第2話 無色の輝き

「レン・アカマキ、貴様は死んだのだ。

 貴様ができるのは選ぶことだけ。早速だが選ぶがいい。

 魂を砕かれるか、輝かせるか。神に答えを聞かせるがいい。」


…と言われてからどのくらいの時間が経ったのだろう。

今私は目の前のガチョウもとい、白鳥改め神であるマナ・マクルという鳥と食事を楽しんでいるところだ。


「いやぁすまん!足が張り付いていたとは思わなかったよ!あまりにも不敬すぎるせいで魂と身体の繋がりを切り忘れていた!まさかw靴だけ脱げて真正面に倒れるなんてwおいカーム!こいつは素晴らしい人材なのかもしれん!」

「マナ様。依頼、引き上げたのは我々だということをお忘れですか?いつもならそそくさと仕事を終わらせるのに時間を割いている理由を説明されたらどうです?」


やれやれという態度で執事、カームさんは注意をしている。

全くだ。「話をしてやろう、ついて来い」といわれ歩き出そうとしたところ足全体ではなく、靴が地面に張り付いていたせいでバランスを崩し顔面落下。死んでいるのに鼻血がでた。すごく痛い。


「あの、そろそろ説明してもらえませんか?ここの管理者だとか、魂を引き上げたとか…私が死んだ理由とか!ただただ美味しい料理に鼻を伸ばしているところを見られているだけなんですけど!?あ、ラム肉のソテーを追加でください。」

「食い過ぎだ馬鹿者。何度でもいうが目の前にいるのは神だからな。肝が座りすぎだ。」


お互い様のようだ。でも待ってほしい。カームさんの作る料理が美味しすぎるのが悪い。生前?食べたことがない料理なのだ。高級な味がする。…金を噛み締めている。

やれやれと、目の前のガ…神様が真面目な顔をして説明を始める。

神らしい態度?で語り始める。


「食事の前にも言ったが、お前は死んだ。服が濡れていただろう?恐らく水死。足を滑らせたか、何らかの要因かはがここに辿り着いたのなら確実に死んでいる。ここマグメルは死した魂が流れ着く場所だからな。それが何よりの証拠だ。」

「魂が流れつくって、私生きていた時?とほぼ変わらない状態なんだけど。」

「それは俺がそういう風に釣り上げ、サルベージしたからだな。感覚として覚えていないか?沈んでいるのに上へと推進力が働いている矛盾した感覚を。」


この鳥に会う前、ひたすら底の無い穴に落ちていた時のことだろうか。


「あれはお前が考えている通りの底なしの穴。上流から下流へ流れてきた水の溜まり場。…わかりやすく言うなら【胃】だ。お前は俺が釣り上げなければ、魂は融解し、存在が完全に消えていた。それは完璧な死を意味する。」

「溶けるまでは存在は残るってこと?じゃあ私をそこから引き上げたのには理由があってやったこと、…何で?」


目の前の白鳥は笑う。すごくムカつくドヤ顔で。


「よくぞ聞いてくれた!物分かりが良すぎて話の進みが早いぞ!やはり見込んだ魂だ。そうきてくれなければな!!」


殴りてぇ…。少々男まさりな部分がある私だが人生で初めて殴りたいと思ったかもしれない。


「色々困惑しているのはわかる。急に死んだだの、魂を引き上げただの。そんなものは今どうだって良い。上を見ろ。」


上を見上げる。空間がそういうものだからじっくり見るのは初めてだ。

満天の星空。澄んだ夜空が広がっている。輝きが汚れを許さない、ただ星のためにある宇宙のようなそんな

ただ肉眼でもわかる通り、色がはっきりとついている星がある。まばらではあるが煌々と輝く…


「魂だ。」

「えっ?」


魂?星ではなく?


「それってここで溶けた魂?」

「違うな。あれは生きている者たちの命の輝き。なんであろうと、喜びや悲しみ、信念などで色鮮やかに輝く魂の星。

その営みを星として可視化したのがこの天井。輝きを持っているものは基本的にはこのように輝き、色を失うことはない。

…だが星になっているのに色を失っているのは、《ディアラーズ》だ。星になった後にその輝きを失ったものたち。普通でればそのまま消え、冥界にくことになる。」


死ぬ前の人の魂の輝き。…人生の全盛期とかだろうか。色の失うことのない星。

それはとても美しい、活気ある人生なのだろう。輝きを持ち、死に、そのまま冥界へ。こことは別の場所へ行くのだろう。だけど、


《ディアラーズ》って…。」

「最近になって増えている事象だ。あらかた見当はついているが、なぜか若い。20代前後半の魂に多く見られている現象だ。」


…20代付近で、生きる気力がない。現代でも問題になっていることだろうと容易に想像がつく。星であると言うことは、まだ…命を立つまでには至っていないと言うこと。それらが色を失いながらも鈍く輝いている。


「命の灯火というものは生きている限り消えることはない。燃え滓であっても、輝きを放つ。美しくもあり、悲しくもある。それを見てお前はどう思う。色を持ち輝く魂ではなく、今にも消えそうな炎で色を失いながらも輝こうとする魂を。」


「…」


答えることができない。回答がないわけではない。それは私の勝手な思い込み。言ってしまったらただの善行をしたと言いふらしてるだけの迷惑な人と変わらないからだ。

私は他人とは少しずれてるんだと自覚した。

ここで出すべき回答が、感情がただの暴走を起こしてしまいそうだ。

だけど、私は


「気の毒か?かわいそうか?」


どこか悲しげに、一瞬白鳥ではない、人の顔で優しく問いただしてきたような気がした。

隣に立つ執事も、目を閉じ回答を待っているようだ。


「私は…」


でも私には見覚えがある。あの魂たちのように、諦めずにその炎を輝かせている人の姿を。


「私は、」


口を開く。その時と同じように思ったことを素直に。

語りかけた時のように。

あれ…でも…。


「私はそれを美しいと思う。たとえ生きる気力がなくても、生きている限りどんな境遇でも、その人たちの営みは美しい。」


その人…誰だっけ…。

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