合戦ごっこは心を救う/箭嶋仁武

 仁武ジンブの父・武岳ブガクは任務中の負傷により魔術警備隊を名誉除隊。

 保険金や退職金のおかげで生活に困ることはなく、大勢の関係者に慕われながらの引退は華々しいものだった。また片足を失ったとはいえ、バリアフリー用の魔動器は充実しており、自宅での生活にもすぐに慣れてきた。

 となると次は再就職である。貢献を称えるように武岳には多くの職場からオファーが来ていた――のだが、武岳はどうにも積極的になれなかった。


 魔刃士という、強さの象徴のようなキャリアを歩んだ彼にとって。どんな名誉であれ、障害者として働くことへの抵抗は強固だったのだ。そうしてすることもなく家で過ごすうちに、塞ぎ込むことも増えていく。


 全国の魔術高専によるMAXウォーズの対抗戦、全高魔戦のシーズンを迎えたのは、ちょうどそんな頃だった。



 複合災害により壊滅的な被害を受けた嶺上ミネカミ県からは、多くの住民が国内各所へ避難していった。中でも最も多くの避難民を受け入れたのは、銀永ギンエイ山地を挟んだ隣県の信坂ノブサカ県である。その中には嶺上魔術高専に通っていた魔技士の卵も含まれており、彼らは信坂魔術高専に編入。

 そして、MAXウォーズの信坂代表にも名前を連ねていた。


「私たちを温かく迎えてくださった信坂の皆さんに、何か恩返しがしたい。

 何より、命懸けで私たちを救いにきてくれた魔技士の先輩方に、逞しい姿をお見せしたい。 その想いを込めて、頂点を目指します」


 そう語ったのは、嶺上出身の魔刃戦技科学生で、かつての武岳と同じ刃将を務める沙堂サドウ研護ケンゴ。当初の武岳は研護選手を「あんま立派なこと言って負けるとダサいぞ」と冷ややかに捉えていたのだが。


 彼らは逆境を跳ね返すように、奮戦し、勝利した。

 その姿は、熱闘の数々は、塞いだ武岳の心に火を点けていく。


 そもそも信坂自体、武岳の現役時代をピークに成績の低迷は続いていたのだ。地元と被災地の共闘に、信坂県の熱狂は空前の域に達する。


 決勝の日、公民館に特大情映魔器ディスプレイを設置しての応援会が開催された。仁武たちはあらん限りの声援を送り、そして勝利に狂喜した。


「私たちを守り育ててくれた全ての人に捧げるトロフィーです。

 そして、今度は私たちが人を守るという、誓いの印です」

 エースとしてチームを牽引した研護選手の言葉に、武岳は警備隊式の敬礼で応えた。

「俺もいじけてらんねえな」


 その日を境に、武岳は活気を取り戻し、再就職に乗り出した。魔術スポーツ用品のメーカーで働きつつ、時には魔獣討伐の専門家として各所に呼ばれるのが、武岳のセカンドキャリアとなったのだが。


 ともかく、仁武は思い知ったのだ。

 魔刃士をはじめとする魔技士が、人の命を守るように。

 実戦とはほど遠いスポーツも、人の心を救うのだと。


 だから仁武は、同じ家で育った彼女に訊ねた。

義芭ヨシハ、正直に教えてくれ。俺は魔刃士になれるか、俺はMAXウォーズに出られるか」

 仁武は義芭の頭脳を信用している、その答えに最も近いのが彼女だ。

 仁武は義芭の言葉を信頼している、その答えに嘘もごまかしもないのが彼女だ。


「多分、仁は魔術と関係ない道を歩む方が、手っ取り早く幸せだと思う。その体力と体格を活かした道の方が挫折も苦痛も少ないと思う。それはそうとさ」

 地元の快挙に湧く人々を眺めながら。いつになく熱を帯びた声で、相棒は語る。


「考えてるよ、なれるって。あんたの心技体を活かせる魔術で、あたしが補えばいい。そのビジョンはずっと前から頭に浮かんでる。

 考えるんだ、なるべきだって。あんたみたいな人間が魔刃士になる道はこれからの社会に必要で、その証としてウォーズは相応しい。

 願ってるよ、なってほしいって、一緒になりたいって。あたしとあんたが一番似合うの、そういう道じゃん」


 その答えを聞いた瞬間に、仁武の青春の在り方は定まった。

「じゃあ、なるか、二人で」

 

 かくして夢へと駆けだした、それから7年後の二人組デュアルは。

 信坂魔術高専の3年生に進級していた。

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