『崩壊の果てに』

黒咲すずらん

第1章【崩壊の果てに】

第1話 『運命の刻印』

第一話:「運命の刻印」


──すべては生まれた時に決まっている。


「ルイス・フィオーレ、お前の刻印は『破滅』である」


神官の冷ややかな声が響いた。


ルイスは息をのんだ。周囲に並ぶ子どもたちの視線が一斉に彼へと注がれる。刻印の儀式。生まれ持つ運命が記され、未来が定められる日。誰もが期待に胸を膨らませていた。


だが、ルイスの刻印は破滅。


「……そんな、はずが……」


震える手で自らの左腕を見つめた。そこには赤黒く刻まれた紋章が浮かび上がっている。まるで呪いの烙印のように、肌に深く食い込んでいた。


「破滅……!」


誰かが呟くと、瞬く間にそれは広がっていった。


「嘘だろ……」「あいつ、もう終わりじゃないか」「近づかない方がいい」


ルイスは視線を逸らし、ただ黙って立っていた。


「運命に逆らうことはできない」


神官が無慈悲に言い放つ。


「歴史上、刻印を覆した者はいない。お前はどれだけ努力しようと、破滅する運命にある。それが世界の理だ」


頭の中が真っ白になった。幼いながらも、ルイスにはそれがどういう意味か分かる。どれだけ頑張ろうと、どれだけ努力しようと──自分の未来は決まっている。


「ルイス!」


突然、手を握られた。


「大丈夫! そんなの、気にしなくていいよ!」


セラだった。


金色の髪を揺らし、まっすぐな瞳でルイスを見つめる。彼女の左腕には、美しい紋様の刻印──「繁栄」。成功を約束された者の刻印。


「セラ……」


「運命なんて、絶対じゃないよ!」


周囲の子どもたちが冷ややかな目を向ける。神官は何も言わなかった。ただ、ルイスの顔をじっと見つめていた。


「……お前も、いつか理解するだろう」


それだけ言い残し、神官は去っていった。


ルイスは拳を握りしめた。


(こんなもの……こんなものに……従えるものか!)


しかし、彼はまだ知らなかった。


──運命に抗う者が、どのような末路を辿るのかを。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る