのであれば………!」


この瞬間、彼は決意を固めた。シオンは静かに深呼吸をすると、父の方へと振り返った。


「……まだ帰りません。少しだけ、この場所で調べたいことがあります。」


父親は少し驚いたように目を見開き、すぐに頷いた。シオンは再び焼け跡をじっと見つめる。魔力が、そして何かが確かにこの場所に残されているようだった。

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