第11話 『崩壊の序曲』

第11話:「崩壊の序曲」


王宮の長い廊下を、ルイスはゆっくりと歩いていた。


彼の心の中では、すでに決断が下されていた。


——刻印を捨てる。


それ以外に、この運命に抗う方法はない。


歴代の王たちは、皆、刻印の呪縛に囚われ続けていた。

王として生きた者は、やがて「刻印の意志」に取り込まれ、その存在すら歴史から消されていく。


この世界の理を破壊しなければ、何も変わらない。


それが「刻印の源」へと向かう理由だった。


しかし、その決断を知る者たちは、ルイスを止めようと動き始めていた——。




王宮の奥深く、ラズフォードは報告を受けていた。


「陛下が、刻印の源に向かおうとしています。」


ラズフォードは沈黙した。


彼は代々「忠誠」の刻印を持つ一族であり、歴代の王に仕えてきた。


そして、彼が王に誓うものは「絶対的な忠誠」。


それゆえに、王が自らの義務を放棄しようとするならば——


それは、決して許されることではない。


「……すぐに兵を集めよ。」


ラズフォードの声は冷徹だった。


「王を王たらしめるために、必要な措置をとる。」


部下たちは沈黙し、すぐに動き出した。


王が王でなくなるなど、あってはならないことなのだ。


たとえ、それがどんな理由であろうとも——。




ルイスは城の地下へと続く階段を降りていた。


「刻印の源」がある場所——それは、この王宮の最も深い場所に存在する。


王にしか到達できない場所。


彼はそこへ向かい、すべてを終わらせるつもりだった。


「……ルイス!」


後ろから駆け寄る足音。


振り向くと、そこにはセラがいた。


「本当に行くつもりなの……?」


その声は、震えていた。


「……ああ。」


ルイスは、静かに頷いた。


セラは息を詰まらせたように彼を見つめた。


「お願い……やめて……!」


「セラ……」


「あなたが刻印を捨てたら、世界が崩れるかもしれないんでしょう?」


「それでも……」


「それでもって、どうして……!?」


セラは涙を流した。


「私は、あなたに生きていてほしいの……! あなたが王でいるとか、運命に抗うとか……そんなことより、ただ、あなたが生きていてくれるだけでいいのに……!」


ルイスは目を閉じた。


「……それでも、俺は行かなきゃならない。」


「なぜ……?」


「誰かが、運命を終わらせなきゃならないからだ。」


ルイスはセラの肩にそっと手を置いた。


「俺は、刻印の王だ。でも、俺はそれを望んで王になったわけじゃない。」


「それでも、俺は……運命に抗い続けると決めたんだ。」


セラは何も言えなかった。


ただ、涙をこぼしながら、ルイスの腕を掴んでいた。


「行かないで……お願いだから……」


ルイスは微笑んだ。


「ありがとう、セラ。」


そして、彼は静かにセラの手を解き、地下へと進んだ。




だが、その先には——待ち受けていた者たちがいた。


ラズフォードと、数十人の兵士たち。


「陛下。」


ラズフォードが、静かに剣を抜いた。


「刻印の源へ向かうおつもりですか。」


「……ああ。」


ルイスもまた、剣を抜く。


「お引き返しください。」


ラズフォードの言葉は冷たかった。


「王は王でなければならない。 それが、この世界の理だ。」


「理だと?」


ルイスは嘲笑した。


「そんなもの、俺は認めない。」


「ならば——」


ラズフォードの剣が、煌めいた。


「この場で討たせていただきます。」


一瞬の沈黙。


そして、次の瞬間——


剣が交差した。




ラズフォードの剣は重く、速かった。


しかし、ルイスはそれを受け流し、カウンターを仕掛ける。


ガキン!


火花が散る。


「なぜ、そこまでして刻印を守る……!」


ルイスが叫ぶ。


「お前は、この世界の運命を変えたいとは思わないのか!?」


「私は——王に忠誠を誓っている!」


ラズフォードは、まるで自らを鼓舞するように叫んだ。


「王は王であるべきなのだ! それが、この世界の秩序……!」


「違う……!」


ルイスは強く剣を振るい、ラズフォードを弾き飛ばす。


「お前は、ただこの世界に従っているだけだ……! それを忠誠とは言わない!」


ラズフォードは、苦しげに息をする。


そして——


「……ならば、俺を斬れ。」


静かに剣を構え直した。


「俺を斬り、この世界を破壊するがいい。」


「……!」


ルイスは、剣を強く握りしめる。


戦うのか? それとも、彼の言葉を受け入れるのか?


だが、その時——


「やめて!!!」


セラの叫び声が響いた。


「もう、やめて……!」


ルイスとラズフォードは、同時に彼女を見た。


「こんなことしても、何も変わらないじゃない……!」


涙を流しながら、セラはルイスに駆け寄った。


「お願いだから……誰も傷つかない方法を探して……!」


ルイスは息を飲んだ。


だが——


その瞬間だった。


王宮が、震え始めた。




ゴゴゴゴゴゴ……!


まるで地鳴りのような揺れが、城全体を包み込む。


そして——


地下の奥から、何かが呼びかけるような声が聞こえた。


「……お前は、どう抗う?」


その声は、かつての刻印の王たちのものだった。


「……!」


ルイスは、その声に導かれるように、刻印の源の扉を開けた。


そこにいたのは——かつての王たちの意志だった。


「お前がここへ来ることは、すでに決まっていた。」


それは、まるで世界そのものが語りかけるような響きだった。


「さあ、選べ——」


「運命を受け入れるか、それとも——」


「すべてを破壊するか。」


ルイスは、剣を強く握りしめた。


そして、彼は——

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る