神話級の開幕と禁忌の出会いが疾走する、熱と哀しみを併せ持つ冒険譚傑作
- ★★★ Excellent!!!
神々の確執と世界の崩壊を神話調で開く導入が見事で、その流れのまま現代の物語へ滑り込む筆運びが痛快です。見どころは2つ。まず、神官見習いキプスが当番中に見た『白衣の女と一角獣』の夢──「掟を破って世界を救え」という託宣に揺れつつ、嵐の浜で漂着した少女セラナ(ムカデ女)と出会う場面。禁忌を越えてローブをどければ、濡れた髪と黒いチュニック、噴き出す海水に彼の常識が崩れ、恋と運命が同時に始まる瞬間が瑞々しい。次に、王タゲスの前で『罪』を問われたキプスを救うため、セラナが四肢をムカデへと変じて縄を断ち切る神殿脱出。信仰と政治が結託する圧に抗う肉体変化の迫力と、誰も傷つけたくないという彼の優しさの対比が胸を打ちます。神話級のスケールと、ふたりの不器用なやり取りの可笑しさが共存し、読み進めるほど『世界救出譚』が恋と選択の物語であることが腑に落ちてくる。重厚だけれど言葉は平明、次章の波がすでに聞こえる快作です。