【更新停止】はぐれガードナー 〜至極真っ当な理由で追放されたので、反省して第二の人生歩みます〜

たべごろう

本文

プロローグ

 今思い返してみても、あっけない終わり方だった。



 俺の名前はシン。

 これといった特徴のない高校生だ。


 強いて言うならアニメオタクだってことくらい。


 特に『異世界ファンタジー』はお気に入りで、高校の進路希望調査に異世界と書いてしまうくらい大好きだ。

 もはや俺の人生の一部、と言ってもいい。


 ただの人間だった主人公が、異世界での出会いや経験を通して強くなっていく。


 そんな物語に、いつしか自分を重ねていた。



 だから、あんな無謀なことをしてしまったんだと思う。

 


 あの時、俺はいつもの散歩道を歩いていた。


 そしてふと大通りに差し掛かったとき、歩道橋の柵に立つ人影が見えた。


 そこは常に交通量が多いうえ、歩道橋はかなりの高さだ。

 落ちたらまず命はない。


 俺は咄嗟にに走り出し、歩道橋を駆け上がる。

 

 そしてそのの手を取ろうとして――飛んだ。


 空を舞う、一瞬の浮遊感。


 次の瞬間、全身に叩きつけられる衝撃。痛み。

 そこからは覚えていない。


 ただひとつだけ確かなのは――


 結局、俺はその手を掴めなかったってことだけだ。




「主人公になれるかも、なんて思わなければなぁ⋯⋯」


 そして俺は気付けばここにいた。

 辺り一面真っ白で、すぐそこに壁があるようにも、果てしなく広がっているようにも見える。


 いわゆる死後の世界というやつなのか?


「いや、待てよ」


 ふと、俺はこの景色に見覚えがあることに気付く。


 死後の世界、殺風景な空間。



 これって、異世界転生前のお決まりでは?



 俺の予想によれば、次は――



「こんにちは、シン」



 声がして振り向くと、そこにはがいた。


 純白の布を身にまとい、頭には花冠を被った金髪の女性。

 まさに女神、といった風貌だ。

 

 ⋯⋯マジか。本当に出てきちゃったよ。女神。


「⋯⋯こんにちは。その、女神さま?」

「私の名前はリーア。命の行く末を導く女神です」


 とりあえずあいさつをしてみたが、ガン無視されてしまった。


「人間、シン。あなたは------号世界での一生を、不本意な形で終えました。端的に言うと、予定よりも早く死にました」


 すごく事務的……システムメッセージみたいだ。

 

「となるとゲーム世界への転生――でも俺そんなやり込んだゲームあったっけ?」

「シン、急に訳のわからないことを言わないでください。説明の途中ですよ」


 聞こえてたのかよ。


「じゃあリーアさ」

「ですから、シン。あなたはやり直す機会を与えられました。それも、前よりずっと素敵な新しい世界で」


 ⋯⋯でも、会話はしてくれないみたいだ。もう諦めよう。


 しかしながら、この話を聞かない女神の説明は興味深い。

 新しい世界で人生をやり直す、これはまさに異世界転生そのものだ。



 俺はこれから天国でも地獄でもなく、異世界に行くんだ……!!



 そこはどんな異世界なのだろう。

 王道のファンタジー路線だろうか、技術が発達したサイバーパンク路線でもいい。でもダークな世界はできれば遠慮したいな。

 

 妄想にふけっていると、リーアさんが歩み寄ってきた。

 

「シン、右手を」


 俺は急に近寄られて戸惑いつつも、言われた通り右手を差し出す。


「あなたには私たちからささやかな贈り物があります。『絶対防護体制オートガード』の祝福は、異世界に蔓延る脅威からあなたを守ってくれるでしょう」

 

 そう言ってリーアさんが俺の右手に触れると、そこから淡い光が溢れていく。


「うおっ!?」


 光が霧散すると、右手の甲に花冠のような紋章が浮かび上がっていた。


 ⋯⋯これはきっと、俺だけに与えられる反則チート級の能力。

 異世界モノではお決まりの展開だ。


 『絶対防御体制オートガード』という名前から察するに、敵の攻撃を勝手に無効化したりするんだろうか。


 何にせよ、これは俺を主人公にしてくれる大事なピースだ。




「シン、初めは戸惑うこともあるでしょう。ですがあの世界は、来客に対して寛容ですから。心配はいりませんよ」


 リーアさんはそう言って微笑む。


 正直、俺はこの状況を楽しんでいた。


 確かに俺は死んだ。

 その事実は揺らがないし、前の人生に未練もある。


 でも俺はこれから、夢にまで見た異世界に行けるんだ。


 俺は強くなる。

 今度こそになるんだ。


 色々な場所に行って、たくさんの人に出会って、過去の俺に誇れるような新しい自分になるんだ。 


「それで――――また――そして言語などのパーソナルな部分は自動で適応してくれます――さて、シン。何か質問はありますか?」


 ぼうっと話を聞いていたら唐突に質問タイムが始まった。

 さっきまで無視してたのにと少し思うところもあるが、この機会に分からないことは無くしておかないと。


「えっじゃあ俺の」

「あと三秒ほどで転移が開始されるので、手短にお願いしますね?」


 

 ……本当に、なんなんだこの女神。



 瞬間、まばゆい光が溢れ出した。

 ふわりと浮くような感覚がしたと思うと、意識が薄れていく。

 


「⋯⋯行ってらっしゃい、シン」



 その声が聞こえたのを最後に、俺の意識は途切れた。



「今度は、間違えないようにね⋯⋯」

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