頂は遙か/箭嶋仁武
先ほどの相手デュアルの攻撃を踏まえ、
「
「だな、どうする」
「左右のフェイント、振らせて断つ」
「了解」
双方1勝ずつで迎えた最終ラウンド。
「始めっ」
〈
摩擦軽減と身体操動を組み合わせて左側へと滑る、練習では何度もコケたが今回は成功。直央の意識と盾は逆側に向いていた、よって手槍には隙ができる。
〈
義芭の詠唱に合わせ、仁武は【武壊】を狙って直央の手槍の柄へと刀を振り下ろす。その瞬間、魔発ノイズをまとった手槍は直央の手を離れて落下――いや、浮遊した。糸に引かれるように、迫る斬撃から逃れるように、回転しながら沈み込み、浮き上がり。
「――っ!?」
〈盾バッシュ警戒〉
仁武の直感と義芭からの指示は同時。側面からの盾の打撃を警戒し、仁武は後ろへ跳んだ。
その読み通り、直央は盾を正面に戻していた。さらに先ほどの攻防を踏まえると。
〈盾投げ警戒〉
直央は壁盾を蹴りつけて仁武へとぶつけて来る、ならばそのタイミングが掴めれば避けやすい――と仁武は推測。それを叶えるべく、目の前の盾へと意識を集中させた。
盾が迫る。ドン、という鈍い音。盾が動く――しかし飛んでは来ない、むしろ遠ざかる。
〈違う、上〉
義芭の警告は、仁武の反射速度は、追いつけなかった。
左肩に衝撃――突き出された手槍の穂先だ。後ろに倒れ込んだ仁武の目前、直央も膝をついて着地した。
「そこまで、成斬。勝負あり」
2ラウンド取られた仁義デュアルの敗北である。対する直央は、すぐに仁武へと駆け寄ってきた。
「仁武、具合は」
「よいしょ……衝撃はしっかり吸収できてます。首とかも無事ですね」
「良かった、ほら」
直央が差し出した手に素直に甘える。容赦なく叩きのめしてくれたのも、こちらの怪我を心配していたのも、つくづく良い先輩である。
お互いの繋援士も合流したところで、終わりの挨拶。ギャラリーからは労いの拍手と、興奮のざわめき。多くの生徒にとって、見たことのない試合だったに違いない。
「お相手ありがとうございました。ところで、今の一撃は」
仁武の質問に、答えたのは義芭だった。
「盾に意識を誘導してからの、空中からの奇襲。その前は、武壊を回避するために手槍に操動魔術を掛けていましたね」
握る武器自体を魔術で操るのはスタンダードな手法だが、手が離れた状態では難度が跳ね上がる。ましてやさっきのような変則的な軌道となればより難しい、という洞察を踏まえて仁武がコメントを引き継ぐ。
「連繋でやったとすれば感覚同調が、直央さん自身であれば運動と並行しての制御力が、それぞれ凄いってことになりますが」
「正解だよ、ちなみに形式は後者だ」
「あの一瞬であそこまで制御するの、相当難しくないですか?」
仁武の質問に、直央はこともなげに答えた。
「3年からすればな。4年だったらそこまで珍しくもねえよ」
魔術高専での1年は、それだけ重い。分かっているつもりだったが、目の前にすると圧倒的な壁だった。
今の自分たちじゃ越えられないことが、ちゃんと分かった。
「ありがとうございました。今後に向けてとてもいい勉強になりました」
仁武が下げた頭を、直央は応えるように小突いてから。
「俺を倒す今後に向けて、か?」
ストレートに聞いてきた。先輩相手なら謙遜するのが筋――という場所もあるだろうけれど、この魔術高専なら。
「俺たちは。同期も先輩も他校も、全員に勝ちたくてデュアル組んでます」
「あたしたち研究と練習の成果は、信闘祭でご覧に入れます。ご期待ください」
仁武と義芭の宣言に、直央先輩は「へえ?」と眉をつり上げる。
「仁武も、義芭学生も。お前らは強いよ、3年の中じゃ別格ってくらいだ。今の試合だって俺は気が抜けなかった、出し惜しみしていたら負けてただろう。
お前らが信闘祭に向けて必死で努力したなら、今の俺らより強くなるかもしれない。けどな、」
一歩、直央は仁武へと近づく。その一言を、より深く濃く刻むために。
「本番の俺は、今の俺よりずっと強いぞ」
仁武は迷わずに答えた。
「それでこそ俺の尊敬する先輩です」
続けて義芭も意趣返し。
「本番のあたしたちは、今のあたしらよりずっとずっと強いです」
だから負けねえ、という宣言を突きつけ合って。改めて礼を言って、仁武たちは直央たちと別れた。
想定していない戦術で敗れた、という己の未熟さを。仁武は無言で反芻していたが。
「落ち込むな仁、あたしらは前進した」
義芭は対照的に、どこか不敵に語り出した。
「勝負は負けたが実験は成功だ。今のままじゃ勝てないって結論も、大事なデータもちゃんと得られた」
義芭の根はアスリートでも武闘家でもなく研究者である。つまり彼女が闘志を燃やす相手は、ライバルではなく解き明かすべき課題であり。
「勝利への仮説はちゃんとある。それに、」
未知の戦術で負かされたということは、胸躍る新たな発見なのだ。
「やっぱ面白えなデュアル・デュエルは!」
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